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桜の天使たち  作者: 氷雪杏
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桜の天使たち 10

 街についた三人はまず写真屋に向かった。フィルムを現像してもらう為だ。写真が出来あがるまでには小一時間かかるらしいので、それまでの時間をどこで潰そうかと話していたところ、あさみがニヤリと笑った。

「ちょっと、鍵屋についてきて欲しいんだ」

「え? まさか……」

 美和が顔をひきつらせる。

「屋上の鍵を拝借したついでに校舎と職員室の鍵も持ってきちゃった」

「えぇぇー? それって犯罪じゃないの!」

「使わなければ犯罪じゃないって」

 理屈になっているのだか、なっていないのだか判らない事を言いながらあさみはショルダーバッグから三本の鍵を取り出した。

「まぁ、スペアキーのスペアだから開くとも限らないけどね」

 美和は肩をすくめる。これ以上あさみを諌めようとしても無理な事は普段の付き合いからわかっていた。

「んじゃ、決定ね」

 あさみはとびきりのウインクを二人に投げつけた。



 鍵の複製はほんの数分で終わった。満足げに笑顔を浮かべたあさみは出来あがったばかりの鍵をバッグに入れ、改めて美和と美咲を見た。

「さて、私の用は終わったけど、これからどうする?」

 写真が出来あがるまでにまだ数十分ある。美咲がぴょんぴょんと飛び跳ねた。

「さっき走ったからお腹空いちゃった。ハンバーガー食べようよ!」

 美咲の提案通り、三人は近くのハンバーガーショップに行く事になった。

 夜も遅いからか、席はまばらにしか埋まっていなかった。三人は窓際に腰掛ける。美和はコーヒー、あさみはポテトとココア、美咲はチーズバーガーとウーロン茶の乗ったトレイを目の前に置いている。

「美咲、よくこんな時間にバーガー食べれるわね」

「えー? そういうあさみちゃんのメニューの方が実はカロリー高いんだよ」

「ほっといてよ!」

 あさみと美咲がぺちゃくちゃ喋る中、美和は無言でコーヒーをすすった。店内を見渡し、先ほど自分が雄一と座っていたあたりをぼーっと見ていた。

「あれ? 美和ちゃんどうしたの?」

 美和の変な動きに気付いた美咲が首をかしげる。

「ん、実は夕方もココに来たんだ」

「それって?」

 好奇心旺盛の瞳を美咲が輝かせる。

「雄一くんと……」

「わ、やっぱり!」

 美咲は手をブンブンと振り回す。邪魔よ、とあさみが美咲の手を振り解いて美和に向き直った。

「それってやっぱりデートなの?」

「ちょっと違うかな?」

 少し照れながら、美和はナイフを見つけた後、雄一と一緒にここに来た事を語った。

「良かったね、順調みたいじゃない。うー、私も早く彼氏欲しいな」

 あさみは眉をしかめる。慌てて美和が首を横に振った。

「違うよ、まだ彼氏じゃないって!」

 美和は少し目を伏せて黙り込む。様子のおかしい美和を心配そうに二人が見つめた。

「どうしたの? 雄一くんと何かあった?」

「ううん、そういう訳じゃないけど……なんだか少し怖いの」

「怖い?」

「えぇ」

 美和は少し間を置いて小声になった。

「私、雄一くんと一緒にいると楽しい。でも、それって本当に好きっていう感情なのかしら? 私、雄一くんを誰かに重ねてるだけなのかも知れない」

 美和の言葉に真っ先にあさみが反応した。

「あんたは生真面目だから、気になる男の子に他の男の影の代償を求めるような子じゃない事くらい知ってるわよ。あんたが雄一くんの事が気になるなら、それは素直な感情じゃないの? 私はそう思うけど」

 あさみは若干苛立っている様子だった。話がいまいちよく見えない美咲は不思議そうに首をかしげる。

「誰かに重ねてるって……だれ?」

 美咲の質問にあさみは少し躊躇しているようだったが、美和は美咲を真っ直ぐ見て答えた。

「中学の頃に気になる人いたの。でも、恋と呼べる感情も持てないまま離れちゃった。あさみは当時から一緒のクラスだったから私の事も相手の事も知ってるのよ」

 美和は強がってなのか微笑みを浮かべたが、儚くて散ってしまいそうだった。美咲はきゅんと胸が痛む。

「そっか……辛い失恋の事を思い出させちゃってごめんね」

「ううん、いいの。美咲だから教えたのよ」

「だから、美和ちゃんは今まで積極的に恋をしようとしなかったんだ……」

 美咲は顎に手をあて、一生懸命に美和にかける言葉を考えている。

「じゃあ、なおさら美和ちゃんの恋の応援をしたいな。話を聞いてると雄一くんっていい子そうだし、美和ちゃんとも合ってると思うよ?」

「ありがとうね」

 友人二人の言葉が美和にとっては何よりも嬉しい。まだ自分では気持ちに整理がつきかねているが、少しほっとした気分になった。

 あっという間に時間が過ぎ、そろそろ現像が仕上がる時間になった。

「そろそろ、行きましょうか」

 美和は気をひきしめ、キリッとした表情になる。つられて二人も心なしか緊張してきた。

 もう閉まりかけの写真屋で写真を受け取り、三人は噴水の前まで来て、ベンチに腰掛けた。

「ちゃんと写ってるかな……?」

 ごくりと唾を飲んで、写真を袋から取り出す。まずはナイフの写真が出てくる。

「ひゃっ!」

 現物を見ていなかった美咲とあさみは小さな叫び声をあげた。美和は神妙な面持ちで次々と写真をめくってゆく。ナイフの写真が何点も続いた後、最後に夜の学校の屋上の写真が出てきた。

「……写ってるわね」

「うん、ヅラだ……」

 写真には、彼女らの担任の顔がはっきりと写っていた。

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