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滅亡魔王のよちよち奮戦記  作者: 野久保 好乃
1/6

1-0-1 俺の生まれ直しが黒歴史な件



 拝啓 先に旅立ったはずの父母及び我が妻、我が部下達。

 俺は今、生まれ直して直面する今生最大の危機と戦っています。



 俺の名前はレディオン・グランシャリオ。

 つい一週間ほど前に誕生した、魔族の大家グランシャリオ家の後継にして次期魔王だ。

 ついでにこのまま普通に生きると、魔族もろとも滅亡するという運命の下にいる。

 何を馬鹿なことを、と思われること請け合いな話しだが、一回『実体験』しているので、その未来が待っているのは間違いない。


 ハッキリ言おう、今の俺は所謂「死に戻り」だ。


 魔族の大家の後継者として生まれ、十歳で当時の魔王を凌いで第百九代目魔王に就任。

 神族という、いらんことばかりする愉快犯のせいで悪の総帥みたいな扱いされた挙句、全世界を巻き込んだ掃討戦を勃発させられ無念のうちに死亡。

 世界よ滅べと全力で祈ったのを最後に記憶が途切れたと思ったら、何故か産まれた直後の赤ん坊に戻っていた。

 何を言っているのか分からないだろうが、言っている俺もよく分からない。生まれ直したらしいことは分かったのだが、頭が理解を拒絶している感じだ。


 とりあえず言いたい。

 なんで『赤ん坊』からなんだ。


 死に戻るにしても、何故わざわざ誕生直後!?

 せめて魔王就任直後あたりじゃないの!?

 それか、父母がそろっていた幼少期とか……!

 ――しかし現実はゼロ歳児である。……俺は世界にとことん嫌われているらしい。


 まぁ、いい。受け入れよう。俺は切り替えの早い男だった。

 何故こんなことになっているのかは不明だが、実際に『前世(その記憶)』を持っている。ならば、細かい事はどうでもいいのだ。

 その前世の記憶が魔族滅亡なあたりがアレだが、滅亡ルートの記憶があるということは回避手段をとれるということだろう。

 誕生直後から未来滅亡宣言とは、お先真っ暗なこと(はなは)だしいが、これを活用しない手は無い。


 ――今度こそ、守りきるのだ。

 父も、母も、妻も、側近も、俺が愛し俺を魔王と認めてくれた魔族達も。全て。


 そのためには何だってするつもりだし、どんなことにでも耐えるつもりだ。

 いや、耐えなくてはいけないのだ。

 いけないのだが――……


「レディオン!? 具合が悪いのですか!?」


 青ざめ、体を震わせる俺の小さな体に、母が必死で回復魔法をかけている。

 陽光の金をその髪と瞳にもつ絶世の美女の名は、アルモニー・エマ・グランシャリオ。現グランシャリオ家当主アロガン・グランシャリオの妻であり、俺の実の母親だ。

 ふわふわとした雰囲気そのものの優しげな美貌は青ざめ、恐怖に震えている。母がこれほど恐怖を感じているのは、生まれたばかりの俺が真っ青になって震えているからだろう。それが分かっていながら、この事態を招いている俺をどうか許して欲しい。


 生後間もない赤子が儚くなることは、俺達の世界ではよくあることだった。だからこそ、皆赤子に万が一が無いよう注意を払って育てる。

 だが、気を付けているだけではどうしようもないこともあるのが常だ。

 とはいえ、今はそんな命の瀬戸際などでは無い。

 ――別の意味で瀬戸際ではあるが。


「どうしましょう……!? 状態回復魔法も効かないし、治癒も効かないわ……!」


 涙を浮かべる母に申し訳ないと思いながら、俺は体を震わせていた。

 脂汗で体がじっとりする。嗚呼、立って歩くことが出来れば、今の苦境など簡単にクリアしてしまえるというのに。呪わしい。今の俺はまだ身じろぎぐらいしか動きがとれないなんて!


「エマ様……」


 母の傍に控えた黒髪の美女が思案気に声をかけた。クロエという名の侍女だ。母の乳姉妹で、親友といってもいい間柄でもある。

 前世の俺自身は顔も知らなかった相手だが、少々無視出来ない『縁』のある侍女でもあった。

 ああ、生まれたての俺の産湯で洗ってくれたのも襁褓を着せてくれたのも臍の緒を切ってくれたのも彼女だったりするが、もっと重大な縁が……って、痛たたたたた


「ああ! クロエどうしましょう! レディオンが苦しんで……!」

「エマ様……少しだけ、ご無礼をお許しください」


 あまりの腹痛(・・)にビクンビクンしている俺に、ついに母が泣きだし、クロエが決意を瞳に秘めて身を乗り出した。


「レディオン様」


 よ、よせ、クロエ。痛。何をするつもりだ!?

 やめるんだ。痛たた。俺は病気じゃない。怪我でもないとも。痛い。違うとも。


 じりじり近づくクロエに、俺は目を見開いて震え上がった。腹が痛いが、それよりもこれから先のことが辛い。本当に辛い。正直、前世の恨み辛みすら脳裏から吹き飛ぶレベルで辛い。それが毎日ちょくちょく発生するものだから、最近の俺は生きているのが非常に辛かった。精神的に。


「大丈夫です。怖くありませんよ」


 困ったような優しい笑顔でクロエが俺の頭を撫で、お腹を撫でる。痛い。やめたまえ。俺のお腹は今大変な事態なんだ。いや、大変なのは胃じゃなくて腸というか、そもそも痛みは頑張って堪えすぎた生理現象のせいなのだがよせやめろおいまて腹はよしてっ


「ちゃんと、出してしまいましょうね?」



 いやあああああああああ!!






 ※ ※ ※







 ――後の事は、言いたくない。






○とある夫婦の深刻な会話○


「あの子は体に何か重大な病気を抱えているのでしょうか……」

「なにを言う! アルモニー。あの子が健全な体を持って生まれたことは医術者達が断言している。そんな恐ろしいことはありえん……!」

「ですが……毎回、うんちを出すのに死にそうな苦悶をしているのですよ……!?」

「わからん……! 腸も健康そのものだと太鼓判を押されたというのに、いったい何が……!?」

「私、心配で心配で……」

「大丈夫だ。何があっても大丈夫なように、常に私達が傍についていよう。あの子がうんちをしているところを、ちゃんと見守ってやらねば……!」

「ええ……!」




「奥様……旦那様……レディオン様、前より一層うんちするの嫌がってませんか?」

「「何故!?」」


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