前編
最近流行りの乙女ゲームの小説を書いてみたかったのですが、何故だが乙女ゲーム風になってしまいました。
これは作者の力量が足りないのか、好みが出てしまったのか……
楽しんで頂ければ嬉しいです。
アイフォルン王国王宮内にある庭。
そこにフワフワと癖のある金髪に青の瞳をもった天使の様な愛らしい少年と艶のある黒髪に吊り上がった紫の瞳のキツイ印象を抱かせる様な美しい少女がいた。
お菓子の乗ったテーブルを囲んで座り、何やら笑顔で話している二人の元に色とりどりの花束を抱えた銀色の髪に橙の瞳をした凛々しい顔つきの少年が走ってくる。
「オーランド様!こちらでいかがでしょうか!」
銀髪の少年は椅子に座る少女ではなく、向かいに座る金髪の少年へと花束を掲げて見せる。それを見た金髪の少年は眉を顰めた。
「ガイル……そんなんじゃ駄目だ。もっと豪華じゃないと僕は満足できないよ。シャーロ、君もそう思うだろう?」
「……ルド様、あまりガイルを虐めないであげて」
「なっ!シャーロはガイルの味方なのか!?」
心底驚いたという表情を見せたオーランドは、すぐにふて腐れたように怒り出す。
オーランド・アイフォルンはとても我儘な子供だった。欲しいものは手に入るまでせがみ、嫌いな者は近づけない。やりたい事しかやらない。それは第一王子として甘やかされたが故なのかもしれないが、六歳になった今でも変わる事はなく、周りの者や両親でさえ困らせていた。
天使のような可愛らしい顔のオーランドを『天使の仮面をつけた悪魔』と言う者さえいた。
そんなオーランドの婚約者になったのがハリスフォット公爵の娘シャルロッテ・ハリスフォット。キツイ見た目で誤解される事は多いが、優しく頭の良い少女で、見た目共々将来が楽しみだという声は絶えない。
そんな二人と一緒に遊んでいるのが宰相であるバイセロン公爵家の長男ガイレル・バイセロン。二人と同い年で、凛々しく整った顔立ちの彼はオーランドの我儘を懸命に熟そうとする素直で真面目な性格の少年だった。
「も、申し訳ございません、オーランド様。もう一度探してきます」
「その必要はないわ、ガイル」
「なぜそんなことを!僕は君のために言っているんだ!」
そう、オーランドはシャルロッテにあげる花をガイレルに探させ、文句を言っているのだ。そんなオーランドに呆れたような困った顔をシャルロッテが向けた。
「そのお心は嬉しいです。ですがルド様、その様な振る舞いはもうお止めになりませんか?」
「……どういう事だ」
「ルド様が勉強熱心なことを、わたくしは知っています。そんなルド様ならわかるはずです。王族が守るべきものは何ですか?」
「何を言っている?そんなの国やそこに住む国民だろう」
何が言いたいのかわからず、困惑しながらも告げるオーランドに、よく出来ました、と言わんばりの優しい笑顔を向けたシャルロッテはそのまま話を続ける。
「その通りです。わたくし達は民のおかげで欲しいものを手に入れる力があるのです。だからこそ、王族だけでなく貴族は、その力を己の我儘ではなく民のために使うべきなのです。全てを我慢しろとは申しません。しかし、あれもこれもと我儘を言ってはいけません。何をおいてでも欲しいものを手に入れる為に他は我慢する。それがこの地位にいるわたくし達の義務でしょう」
「……絶対に欲しいもののために他は我慢する」
「えぇ、ルド様ならできますわ。わたくしはそう信じておりますもの」
離れたところで三人を見守っていた侍女や騎士は、この日の事を忘れないだろう。なぜなら、この日は『王子の生まれ変わった日』となったのだから。
****
貴族が教養や語学、歴史など国を支えるために学ぶ場所として作られた学校。ここには十三歳から十七歳までの貴族が通っている。
もちろんシャルロッテも例外なく通っており、彼女の婚約者である第一王子オーランドや幼馴染みのガイレルもいる。
最高学年となったシャルロッテは期待通り、成績優秀で美しい皆が憧れる女性へと成長していた。ただ、立派な貴族らしい考えときつい印象を与える顔立ち故に親しい友人は少なく、孤高の花とも呼ばれていた。
そんなシャルロッテは自分の置かれた状況に大変困惑していた。もちろん、淑女として顔に出すようなヘマはしないが。
「シャルロッテ様。わ、私、シャルロッテ様にお願いがあって来たんです」
「何かしら?」
「も、もう、私をいじめるのは止めていただけませんか?」
目の前で緑の瞳を涙で濡らし震えているストロベリーブロンドの可愛らしい女性がシャルロッテに訴えかける。しかし、彼女は一人ではない。
その後ろで女性を心配気に見つめていたのは、騎士団長の息子オレリス・ヤウンディ。魔術師長の息子アイセル・デイモット。歴史ある伯爵家の息子ウィルス・リベラル。幼馴染みのガイレル・バイセロン。そして、婚約者オーランド・アイフォルンという、そうそうたるメンバーだったのだ。
「わたくしが貴方をいじめていると?」
「は、はい。最初は私の勘違いだと思っていたのですが……」
「アリスは貴方が彼女のドレスを破ったり、悪い噂を流したり、終いにはアリスを階段から突き落とした事を必死に隠していたんだ!」
「俺たちが聞き出さなければアリスはずっと黙って我慢するところだったんですよ?」
「こんな非道なやり方をして良いと思ってるのか!?」
「みんな落ち着いて!」
アリスという女性の言葉に被せるように、怒りを露わにしてシャルロッテに畳み掛けてくる男達をアリスが止める。
「私はシャルロッテ様に止めてくれるようお願いに来ただけなの。そんな風に責めて欲しいわけじゃない」
「アリス……」
「なんて優しいんだ」
「大丈夫、きっとその願いを叶えるよ」
シャルロッテは盛り上がる彼らに呆れを覚えつつ、視線をオーランドに移した。今では幼い頃の天使のような可愛らしさはなりを潜め、男の色気を醸し出す美しい青年へと成長したオーランド。彼は学問だけでなく、剣術や魔法を完璧に熟す立派な王子となっていた。アイフォルン王国の未来は安泰だと言わせる程に。
しかし、ここ三ヶ月程学校中を騒がせる噂があった。オーランドがアリスの取り巻きになったという噂である。マニロエス男爵の娘アリス・マニロエスは学校内でも有名な女性であった。彼女の可憐で美しい容姿だけでなく、地位も高く女性に人気のある男性達が彼女を取り合うように常に側にいたからである。
あまり興味のなかったシャルロッテもさすがにオーランドとガイレルの噂には驚いた。オーランドとの仲は良好で、愛を囁くような関係では無いけれど、シャルロッテは結婚して国と彼を支えて生きていくものだと理解していたし、なによりオーランドの事が好きだった。
そんな彼が取り巻きになったと噂がたったのである。信じられない思いで確認しに行けば、そこにはアリスに優しげに笑いかけるオーランドの姿があった。ガイレルまでもが楽しそうに話しているのである。
シャルロッテに襲いかかった絶望の渦は計り知れない。それでも何とか立っていられたのは貴族としての意地と女としてのプライドのおかげだった。
「わたくしはアリス様とお話しした事もなければ、いじめなどした事もないですわ。誰かと勘違いしているのではなくって?」
「そ、そんな……」
「何てことを!?アリスは今までの事を水に流しすと言っているのになんという言い草!」
「では証拠はあるのですか?わたくしがやったという証拠は?」
「アリスがやられたと言っているではないか!こんなに優しい彼女が嘘をつくと言うのか!?」
彼女が優しいかなど関係なく、ちゃんとした証拠を出せと言っているのに訳のわからない事を言うな、と内心腹を立てながらも、アリスを観察するシャルロッテ。しかし、真っ直ぐ見つめるシャルロッテを睨んでいると勘違いした男達がアリスを守ろうと前に立ちはだかる。
「アリス様、わたくしが本当にやったとおっしゃるのですか?」
「……はい。私とオーランド様が仲良くなった頃からですが。私も悪いのです。婚約者のいるオーランド様と仲良くしてしまったから……ですが、いじめていい理由にはなりません」
「そうです!貴方はアリスに謝るべきだ!」
「そうだ!謝れ!」
だからやってないと言ってるではないの!笑顔が剥がれ落ちそうになるシャルロッテが口を開こうとした瞬間、先に話し始めた者がいた。
「そうだね、アリス。君の言う通りだ」
「あ……オーランド様」
先程まで一言も口を開かなかったオーランドである。優しくアリスに笑いかけたオーランドに熱のこもった声をあげるアリス。
そんな二人を見たシャルロッテは思わず顔を歪めた。