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今日から学校と仕事、始まります。①莞

林と木野内

作者: 孤独

『内野手、はやし まこと

『内野手、木野内きのうち 仁志ひとし



当時、高校ナンバー1スラッガー。林。

当時、大学ナンバー1遊撃手。木野内。


2人は年こそ離れていたが、将来の野球界を支えるであろう器を入団当初から秘めていた。


「正直、2人は別格だったな。間近で2人を見てた俺が言うから間違いないよ」


その2人に1年遅れてプロ入りを果たした社会人からの男。たき 清吾せいご。足と守備を買われての入団であった。

林とは今でも同じ球団であり、木野内ともなんだかんだで今は同じ球団。


「成績はぶっちぎりで林だったが、全盛期の木野内も凄かった」

「アホ!今でも俺は全盛期だ!滝ちゃんよー!」

「じゃあ、大したことねぇーな」

「同意」

「なんだと!?川北!林ちゃん!!」


久々の、”シールズ・シールバック”の1位単独に飲み会を開いたベテラン軍団。まだ続くペナントレース中での疲労を癒すための、酒であった。

今のチームは、新藤と河合、神里、久慈、井梁、沼田などの20代後半の選手達が活躍を続けており、彼等の全盛期と言って良い状況であった。

林、木野内、滝、川北といった30代後半~中盤の連中の全盛期はもう5年以上も前に過ぎ去っている。今の連中が優勝争いに関われていることが羨ましく思っていた。


「そんなに凄かったのか?」


監督1年目、まだこのリーグの過去を知らない阪東もビールを一杯飲みながら、彼等の話に興味を示した。

就任1年目ながらこのシールバックの快進撃を支えているのは、この阪東であることをチームの全員が知っている。

酒をガンガン飲みながらも、素面同然の滝が分かりやすく阪東に語ってくれる。



「林は高卒1年目に開幕1軍。1年目から本塁打を20号。規定には届かなかったけど打率も3割を超えていた」



細かなことを言わなくても、凄いと呼ばれる理由が分かるデータ。高卒でそこまでの打力があったとは恐れ入る。



「未だに林だけが入団から現在の14年目まで2桁の本塁打を記録している」


現在はシールバックの、三塁手の暫定レギュラーでいる林。衝撃的な打棒は今は影を潜めているものの要所要所で結果は出しており、今は打撃よりも鉄壁の名が相応しい守備でチームの失点を防いでくれる。

滝は林の凄さだけを言っていたが、木野内は見下す気持ちたっぷりに林の悪かったことを言いふらした。


「ただよー。入団当時の林ちゃんの守備ってなー。チョー酷かったんだぜ、阪東」

「そうなのか?(今シーズン、70試合以上出場し、無失策の林だぞ)」

「ボールは零すわ、送球は荒れるわ、酷くて投手とファンから苦情ばっかだった。中学生以下だったぞ」

「嫌なことを言うな。木野内さん。中学生に失礼だ」



林自身も当時の守備の酷さには納得していた。プロ入り前は守備が大嫌いであった。なにせ、ボールが来なければ特に何もしないからだ。

そして、来たら来たで速い打球に怯えていて腰が引けていた。プロの打球はあまりにも凄かった。こんな林にサードはとてもじゃないができないと言われ、コンバートの案も出ていたのだが……。林はプロ入りまでサード以外を守ったことが一度もなかったそうだ。


「連携とかできないし、フライの予測も下手だった。ボールも逸らすことが多かったら、ファーストも無理だった」


結果。サードを守る以外の選択肢がなかった。指名打者制度がこのリーグにないことが決め手でもあっただろう。


「今も昔も、無口で無愛想だからな。人への文句だけは一流だった」

「川北さんほど熱くなれないだけですよ」


打撃が確かであったが、それ以外はとてもプロとは言えなかった当時。無口な性格もあって、チーム内での交流も少なかった。

今でも話すのは特定の人物のみと、寂しい奴である。

一方で対照的なムードメーカーな木野内。


「林ちゃんに比べてこの俺はな!」

「キャンプから故障ばかりで、1年目は1軍にすら上がっていなかったな」

「う、うるせー!滝ちゃん!!」


自信満々で武勇伝を語ろうとしたが、とても恥ずかしいことを知られてしまった。野球ファンが、木野内と林が同期入団だということを勘違いする理由は、木野内のスペ体質のせいであった。



「ああ、そうだよ!俺がやっと1軍に上がれたのは3年目だよ!みんなもう木野内を忘れていた時だよ!」


ジョッキ一杯のビールをガブガブ飲んで、辛い事を消したい木野内。

もし怪我が続かなければ林のように暴れていたはずだった。


「だがな、4年目以降はスタメン。全試合出場!7年目には林ちゃんよりも先に、タイトル獲得。リーグの打点王だったんだ!」


大学時代からユーティリティな能力であり、打撃、守備、走塁は一級品。

二軍で育成されたことも含め、木野内は様々な場面で活躍を広げていた。5年連続打率3割。打点王を獲得した時の出塁率はなんと4割8分という、恐るべき出塁率も誇っていた好打者に成長していた。



「ポジションはショートからサードになっていたけどな」

「そこは言うなよ、川北さん」

「6年目は腰を痛めて、ファーストにされてたっけ?」

「それも言うなよ、滝ちゃん」

「今は外野にコンバートされてる」

「林ちゃん。そこまで言わないでくれ。気にしているんだぞ、俺……」


木野内はとても対応力があり、色んなポジションを経験。結果として、長く生き残れる選手としての道が開けたのだろう。

シールバックでは外野を主に守っているが、時には内野にも木野内が現れる。決して広い守備範囲ではないが、どこでもキチンとした守備をこなしてくれる。

便利屋として、木野内は素晴らしい選手としてチームを支えていた。



「木野内はどーでもいいや、林がどーしてこれほどの守備を身につけたかが気になる」

「俺の話は無視かよ!?阪東!!」


入団1年目から20本塁打という豪打。そんな選手が今まで一度もタイトルを獲得したことがないという事実。今では完全な守備職人。


「練習した」


林は阪東の疑問に簡潔な答えを述べた。しかし、それだけでは足りないだろう。

隣にいて、ずーっとチームメイトであった滝がその理由を教えてくれる。


「2年目辺りからレギュラーで、サードに入ってて。頻繁に打球を飛ばされたんだ」

「チームの一番の穴だったからな」



とりあえず、サードに打っておけばヒットになりやすい。林ゾーンとも呼ばれ、敵チームはガンガンサードに打球を飛ばし続けた。


「それが5年ぐらい続いて、林がいつの間にか鉄壁の守備とまで呼ばれるようになったんだ」

「その通り」


それ練習じゃなくて、試合じゃねぇーか。木野内と川北。そして、阪東も思ったことだろう。

いくら打撃が良いからって試合で守備練習をしちゃいけない。ペナントレースは本番なんだ。


「理由はそれだけど。守る内にアウトをとる楽しさも知った。練習、真面目にやった」

「そのフォローを聞けてよかった」


3年目ぐらいから守備練習ばかりやっていた。打撃は高校時代が頂点だったと林は思っているし、プロに入団してからの打撃はまったく成長していないとも自覚している。

もし、彼が打者としてずーっとひたすらに行けばどんな大打者になっただろうか。



「そんな未来はどーでもいい」



守備も、打撃も、プロとしていられるところにいるのだ。林は入団こそしたが、木野内よりも遅くにプロ野球選手となれた。


「帰る。嫁が待ってる」

「早いんじゃないか?林……」

「そー言えば林ちゃんは20歳で自分より年下の女優と結婚して、すでに6人も子供作ってるんだぜ。夜のバットは野球のバットよりも……」



バギイイィィンッ



木野内、林にビール瓶を頭に叩きつけられ5針を縫う怪我。3日間、ベンチスタート。余計なことを言うと、先輩だろうと容赦はしない。

そんな性格であるからこそ、今でも超高校級レベルの打撃がプロに通用するのだろう。

林誠。無口だが、家族を大切にする良い選手であり、男であった。


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