これからのこと
昨晩、ルナールとヴェラを除き、ヤンが宿に忍び込みケーキを作っていたなど思いもしないテンネ達は呑気に朝食を食べていた。
「今日の朝ごはんも美味しいね〜」
幸せそうに朝食を頬張るテンネにケンタは真面目な顔で話しかける。
「なあテンネ。これからの方針なんだけどな……」
そう言いながら、ケンタは大きな地図を取り出す。
「今、俺たちがいるのがこの街なんだけど、多分あの変態魔王の城が、だいたいここら辺な。で、どうやって行くかを決めようと思うんだが……」
指先で今の街から予測される魔王の城を繋ぐケンタ。
「随分と北の方にありますのね」
横から地図を覗き込んだアリスが、顎に手を当てて考え込む。
「これだと、ここの洞窟を通るか……この山を越えるのが妥当ですわね」
「私はどっちでもいいよ〜。違いとか分かんないし〜」
お茶をすすりながら答えるテンネ。そんなテンネを見て、ケンタはややげんなりした様に溜息をついた。
「あのなぁ……これはとっても重要な事なんだぞ?? そもそも、洞窟を通るとしたら、灯りを灯す魔法が必要だし、薄暗い事に変わりはないから、敵に襲われた時に対応が遅れるし、狭いと満足に動けないから戦力も落ちる。かといって、山は気温が下がるし、洞窟よりも時間がかかる。険しい道も多いから、お前が危険に晒される」
つらつらと言葉を並べるケンタ。
「ふーん……」
「あんだけ長文で説明させといて、反応薄っ!?」
「テンネ様は物事を深く考えないお方ですからね」
うふふ、と笑うルナール。
「テンネ様、どうやって城まで行くか決めたら、昨日のうちに用意しておいたケーキをお渡ししますから、頑張りましょうね」
「ケーキ!?」
テンネはぱっと目を輝かせると、真剣にどちらのルートを行くか、考え始める。
「薄暗いのが駄目なら、何人かで灯りの魔法を使えばいいんだよ!」
ぽん、と手を叩いてナイスアイデアとばかりに言うテンネ。
「それだと咄嗟の時に他の魔法に切り替えるのに時間がかかるだろう? テンネが灯りの魔法を使ってくれるんたらともかく……」
「そうは言っても、練習はしてるけど、照り焼きチキンしか出てこないんだよぅ……」
天然はしょんぼりとうな垂れると、そっと呟いた。
「ケーキ……」
その言葉を聞いて、ヴェラは昨夜の出来事を思い出し、複雑そうにテンネを見つめるが、ふと思い出したように呟いた。
「そういえば、海底都市ってありませんでしたっけ?」
「海底都市??」
「ケンタさんならご存知だと思ったんですが……確か、地図でいうと……ここです。この辺りに海底都市があるんですよ」
「そんな所があったのか……!」
目を丸くするケンタ。
「次の街に大きな港があるんですけど、そこから海底に降りられるんです。どんな所かは私もよく知りませんけど、最近人気だそうですよ」
「すごーい! ねえケンタ! 海底から行こうよ!」
テンネは興奮気味に、両手でケンタの手を握りしめる。
「んー……まあ、人気ってんなら安全って事だろうし……テンネがそう言うなら」
「やったぁー!!」
「海底都市を選ぶか……。よし、俺はこの事を上に報告してくるから、後は貴様らに任せる。いいな?」
「はいはい。お姉さんに任せなさいな」
「面倒……だけど、命令なら、やる」
テンネ達から少し離れた席。ごく普通の旅人の格好をした3人が険しい表情で、テンネ達を見つめていたことを、まだ誰も知らない。