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新たな仲間

 魔王との戦いの翌日。テンネ達は近くの街を拠点に今後の作戦を練っていた。

「なあテンネ」

 ケンタは美味しそうに一口サイズの鳥の照り焼きを頬張っているテンネに声を掛ける。

「ふぁい? ふぁんはほう?」

「食ってから喋れ」

 ケンタは口の回りをてかてかと光らせながら答えたテンネの頭を軽く小突いた。

 もぐもぐもぐもぐ、ごっくん。

「なあに?」

「やっぱさ、あいつの城を目指すんだよな?」

「もちろんだよ! ヤンを止めなくちゃ!」

 意気込むテンネの口周りを拭いてやりながら、ケンタは少し言いづらそうに話を切り出した。

「なあテンネ。魔法の練習をしないか?」

「まほー?」

「正直、今のままじゃ俺はお前を守りきれないかもしれない。だから、テンネにもさ、魔法を使えるようになってて欲しいんだ。気休めでも無いよりはマシだろ?」

「……魔法の練習ならずっとしてるよ?」

「……え!?」

 驚くケンタをよそに、テンネはえっへん、と胸を張った。

「だってずっとケンタに守って貰うとかやだもん! 私だってもっと強くなりたい!」

「テンネ……」

「でね、やっぱり初歩からかなって思って、光を灯す魔法を練習してみたの!」

「おおお!」

 テンネの嬉しそうな口調に、もしや成功したのでは、とケンタの表情も明るくなる。そんなケンタに、テンネはほんわかとした笑顔でこう言った。

「でも失敗しちゃった!」

「やっぱりか!!!」

「後一歩ってところで小さい鶏の照り焼きが出てきちゃったんだー」

「さっき食ってたのはそれか!! てかどうやったら初歩中の初歩のその魔法で鶏の照り焼きを召喚できるんだよ……」

 がっくりと項垂れるケンタ。

「あ、でもね! もう少しでできそうなんだよ!」

「……本当か?」

 疑わしげにケンタがテンネを見たとき――


 バーン!!!


 突然部屋の扉がぶち破られた。

「ケンタ様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 扉をぶち破り部屋に入ってきた人物は、嬉しそうにケンタに駆け寄った。彼女の動きに合わせて栗色の長い髪がふわりと広がる。

「うげぇっ!! アリス!? お前なんでここに……!」

「ああ、お会いしたかったですわ!」

 嫌そうな顔をするケンタに、アリスと呼ばれた少女は思いっきり抱きついた。

「ケンタ様ってば、何も言わずに出て行って私を置いて行ってしまうんですもの! もう寂しくて寂しくて……」

「お前に会いたくないから置いてきたんだよ馬鹿野郎!! なんでばれた……!」

「私が教えてあげたのー」

「お前かあああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

「あ痛っ!」

 ニコニコ顔のテンネを、ケンタは思いっきりどつく。

「なんで教えちゃったの!? お前、アリスを置いてきた理由覚えてるよな!?」

「もちろん覚えてるよ? アリスちゃんを、私たちの戦いに巻き込まないようにでしょ?」

「分かってんのかよ! じゃあ何で呼んじゃったの!?」

「アリスちゃんねー、全部知ってたんだよ。仮にもアリスちゃんってば名家のお嬢様でしょ? 国のお偉いさんが話しちゃってたみたいでね……」

「は……?」

 テンネの言葉に、ケンタの視線はゆっくりとアリスに向かう。

「正確には国のお偉いさんがこそこそ話しているのを盗み聞きいたしましたのですけど」

「ドヤ顔で言う事じゃねえよ!!」

「お二人とも、酷いですわ。こんな大事な事をたった二人で成し遂げようだなんて……特にケンタ様! 私という嫁がいながら! 他の女性と旅なんて!!」

「お前と結婚した覚えはねえ!!」

「私の脳内では結婚しました!!!」

「お前しか認めてねえじゃねえか!!!」

 ケンタは全力でツッコミを入れる。

「パーティーでいつも孤立していた私に、お二人は声を掛けて下さいました。あの時の喜びは今も忘れられませんの。特にケンタ様。貴方は私にとって命の恩人ですわ。刺客に襲われたときに、助けて下さいましたから」

「アリスちゃんは助けてもらわなくても十分強かったから、刺客の一人や二人、倒せたかもしれないねー」

 ぶち破られ無残な姿になった扉を見つめながら、テンネはぼそりと呟いた。

「とにかく、私はケンタ様がどんなに反対なさっても地の果てまでお供いたしますわ! 私の、初めてのお友達と、初めての夫ですもの!!」

「だからお前とは結婚してねええええええええええええええええええええええええええええ!!」

「ねえケンタ。いいでしょう? 何処までも憑いてくるって言ってるんだから。一緒に旅しようよ!」

「テンネ、人を幽霊みたいに言わないでくださる?」

「……ああもう! 分かった! 勝手にしろ! その代わりどうなっても知らないからな!」

 ヤケクソ気味に答えるケンタを見て、アリスの顔が明るくなる。

「ありがとうございます! 一生お供いたしますわ!」

「ちょっ! だから抱きつくなって! 痛い痛い痛い!!!」

「あー! ケンタだけずるいー! 私もアリスちゃんにぎゅーするー!!」

 テンネは頬を膨らませ力一杯アリスとケンタを抱きしめに掛かる。

「こらテンネ! お前まで抱きついたら首が締まるから離せ! 後手を拭け! 照り焼きのソースが服に付くだろおおおおおおおおお!!」

 ケンタの全力のツッコミが、空しく部屋に響いた。

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