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海の中の街で

 ばたばたと宿を出発してから、約二日後。一行は海底都市へ降りられる港へ来ていた。見渡す限り広がる青の傍らに、なめらかな曲線を描く建物がある。そこには、鯨型の潜水艇がいくつか待機していた。

「ずいぶんと賑わっているのですね」

 アリスの言葉通り、港にはたくさんの人々がいた。皆、潜水艇の切符を買ったり出発までの時間をつぶしたりしている。海底都市が最近人気だというのは、どうやら本当らしい。観光感覚の人々が大勢いるとあって、移動手段も安全なのがありがたい。テンネ達は切符を買い、潜水艇に乗り込んだ。


「見て見て、ケンタ! ヘンな魚がいるよ!」

「本当だ。なんだありゃ」

 テンネがはしゃぐのも無理はない。海底都市へ降りる潜水艇は上半分が透明な窓になっており、海の中が見渡せるのだ。テンネに限らず誰にとっても、その景色は見たことないものであり、驚きの連続であった。

「見てください! あんなところに建物が……!」

 ヴェラが前方を指さした。そこには確かに、海底にそびえ立つ数々の建物があった。魔法で固定された空気が、ドーム状に街を覆っている。海底都市は、浅い大陸棚に広がっていた。近づくにつれはっきりする規模の大きさに、誰もが息を呑んだ。


 潜水艇はチューブ状になった水路を通り、街の中に入っていく。ザバンと水上に出て、一行は海底都市に降り立った。

「ねえ、お魚料理は?」

「お前はそればっかりだな……」

 開口一番に魚料理が食べたいと言い出すテンネに、ケンタは呆れ顔をする。そんな彼らを見て、アリスが微笑んだ。

「いいじゃありませんか、ケンタ様。それに、私も何か食べたいですわ」

「もうお昼時ですもんね」

「では、私は良さそうなレストランを探して参りますわ」

 ルナールは一礼して人混みの中に消えた。程なくして、ルナールは美味しいと評判の店を見つけてきた。そこは鮮度に気をつけ腕のいい料理人が作った魚料理が自慢、らしい。メジャーなものから見たこともない珍味まで、各種取り揃えられている。運ばれてきた料理を、テンネは嬉しそうに頬張った。

「けんふぁーひほいへはんははいほ?」

「口に食べ物が入ってるときは喋るんじゃない」

 頬張りながらもごもごと話そうとするテンネをケンタはたしなめた。テンネはリスのようにほっぺを膨らませていたが、ごくんと飲み下した。

「ほらお嬢様、口元が汚れていますよ」

 そう言って、ルナールがテンネの口元を拭う。相変わらずのテンネの下手さに、ケンタはため息をつく。

「だいたい、なんで白身魚のホイル焼きなんて頼んだんだ」

「だっておいしそうだったんだもん」

「世話する方の身にもなってくれ……」

「美味しいよ?」

「そうじゃなくて! ソースたっぷりの料理だとべたつくだろ!」

 声を荒げるケンタときょとんとしているテンネ。ケンタはさらに語気を強める。

「照り焼きチキンだって綺麗に食べれないくせに、なんで頼んだんだ、このバカ!」

「ひっどい! バカって言う方がバカなんだよ!」

「そうですわ! 好きなものを食べて、何が悪いんですの!?」

 テンネの反論に、アリスが乗じる。バチバチと飛び散る火花が見えそうなくらいだ。どうしていいかわからず、ヴェラはオロオロとしている。一方で、ルナールは明るく微笑んでいた。

「ところでお嬢様、何かおっしゃろうとしていたのではありませんか?」

 彼女の落ち着いた物言いに、テンネは頷く。

「うん。ケンタが急いでこの街に行きたがってたから、どうしてなのかなって」

 彼女の言葉に、ケンタは驚いて目を見開いた。テンネはなおも彼に詰め寄る。

「ねえねえ、教えてよ」

「それは――」

 ケンタは言いにくそうに目を逸らす。すべて話すべきなのか、曖昧にぼかすべきなのか。そう悩むケンタに刺さるような視線が集中した。やがてあきらめたようなため息が吐き出される。

「テンネ、お前言ってただろ? あのへんた――いや、ヤンは何歳なのかって」

「? うん」

 唐突に切り出された話題に、テンネは疑問符を浮かべながら頷いた。ケンタはそれを確認してから続ける。

「ここ海底都市は貿易が盛んで、いろんな場所から情報が集まる。だから、もしかしたらその秘密がわかるかも知れない」

「秘密って?」

 テンネが繰り返す。ケンタは一呼吸おいてから、そうだと答えた。

「“魔王”の記録がいつからあるのか、それがわかればおおよその年齢も予想できる。それに、『元々魔王で、何か理由があって執事になった』かどうかもわかるはずだ」

「そっか、ヤンのことを調べるんだね!」

「ああ。それに、もしかしたら――――魔王は年をとらない(・・・・・・)のかもしれない」

 重く呟かれた言葉に、その場が凍りつく。特にアリスやヴェラは顔を引きつらせていた。

「年をとらないって――まさか、禁呪ですか!?」

「あくまでも可能性の話だ。調べてみないことには何とも言えない」

 甲高い声を上げるヴェラを、ケンタは優しくなだめる。アリスは顎に手を当ててなにやら考えていた。やがて控えめに口を開く。

「禁呪のこととなりますと、かなり機密事項になっていると思いますよ?」

「えー、じゃあ調べられないの?」

「多分、普通なら見られませんわ」

 テンネが頬を膨らませると、アリスは意味ありげに微笑んだ。それに気づき、ケンタが眉をひそめる。

「何か方法があるのか?」

「ええ。確か情報を保管する図書館があったはずですわ。そこには非公開の資料もあるそうです。一般人は見えないと思いますけど、王子であるケンタ様や貴族であるテンネや私がいればなんとかなると思いますわ」

 そういうわけで、一行は図書館へ向かって水路を渡っていった。

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