夢……?
あったかい。ぽかぽかとした陽だまりで、日向ぼっこをしている気分だ。
ゆっくりと目を開いてみれば、何処か見覚えのある少女が1人、花畑の真ん中で楽しそうに何かを作っている。すんなりと理解した。
「おーい!」
向こう側から1人の少年が親しげに少女の元にかけよってくる。年は互いに同じくらいだろうか。
「あ、ーー!」
少女は少年の顔を見ると、嬉しそうに微笑み、名前を呼んだ。が、肝心の名前はどういうわけか上手く聞き取れない。
「何やってるんだ?」
「お花の首飾り作ってるの。出来上がったらーーにあげるね」
少女は得意げに作りかけの首飾りを見せると、いそいそと作業に戻った。
「よし、じゃあ俺がーーに作るよ」
少年はそう言うと、見よう見まねで首飾りを作り始める。やはり名前は聞き取れない。
「いや、その必要はない」
いつの間にか、少女の横に、1人の青年が立っていた。少女達よりも少し年上に見える。
「おまえ、いつからそこに!?」
少年が驚いたように作りかけの首飾りを落とす。
「ほらーー、これをあげよう」
青年は少年の事など一切気にかけず、色とりどりの花でできた首飾りを、そっと少女にかけた。
「いいの? ありがとう!」
少女は嬉しそうにそれを受け取ると、満面の笑みを浮かべる。
「てめぇ……!」
悔しそうに青年を睨みつける少年。それを涼しげな顔で受け流す青年。
「お前はいっつもそうだ! いい所だけ持って行きやがって!」
「ふん、言ってろ。俺とお前は違うんだよ」
青年は勝ち誇ったように不敵な笑みを浮かべているのに、何処か寂しそうにも見える。
知っている。この表情を。
まるで突然冷水でも浴びせられたような衝撃。思わず彼女達から視線を逸らした。俺は確かに、あの表情を見たことがある。あの少女も少年も、青年も、何処かで見たことがある。
いつ? 何処で?
分からない。
どうでも良くなって先程の少女達に視線を戻す。
少女が、血まみれで倒れていた。
少年が、血まみれで倒れていた。
青年だけが、呆然と立ちすくんでいた。
ピクリと、少年が僅かに動く。ゆっくりと顔を少女に向け、涙と血で汚れた唇を動かす。
やけに唇の動きが鮮明に見える。無意識にその動きを真似した。
「……て……ん……ね……」
テンネ。確かにあの少年は声にならない声でそう言った。そうか、これは夢か。夢だ。
記憶が、途絶える