姉と弟と謎と
目印の木の枝があった所から数メートル程進んでみるが、次の目印が出てこない。
「ってことは、本当に近い所に居るはずなんだけど……」
よく目を凝らして弟の姿を捜すが見当たらない。
「……姉さん」
「ぬわぁっ!? びっくりした!! もう、気配消して後ろに立つのやめてよ!」
突然後ろから声をかけられて飛び上がる。
「気付かない方が悪い」
「そりゃそうだけどさぁ……ただでさえ影が薄いのに意識して気配消されちゃあ気付かないよ……」
「でも……勇者は気付いた」
更に文句を言おうとした私に、弟が少し申し訳なさそうに、呟く。
「ばれたの!?」
「会話を聞き取ろうと思って、少し近づきすぎた。ごめん」
「顔、見られた?」
「それは、大丈夫だと思う。ちゃんと隠れてたし、ナイフ一本飛んできただけ」
まさかナイフを投げてよこすとは勇者も物騒なもんだ。まあしかし、今まで見てきた限り勇者は随分とあの聖女様を大事にしていたようだから、神経質になるのも無理はないだろう。私だって可愛い弟を守るためなら何でもやっているだろうし。
「怪我はない?」
「平気だよ。今あいつらは少し開けた場所に出ちゃったから、シルビアに追わせてる……けど、あまり長時間だと勇者に見つかるかもしれないから、先回りしよう」
弟の示すシルビアとは綺麗な白い小鳥のことだ。尾行が難しくなったときに対象の頭上を飛んでもらったり行き先を示してもらったりするのだ。先へ進みながら、弟が分かった事を報告してくれる。
「盗み聞きできた範囲で分かったのは、勇者が聖女様が狙われてるって勘づいてること。逆に、聖女様は何にも気付いてないみたい。さすがに勇者も何で聖女様が狙われてるかまでは分からないみたいだったけど……」
「よくそれだけ分かるわね……」
全てを聞き取れたわけではないだろうに、そこまで把握しているとは頭のいい弟だと改めて思う。
「姉さんは……大丈夫、だった?」
感心していたところで、弟は少し心配そうに私を見上げた。
「姉の心配をしてくれるなんてお姉さん死ぬほど嬉し……」
「何も収穫なかったとか言うなら、姉弟の縁切るよ?」
この子はどれだけ私と姉弟の縁を切りたいのだろうか。
早く早くと急かすような目で見つめる弟に、得意げな表情で返す。
「謎を持ち帰って参りました!」
「別に謎はいらないよ。解明されたのを持ち帰ってよ役立たず」
「流石に泣きそうだよ……まあとにかく聞いて?」
目尻に浮かんだ涙を拭って、私はさっきあった事を弟に話し始めた。