姉弟、働く
砲弾の飛んできた場所から少し離れた草原。強く吹く風の音に紛れて、遠くからひゅるひゅると砲弾が飛んでくる音が聞こえる。
「随分と遠い……向こうの街に近い崖の上だ」
弟は目を閉じ、場所を特定しようと耳を澄ませる。
「向こうの街って言うとちょうど聖女様達が来た方向だねぇ。逆戻りかー。か弱い乙女にはちと遠いなぁ」
冗談めかしてそう言うと、弟は真顔で私を睨みつけた。
「姉さん……ちょっと黙って」
苛立たしげにあからさまな舌打ち。
「なによ、随分とご機嫌斜めじゃない」
「何処かの誰かさんが目立つようなことするから。絶対勇者のやつは僕らに勘付いて……っ!」
ぐちぐちと続けようとした弟の声が止まる。次の瞬間、ドォン、という微かな砲弾の発射音が立て続けに聞こえた。
「精度の高い大砲……、崖のぎりぎりの所に大砲を置いてる。この砲弾の量と発射の速さから考えて人数は最低でも50人はいると思う。それから……着弾した時に鉄の破片が弾け飛ぶ砲弾を一つ発射させてる……」
すらすらと正確に言い当てて行く弟の耳の良さに舌を巻く。私だって大体の場所は特定できるが、こんなに正確にはできないし、そもそも砲弾の発射音の僅かな違いは分からない。
「って、鉄の破片が弾け飛ぶやつは流石に見逃せないわよね」
「8秒後に飛んでくるよ」
「オーケー、その身を守りたまえ」
飛んできた砲弾に向かって、予め用意しておいた魔法をぶっ放す。掛けたのは対象を結界で包み込む防御の魔法。あれで街に着弾しても鉄の破片は飛び散らないはずだ。
「完全に監視対象を殺しにきてる……強行派で間違いない」
「そうね。全く、なんで上が仲間割れするかなあ……」
「仕方ないよ。あの聖女様を生かすか殺すかでこの後の世界が変わるかもしれないって、お偉いさんが言ってたし」
「細かい事教えてくれない癖に汚れ仕事頼んだりするような奴らだものね。どうせ魚は頭から食べるか尻尾から食べるかで喧嘩してるようなものでしょ」
「いや……姉さん、それは違うと思う」
弟に真顔で否定されるとはなかなか辛いものがある。
「じゃ、そろそろ行ってくるよ。流石にこれ以上砲弾の工作を続ければ勇者達に怪しまれちゃうしね」
「分かった。僕はあいつらを見失わないように追いかけてくるから……」
「ん、お願いね。そっちにも多分強行派がいると思うから、気を付けて。へましないでよ?」
「姉さんこそ……」
「お姉さんの心配をしてくれるとは優しい弟だこと」
微笑みながらそう言うと、弟も、そっと微笑んで――
「……へましたら姉弟の縁切るからね」
「とっても厳しいね!!」
ついツッコミを入れるが、その時にはもう弟の姿はなかった。
「さて……私も一仕事しますか」
あの可愛らしい聖女様に怪我させたら上司達が煩いもの。