――コレ以上僕ニ近付クナ
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博の手から放たれたナイフは目標に寸分たがわず打ちこまれ、固い物が砕けて飛び散る音が室内に響く。
その音を聞きながら博は後ろを向き、明を引き連れてそのまま歩き出した。
それにより拒絶の範囲から出た音色の体が戒めを解かれ、糸を切られた操り人形のように床に崩れ落ちて倒れる。
そしてすぐに起き上がり、叫ぶ。
「ちょっと待ちなさい!!」
●
音色の叫びを、明は聞いた。
「……どういうことよ!? ナイフが外れたことに気付かないわけないでしょう!? なんで殺さないのよ!?」
そういう音色の指差す先には壁に半ばまで突き刺さったナイフがあり、その下の床には砕けた壁の破片が散らばっている。
……まぁ、疑問に思わないはずがないよねぇ……。
ナイフが刺さっているのは、本来ならば彼女の頭があった場所から数センチずれており、当たる瞬間を見ていた博がそれに気が付いていないはずがない。
それにも関わらず、博は自分を連れて出ていこうとした。それが不思議なのだろうし、許せないのだろう。
「殺せって言ったでしょ! なんで外したのよ!?」
そう叫ぶ音色に、博は振り返らず言う。
「……そう言い張るのなら、せめて涙を流さないようにする訓練ぐらいしてきてください」
その言葉に音色はあっけにとられたように表情を無くす。
数瞬後、彼女はあわてて目元をぬぐい、湿り気があることを確かめた音色は顔を赤らめて、
「――じゃあなに? 女の涙に負けたって訳? ずいぶんとお優しい事ね!」
「別に、それだけが見逃す理由じゃありませんけどね。だいたい、いきなり『殺しあえ』なんて言われて本当にできるわけないでしょう。だから僕はもう少し様子を見る事にします。このゲームで、僕は一体どのように動くべきか、と」
静かに言った博のセリフに、音色は『はっ!』と鼻で笑いながら、言う。
「随分と悠長なこと言ってるじゃない。そんなこと言ってる間に殺されるわよ?」
「そうなったらそれまでだと思ってあきらめますよ。『僕はこの世界に拒絶されたんだ』ってね。他の人を拒絶してるんですから、自分が拒絶される覚悟ぐらい決めてます。……じゃあ、もう僕たちに手を出さないでください。次はこうは行きませんよ?」
そう言うと、博は自分を促して出入り口のほうに向かって歩いていく。
後ろから『待ちなさい!』という声が聞こえたが、気にせず進む。
自分が前を歩き、博がそのあとに付いてくるという状態で、もし今音色が銃を撃ってきても博がいるから拒絶されて自分まで弾丸が届くことはない。
だから、後ろから音が響いても、視界の端を何かが通っても、目の前に見える扉の周りの壁に穴が開いても、特に動じることはなかった。
「――待てって言ってるでしょう……!」
振り向いて、博の体ごしに見た彼女の顔は、怒りに歪んでいた。
叫びを向けられた博は『はぁ……』と息を一つ吐き、音色の方に体を向けた。
「せっかく生き残ったのに、なんでまた死に急ぐんですか?」
「ふざけないで! こんな気味の悪い生き残り方なんて嫌なのよ! ……本当の理由を言いなさい! なんで私を生かしておくのよ!? そんなことしたってあなたには何の得もないはずでしょう!?」
「……別に、大した理由じゃありません。ただの気まぐれです」
「――っ! ふざけたことを――」
また叫ぼうとした音色は、しかし博の言葉に止められる。
「――わかっていないようですね。僕は見逃す、といっているんですよ?」
「……は? 何言ってんのよ、私は別にそんなこと――」
「僕たちを騙したことも、僕の思考を勝手に決め付けたことも、僕たちに武器を向けたことも、僕に許可なく近づいたことも、一瞬でも僕の心を理解した気になったということも、全部全て例外なく不問にする、といっているんです。だから――」
――コレ以上僕ニ近付クナ。
彼は僕に背を向けていた。だから、どんな表情だったのかはわからない。
でも、その声は、とても冷たく、重い物だった。
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僕の言葉にうなだれ、座り込んでしまった音色さんを置いて、僕と明君はこの建物の出入り口に向かっていた。
これ以上彼女と一緒にいる意味はないし、あれだけの銃声が鳴り響いた場所であることから、この建物は注目を集めているだろう。
……速く移動しないと、残党狩りに会う可能性もあるし……。
戦いで負傷、あるいは疲弊したところを襲うのは常套手段だし、僕だって機会があれば迷わず実行する。
そんな考えを持っているので、そうしようとする人をとがめるようなことはしないが、かといって無抵抗に襲われたいわけでもない。
だから逃げる。
……今なら、彼女を囮にできるかもしれないし……。
敵と鉢合わせする可能性も考慮して、僕が先行して歩き、その1メートルほど後ろから明君がついてくる。
……一応後ろも『拒絶』の範囲内みたいだし、後ろから襲われてもこれなら大丈夫だろう。
そんなことを考えながら急いでいると、後ろから声がかかった。
「ねぇ、ヒロシくん~。なんで彼女を見逃したのぉ?」
ああ、そのことか。
「……さっきも言った通り、単なる気紛れですよ。大した意味は有りません」
「……ほんとにぃ? 確かに殺す理由もないかもしれないけどぉ、生かしておく意味もないよねぇ? むしろぉ、生かしておいた方が僕たちにとって不利になると思うんだけどぉ?」
「……まあ、そうなんですけどね。そうしなかった理由はちゃんと有りますよ。――一つは、彼女の態度です」
「? 態度ぉ?」
「ええ、彼女は自分が死ぬ、という時、すぐに自分の死を受け入れて覚悟を決めました。僕としてはもう少し惨めな命乞いをしてほしかったんですが、彼女は涙を一筋流しただけでした。これでは殺しても詰まりません。だから生かしました。潔く死のうとした人を生き残らせて生き恥を晒させる。そうしたほうが面白い表情を見られますからね。実際、彼女の顔はかなりいい物でしたよ。これだけでも生き残らせた後のリスクを帳消しにできますね」
「ふうん。……でぇ、他の理由はぁ? 『一つは』ってことは、まだ他にもあるんでしょ~?」
「……ええ、もう一つあります。――僕は、あの神が許せません」
「……。どうしてぇ?」
「僕が忘れていた、忘れていたかった、思い出したくもなかった欲望を、思い出させてくれたからです。この欲望は、僕がだいぶ前から抱え、しかし無理やり押し殺してきたものです。最近はもうほとんど思い出すことも無かったのに、それをあの神は思い出させた。……許せません。こんなことをしてくれたあの神には、もう一度会って文句を言ってやりたいんですよ。拳を叩き込みながら、ね」
「……それでぇ?」
「……だから、そんな気に食わない神の言いなりになって、人を殺すなんて嫌なんですよ。僕が彼女を殺さなかったもう一つの理由は、神への嫌がらせです。僕は、あの神を困らせてやりたいんです。だから彼女を生かし、彼の思惑から外れるような行動をしようと思ったんです。いわば、神への小さな反逆。……たった、それだけの理由ですよ」
「ヒロシくん……」
その言葉に、明君は僕の名前を一言つぶやくとしばし黙りこみ、
「……最後の二言からそこはかとなく厨二臭がしたけどぉ、大丈夫ぅ? 発症してない~?」
「まず突っ込むところがそこですか? ……ええ、大丈夫です。自分でも最後のは無いなという自覚がありますから、厨二じゃありません」
その言葉に、明君は安心したように一息つくと、
「へえぇ、そうなんだぁ。……まぁ、ヒロシくんがそう言うならぁ、そういう事にしておこうかなぁ」
「ええ、ぜひそうしてください。……逆に聞きますが、明君はどうして僕について来るんですか? 根本的に不利になると思いますが」
僕の能力は戦いに向いていない。
確かに防御力はかなりの物だが、それだけだ。
現時点で欠点はいくらでも思いつく。
さらに、僕は僕の性格上、多人数での協力が困難だし、協力者ができたとしても選別する必要がある。
好きになれない人は拒絶してしまうし、そもそも協力したいとも思えない。
どう考えても僕と一緒にいることは不利にしかならないだろう。
「そうだねぇ、でもぉ、ボクはヒロシくんについていくよぉ。そっちの方が面白そうだからねぇ」
「……良いんですか? 僕はいつか、明君の事も拒絶してしまうかもしれませんよ?」
「今は拒絶してないでしょぉ? だったら別にいいよぉ。それにぃ、ボクは『人』との付き合いには頓着しない方だしぃ、ヒロシくんが選んだ人なら大丈夫だと思うしねぇ」
「……そう、ですか……。物好きですね、明君は」
「あははぁ、そうかもねぇ」
お互いに顔は見えず、しかしなんとなく今明君が浮かべている顔が頭の中に思い描ける。
明君もそうだったらうれしいな、と思いつつ先を急ぐ。あまりぐずぐずしてはいられないのだから。
「……さて、次の拠点はどんなところにしましょうか」
「そうだねぇ、レストランなんかいいんじゃない~?」
「……料理は自分で出せばいいんですから、そこに行っても意味ないでしょう……?」
そんなことを言いながら早足で歩いていると、
「――待ちなさい!!」
大きな声と共に、駆け寄ってくる姿があった。
その姿は、僕たちから数メートル離れたところで立ち止まる。
急いで来たからか肩を上下させ、息を荒くしている彼女に、僕は先ほどまでの楽しげな表情を消して話しかける。
「……まだ何か用があるんですか、金乃宮 音色さん?」
●
時は数分間さかのぼり、そこは先ほどまで博たち三人がいた部屋。
いた、と過去形であらわされる通り、そこにはつい今しがた出ていってしまった二人はいない。
いるのはただ一人、部屋の真ん中に座り込んだ音色のみだ。
彼女は数十秒間うつむいていたが、ふいに右手を掲げると拳銃を出し、その銃口を自分のこめかみにあてる。
そのまま引き金に力を籠めようと唇を噛みしめた時、ふとあることを思い出した。
そのまま数秒間考え込むと、右手の銃を消し(いらないと思ったら簡単に消えた。今まで出した物も同じように消えた)、立ち上がると出入り口に向かって走り出す。
自分を放っていなくなってしまった二人を追いかけるためだ。
あの二人はおそらく外に向かっているので、急げばこの建物の中で捕まえられるかもしれない。
もし間に合わなくて外に出られてしまっても、数分ならばまだ間に合うはずだ。
そう考えて、音色は足を動かす。
急がなくては、という思いから、歩みはいつか走りになり、気付けば全速力で出口に向かっていた。
あの二人を見つけた時に一度は通った道なので、迷うことはない。
急げども急げどもなかなかその背中は見えず、自分の記憶が確かならばもう出入り口は近いはずで、もしかしたら、という思いが頭をよぎる。
それでも『大丈夫だ』と根拠のない言葉を自分に信じ込ませ、残り少なくなった角を曲がると、
「(――いた!!)」
少し先にいる2人を見つけて、思わず声が出る。
「――待ちなさい!!」
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乱れた息を無理矢理整えて、金乃宮 音色さんは僕たちに告げる。
「私の話を聞きなさい! ……いえ、違うわね……」
一度目を瞑り、そして真剣な目で僕たちを見据えて、
「私の話を、聞いてください。お願いします」
……へぇ、そう来るんだ……。
ほんの少しだが彼女の評価を上方修正し、それでも何とか無表情を貫きながら返答する。
「――その言い方なら、まあいいでしょう。話を聞かせていただきます」
一瞬だけ安堵した表情を見せる金乃宮 音色さんに、明君を背後にかばいながら、僕はさらに続けて言う。
「ただし、手短にお願いします。……ここはあまり安全ではありませんから。――それで、何の御用ですか? まだやろうっていうのなら、今度は容赦しませんよ?」
「私の油断を突いて勝ったぐらいで調子に乗らないでちょうだい。……別に再戦希望じゃないわ。さっきも言った通り、話をしに来たのよ」
金乃宮 音色さんは僕たちに少しだけ歩み寄ってくる。
先の言葉で表情は多少不機嫌そうではあるが、その姿に先ほどまでの殺気に満ちた気配は見受けられない。
そのことに少しだけ安堵しながら、それでも気を抜かないようにして、3メートルほど前に立った金乃宮 音色さんを見据える。
「それで、話とはなんですか?」
「あら、ちゃんと聞いてくれるのね、ありがとう」
「無駄な話を並べるようなら時間の無駄なのでさっさと行かせていただきます。その際はついてこられても困るので拘束してこの建物の入り口に放置させて頂きますので、ご了承ください」
その言葉に、彼女は露骨に顔をゆがめて、
「それは遠慮したいわね。殺されるとか以前に私の貞操が危ないし。……それにまあ、貴方たちが急いでいるのもわかるわ。あれだけの銃声が鳴り響いたんだから、ここで戦闘があったことは馬鹿でもわかる。それに恐れをなして逃げてくれる人たちばかりならいいけど、生き残りを狙う『狩人』は必ずいる。――だからこそ、私からの提案を聞いてほしいの」
「……言ってみてください。その内容は?」
「――私と、手を組まない?」
その言葉は、僕がなんとなく予想していた物だった。
だが、その提案に簡単に乗ることはできない。
「……なにを言っているんですか? いきなり襲ってきた相手を仲間に引き入れるなんて、そんな危ないことをすると思っているんですか?」
僕が僕らしくあるために放った『拒絶』の言葉にも、簡単に受け入れてもらえるわけがないと思っていたのであろう彼女は表情を変えず、
「まあそう言わないで、最後まで聞いて。そのうえで判断して頂戴。大体、私が貴方たちを襲ったのはこういうゲームだから。やらなきゃやられるんだから出会いがしらでもためらってられないでしょう?」
その通りだ。僕も同じ立場ならそうする。だからと言って簡単には許せないが、まあ生き残っているのだし今はよしとする。
「話を戻すわね。貴方たちのこれからの戦い方の方針は、敵の攻撃を『拒絶』で防ぎ、その隙にナイフなんかを飛ばして攻撃する、って感じでしょう? 貴方……、博くんの能力的に、接近戦は不可能でしょうし」
「そうですね。僕の『拒絶』は嫌った対象にのみ働く斥力です。その特性上、戦闘中に相手に接近するためには一時的にでも拒絶を解除、つまりは敵を嫌いではないという状況に持って行かなければなりませんからね。そんなこと、僕の性格では無理です」
「……やっぱりそうなのね。まあ、それを除いても、あなたたちの戦い方は攻守ともに完璧に見えるし、実際に守の方は完璧よ。だけど問題は攻の方」
「? 何か問題あるのぉ? 結構強力だと思うんだけどぉ?」
それに付いては予想がついている。自分でやってみて、実感したことなのだから。
「確かに当たれば強力よ。実際に喰らった私が言うんだから間違いない。でも――」
「――有効射程距離と、命中精度の低さ、そしてそれに伴う威力の低下、ですか?」
僕が重ねた言葉に、金乃宮 音色さんは『へえ……』とつぶやき、
「よくわかってるじゃない。さすがね」
当たり前だ。これから付き合って行かなきゃならない能力なのだから、できることやできないことの把握は必須だろうし、歩きながらでもそれはできるのだから。
「……? どういう事ぉ?」
「この能力で物体を打ち出した場合、ある程度の初速が付きますが、射程距離と威力の点で銃についてははるかに劣ります。近くにいる相手には効果は高いですが、7、8メートルも離れれば効果はほとんど見込めません。失速、落下してしまいますからね」
「命中精度についても同じ。この人の能力ははじくだけであって、小さなものを正確に打ち出して当てることは本来の使い方じゃない。だから何百回と撃って感覚を掴まない限り、狙ったところに叩き込むのは至難の業」
僕の後ろから聞こえてくる疑問の声に僕が答え、それに引き継ぐように金乃宮 音色さんの言葉が続く。
「しかも飴玉やナイフの形状が本来狙撃用の弾丸には向かない不安定なものであることも考えると、どんなに練習したところで安定しません。実際先ほど飴玉を撃った時も、本当なら彼女の口の中に叩き込むつもりだったのですが、額にあたってしまいましたし」
最後のセリフに、彼女は歯がへし折れる姿を想像したのかかなり嫌そうな顔をしたが、気を取り直したのか話を続ける。
「……でもまあ、自分の能力に対する分析がよくできているわね。話が早くて本当に助かるわ。要するに貴方たちには『決定打』がないのよ。それじゃあこの先、貴方たちがこのゲームに対してどんな結論を出そうとも、その結論を貫き通すための『力』が足りなくて簡単に潰されるわ」
……まあ、それが実感できているからこそ、仲間をもう一人ぐらい探そうと思ってたんだけど……。
「だからこそ、さっきの私の提案に行きつくのよ。私には『銃』という力がある。遠距離にも十分通用する力がね。どう? お得だと思わない? 今ならその力が手に入るわよ?」
「……僕たちのメリットはわかりました。ですが、あなたのメリットは何ですか? それがないと安心できません。いつ貴女に後ろから撃たれるかわかったもんじゃありませんからね。だから、貴女が僕たちの仲間になると見せかけて……、という常套手段を発動させないという保証を示してください」
そう言った僕に対して、彼女は少し口ごもると、
「……実際にやりあった貴方たちならよくわかると思うけど、私には防御能力がほとんどないの。懐に入られたらいっかんの終わり」
攻撃に特化しすぎて防御能力がないという、僕と真逆の状態であると、彼女は自身の分析を語る。
「その点、博くんの能力と私の能力の相性は完璧よ。下手に身を隠すと撃ちにくくなるけど、貴方の拒絶の中にいれば、相手の攻撃は届かないけど私の攻撃はし放題」
下手な壁はこちらからの射線もふさいでしまうため、攻撃時に身を乗り出したりしなければならないのが欠点だが、僕の拒絶は単なる力場なので一方から攻撃し放題だ。
「……以上の理由から、私が貴方に危害を加えることはない。身を守るすべがなくなるから。同様に、貴方のお友達……、明くんにも危害は加えない。そんなことをしたら貴方に嫌われちゃって守ってもらえなくなるから。少なくとも、私たちが最後の三人になるまでは、このギブ&テイクは十分に成り立つ。だから、私はそれまで貴方たちを裏切らない。……これでどう?」
……ふむ……。
「……確かに、理にかなってはいますね……。――明君はどう思いますか?」
「ボクは良いと思うよぉ。人数が多いに越したことはないしぃ、彼女はちゃんとした『人』だと思うしねぇ」
……まあ、大体は予想通りか。最悪、裏切られた瞬間に彼女の事は嫌えるから害はない、と考えると……。
「……そうですね。では、金乃宮 音色さん。僕たちは貴女の提案を受け入れ、協力関係を結びましょう」
その言葉に、彼女、音色さんは安心したように肩の力を抜くと、
「そう、ありがと。……それじゃあ、先を急ぎましょうか。ここにいると危ないのでしょう?」
「ええ、だいぶ時間を食ってしまいましたし、そうしましょう。明君も、行きますよ」
「うん~、わかったぁ」
全員の意思が固まったのを確認すると、音色さんは率先して出入り口に向かいながら、
「じゃあ、さっさと落ち着くところを見つけましょうか。そこで今後の事をゆっくり話し合いましょう。…………ケーキでも食べながら」
微妙な空気を落としていった。
……………………………………え?
その一瞬だけ、世界が止まったような気がした。
「…………はい?」
「…………ケーキぃ?」
その反応に、音色さんは顔を真っ赤にして、
「なっ、何よ!? 話し合いに甘味とお茶はつきものでしょう!? そっ、それにほら、動き回ったから糖分も摂取しなきゃいけないでしょう!? だったらちょうどいいじゃない!! そうでしょ!? ね!?」
……もしかして――、
「音色さん。もしかして、僕たちに近付いた本当の目的って、明君の出すスイーツなんじゃ……?」
「なななななな、何のことやらワカラナイワ!! そそそそ、そんなわけないじゃない!! 撃ち殺すわよ!?」
……うわぁ、わかりやすい……。
「……そんなことをしたら、明君は何も出してくれなくなると思いますけど、それでもしますか?」
「――っ!! ば、馬鹿ね、何言ってんのよ、冗談に決まってるじゃない! 私から持ちかけた提案を私が破ったんじゃ、神に申し訳が立たないわよ!」
この時、僕たち二人は同じことを思った。
((ああ、この人はもう僕たちを裏切れないな……))
「……ちなみに、この世界の神はあの変なのなんですけどね」
「ああ、あれはどうでもいいわね……」
その言葉には、僕も同意する。
ともあれ、彼女の性格を確かめるためにも畳み掛けるように質問を重ねる。
「というか、そんなにケーキが食べたいんですか?」
「べ、別にそんなことはないわよ!! 甘い物なんか別に好きじゃないもの!!」
「……本当ですか……?」
「何よ!! 疑うの!?」
「いえ、別にそんなことは――」
「ねぇ~、早くいかないとぉ、危ないんじゃないのぉ?」
明君のその言葉に、僕は優先事項を思い出し、
「ああ、そうでしたね。じゃあ行きましょうか。せっかくの提案ですし、新しい拠点に着いたら『今後についての話し合いwithケーキ』を行いましょうか。……ああでも、音色さんの分はいりませんね。甘味は苦手だそうですから」
「そうみたいだねぇ、わかったよぉ」
僕たちのその会話に、音色さんはあわてながら、
「ちょっと待ちなさい!! なんで私の分を出さないのよ!?」
「今さっき『ケーキを食べたいのか』って聞いたら『そんなことない』って言ったじゃないですか」
「ぐっ。……で、でも、みんなで話し合うのに私だけ好き勝手言って和を乱すわけにもいかないわよね。だからどうしてもって言うのなら食べてあげなくも――」
「――別に無理しなくてもいいですよ。僕たちはそんなことは気にしませんから」
僕の告げたにべもない言葉に、音色さんは『あ~』とか『う~』とかうめき声をあげ、ついには真っ赤になりながら銃を出して僕に突き付けながら、
「あーもう! そんなメンドクサイ問答はどーでもいーからさっさと食わせろよ!! 食べさせろ!! 食べさせてよ!! 食べさせて下さいお願いします!!」
「ついに恥も外聞も理性も投げ捨てましたね? というか銃を突きつけながら言うセリフにしてはだんだん腰が低くなってますね。ついでにその裏人格、闇音色って呼んでも良いですか?」
「誰が闇だぶち抜くぞコラ!!」
「どう聞いても今のセリフは闇に属すると思うんですけどね……。ともあれ、さっさと移動しましょうか。なんだかどっと疲れましたし」
「疲れた時には甘い物が一番よ!!」
なんかもう、いろいろ台無しである。
「はいはいそうですねー。ともあれ、まずは条件のいい拠点を探さないといけませんが、何か意見は有りますか?」
「まずはぁ、比較的安全な場所を探さなくっちゃねぇ」
「そうね、とりあえずの条件としては、広くて見通しが利く場所が近くにあって、バス・トイレがあって、雨風がしのげる場所、ってとこかしらね」
「この空間に雨が降るのかはわかりませんが、まあそんなところでしょうね。それと、生活雑貨の置いてあるところが近くにあると良いですね。洗面用具やら着替えやらも必要でしょうし。特に音色さんには」
「そうだねぇ。一応女の子だしねぇ」
「一応って何よ一応って!! 360度どこからどう見ても立派な女の子じゃない!!」
「そうですね。中身はどこに出しても恥ずかしい立派な乱射狂ですけどね」
「何か言ったかゴラァ!!」
銃をさらに強く突きつけられるが、本当に撃てるとは思えないので気にしないことにする。
「……少なくとも、立派な女の子は『ゴラァ』なんて言いながら人に銃口を向けたりする機会は一生ありませんよ。……まあ、とりあえずはデパートか何かを探しましょうか。見たところ、一般的な日本の都会をイメージした世界のようですし」
「そうだねぇ、じゃあ行こうか」
「……とりあえず、一番危険な音色さんは僕たちの前を歩いて前方の警戒をしてください。僕は真ん中で二人の護衛を、明君は僕の後ろで背後への警戒をしてください」
「……なんだか釈然としないけど、わかったわ」
「了解ぃ」
「探すのは敵の影と拠点です。とりあえず大きな建物をめざして歩いていきますが、その途中でも何かを見つけたら言ってください。……それじゃあ、行きましょう」
そう言って皆で頷くと、僕らは言った通りの並び方で出入り口から出ていった。
さあて、この先どうなることやら……。
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