がやがやうるさいモノローグ
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「……音色さん」
「なぁに?」
「…………当たってますが?」
「そりゃそうよ、当ててるんだもん♥」
「………………離れてくれませんか?」
「それはダ~メ♥」
「……………………なんでですか?」
「だって私、今とってもドキドキしてて、もうこの気持ちをどうしたらいいかわからないんだもの……!」
「それはおそらく気のせいです。若気の至りってやつです。今勢いに任せて行動すると後々後悔することになるやつです」
「大丈夫よ、一回だけだから。あんまり痛くしないから!」
「欠片も説得力ないですが!?」
「……博君が悪いのよ? 私にあんなことするんだもの、私がこんなに熱くなったって、仕方ないでしょう?」
「それについては心の底から謝罪しますから、だから落ち着いてくださいお願いします音色さん!!」
「いい加減に諦めなさい、博君。男だったらガタガタ言わずに黙って受け入れなさい。女の子に恥をかかせるものじゃないわ」
「『恥の多い生涯を送っています』を地で行ける音色さんが何をおっしゃ――落ち着きましょう、話せばわかりますから、離してください」
「もう駄目よ。絶対に離さないし、話してもあげない。……だって――」
「――私がシャワー浴びてる時に飛び込んできて、私の裸を見た貴方を、この音色さんが生かしておくと思う……?」
「それについては不可抗力じゃないですか!! だから早く僕に突き付けているその銃を下してくだあいたぁぁあああああ!?」
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僕が明君、音色さんと出会ってから――つまりはこのゲームが始まってから――五日が過ぎた。
その間、僕たち三人はずっと本を読み続けて知識を仕入れ、そしてそれらを元に戦法を組み立てていくという毎日を過ごしている。
驚くべきことに、最初は無謀でしかないのではないかと考えていた男二人に女の子一人の共同生活はうまくいっている。
僕と明君が、わざわざ音色さんに手を出そうと考えるほど趣味は悪くないというのも理由のひとつだが、それに加えてもあのお嬢様の順応性は高かった。
明君のおかげで、『食』に関しては好きなものを好きなだけ食べることができるため充実しているが、それ以外の『衣』と『住』に関しては、そこまで良いとは言えないのが現状だ。
いくら専門店の入っているデパートだからといって、そろっているのはお嬢様御用達の高級店とは比べ物にならないほど品質の劣る『庶民服』ばかりであるし、睡眠は手ごろな毛布に三人で包まってとっている。
明君はともかくとしても、音色さんは三日以内に音を上げるだろうと予測していたのだが、僕のその予想は見事に覆され、もはや日常になりかけているこの生活はいまだに続いている。
共有の毛布からもそもそと這い出し、大量生産の廉価な服を身にまとって甘味をたらふく喰らう、そんな毎日を、音色さんは苦もなくこなしていた。
一度気になって聞いてみたが、『ないものをねだっても仕方がないでしょう? だったら今あるものを最大限に活用し、現状に感謝をささげるべきだわ』と言い切られてしまった。
そんなこんなで、昨日も一昨日も僕が夜の見張りを引き受けたからか、二人の顔色もそこまで悪くない。
強いて言うのなら、体の節々が固まってしまうため、朝起きたときにいやそうな顔をしているぐらいだ。
一度、音色さんの入浴時間に悲鳴が聞こえたため駆けつけてみたら、イニシャルGが出たといって騒いでいる音色さん(もちろん全裸)とばったり遭遇するというトラブルに見舞われたりもしたが、おおむね問題はない。
Gを明君がすたすたと歩み寄って叩き潰したため事なきを得た後、意外と着やせするタイプだったらしい音色さんから鬼のような折檻を受け、生き物はいなくとも例のGは存在することと、ゴム弾は相手の命を奪わずにダメージを与えるのに最適の武器であることを全身で理解した僕達がいたりもしたが、やっぱりたいした問題はない。
そう、この日に起きたアレに比べれば、ぜんぜんたいしたことではない。
僕らの生活を根本からひっくり返してしまった、あの出来事に比べれば――。
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