8話:小休止
帰宅した古刹を待っていたものは。
「これだ…っ!これが欲しかったんだー!!」
沖継の大歓声に、周りの本の山が崩れた。
山にされている本も結構な学術的価値があるものだ。しかし当の所有者は、それらを蹴散らさんばかりにはしゃいでいる。
高い高いされる子供のように投げ出される短刀が天井に当たりそうで、古刹の両手が宙をさ迷った。
「それで、公爵にはお会いしたかい?」
沖継は息を整えながら尋ねた。
50歳に近いはすだが、童顔で背が低いためそうは見えない。それを丸っこい眼鏡がさらに際立たせている。
「公爵にはお声を少しかけていただいたぐらい。あとは依世さんとか…」
「――え、依世ってあの永倉男爵の?」
「男爵なの!?」
古刹はうろたえた。
「彼は東北の竜と呼ばれた伊垣招風の右腕だった父親の後を若年で継いだ天才だ。浅賀十禅も認めていたらしいぞ」
浅賀十禅、という言葉を聞いて古刹は不意にまたあの青年のことを思い出した。
「ねぇ父さん、兵衛っていう人知ってる?依世さんと関わりがある人らしいんだけど…公爵家で会って…」
古刹のことを知っているようだった、という言葉は何故か潜んだ。
しかし沖継は首を傾げた。
「兵衛…さて…」
何かを隠して嘘をついているというよりは、本当に知らないようだった。
ふいに落ちない気持ちがしながらも、古刹は台所に向かった。
既に朝ごはんとも昼ごはんともつかない時間に差し掛かっていた。