20話:背中
撃たれた――古刹は痛みを覚悟して、堅く目をつむった。
しかしいつまで経っても痛みは来ず、恐る恐る背後を振り返った。
一瞬、視界いっぱいに闇が広がっているのかと思った。それが誰かの背中だと気づいたのは、その人物が腰の銃を引き抜き発砲したからだ。
火薬の匂いが鼻をくすぐる。
名前を呼びそうになって、肩越しに投げ掛けられた真剣な視線に押し黙る。
「甲板に!」
兵衛は叫ぶと、前方に銃を向けた。再度銃声が耳をつんざき、間髪入れずに兵衛が腕を振る。
海兵の銃が手から飛び、その直後に頭に短刀がつき刺さる。海兵の身体が大きくのけ反った。
「早く!」
眼前の光景と古刹を隔てるように腕を広げて、兵衛が苛立たし気に言い放つ。
兵衛の身体の向こうで、頭に短刀が突き立ったままの海兵がだらりと前のめりになり、ゆっくりと顔を上げるのが見えた。その顔に、足を広げた黒い昆虫のような痣が見えたような気がした。
兵衛が舌打ちして、動けないでいる古刹の腕をとり、食堂を抜けた。
通路をひた走ると、どこもかしこでも戦闘が繰り広げられていた。なんと白い軍服同士が攻防している。
―― 一体、何が…?
しかしその光景を尻目に、兵衛は先へ先へと走り続ける。
甲板の手前まできたとき、古刹の足が床を離れた。