18話:陰謀と逃亡
海兵用の白い軍服に、ぽとりと赤い染みが広がる。 二十を少し越えたばかりに見える青年兵は、正面から古刹に向き合いながらも、その目は何にも焦点を合わせていない。
事態に凍りついていた古刹は、外の――地上の喧騒の音によって瞬時に現実に引き戻された。
掴まれた腕を引き離そうと力いっぱいもがく。しかしなかなか力は弱まらず、ついに相手の手を自由な方の手で持って、拘束されていた手を引き抜いた。
勢いで階段の失せた扉の方に飛び出そうとしてしまって、たたらを踏む。
悲鳴を押し殺し、地上の様子も目に入らないほど咄嗟に方向転換し、船内を駆けた。
息があがっている。
氷を薄い肉で包みこんだように硬く冷たく、表面だけがふにゃりと柔らかかった海兵の手の触感が、掌の上にこびりついている。
それを掻き消すように、ドレスの裾を何度も何度も握り直した。
赤い絨毯の部屋に入り、隠れるものが見つからなくて、再び通路に飛び出して走る。
通路に出た瞬間に、来た方向から歩いてくる白い影が視界の端に映り込み、顔を背けてひたすら逃げ続けた。
何が起こっているのか、全く把握できない。
手摺りに誰かが結びつけた古刹のリボン、金属音と大きく揺れた船、倒れた階段、そして銃で頭を撃ち抜かれたような、それでも動いている海兵――断片的で異質な光景が目まぐるしく脳内を駆け巡る。
ただ直感的にわかるのは、自分は狙われているという事実だ。
食堂に駆け込むと、まず仕切に囲まれた厨房が目に入った。――でも駄目だ、中は行き止まりかもしれない。
食堂内に数個配置された巨大なテーブルの、入口から見えづらい場所に屈み込んだ。なんとかテーブルと椅子の足が古刹の姿を隠してくれそうだ。
息を潜めてテーブルの下から入口を伺っていると、しばらくして足音が近づいてきた。