13話:背後の青空
「教えて下さい、私が誰なのか」
それは兵衛の望みに適う言葉のはずだったのに、彼が感じたのは喜びとは遥かに異なる気持ちだった。
古刹に過去を思い出してもらえば、何かが救われると漠然と思っていた。
しかし、それは間違っている。
加害者側ならまだしも、あの惨劇を自分と同じところから見た古刹に思い出させることに意味はあるのか。
もう自分たちは解放されない。
現状を変えられないのに、他人を穴に引きずり込み『同類』を増やす意味は何なのか。
不意に扉の向こうに焦点があった。窓のない廊下には、仄暗い空気が溜まっていた。
それに気づいたとき、何かが萎んでいくような気がした。
すぐ背後にいる古刹ではなく、扉の外にいる薄闇を近くに感じた。
「思い出すことと聞いて知ることは、結果が同じようで全く違います」
自分でも、口にした後にその言葉の意味を考えた。ああ、彼女を引き離すための言葉かと、淡泊な答えが浮かんだ。
思い出すことは、そんなに簡単ではない。それでも自分は彼女を責めるのかと、また苦々しい気持ちが舞い戻ってきた。
そんなとき、背後からぽつりと声がかかった。
「ごめんなさい」
振り返って目に入った古刹は、背中に抜けるような青空を背負っていた。
真っすぐこちらを見つめる古刹に、沢山の人々の姿が重なり――兵衛は息を詰めた。