序章:紅い渓谷
この話は残酷なシーンが含まれます。苦手な方はご遠慮下さい。
はらり、紅い葉が舞う。
足元には苔がむし、その上に視界のほぼ全てを彩る真紅の葉が散っている。
――ここはどこ?
口から出したはずの問いは、耳には届かなかった。まるで幽鬼になってしまったかのように、自らの身体の実感がない。
辺りは気味悪いほどの静寂に包まれ、自分の足は勝手に渓谷を下っていく。
自分は一体どこに向かっているのか。いや、向かうというよりは何かを探しているような。
何故かはわからないが、まるで胸の中に何かを押し込められているような、変な気持ち悪さがする。今のところ感じられるのはそれだけで、その感覚が身体を突き動かしているようだった。 比較的なだらかな斜面を下りに下り、やっと細い川が見えた。
…そして、黒い何かも。
川をせき止めるようにしてそこに横たわるのは、10代半ばほどの少年だった。下流の水が濁るほど、その身体からはとめどなく血が流れている。顔は真っ青で、瞼は堅く閉じられていた。その手ににぎりしめた刀は、柄まで血に濡れている。
目の前がぼやける。胸の中のものがぐっと体積を膨らませ――霧散した。