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蟲籠の結界師〈雲の国編〉〜無奉上結界は昆虫採集のために〜【浄弓の巫女外伝】

作者: 一角獣
掲載日:2026/09/27

以前投稿し、加筆していた同名の作品を、今回〈雲の国編〉として加筆し改めて投稿した作品です。

今回加筆した部分は第3話の部分ですので、これまでに読んでいた方は第3話よりお楽しみください。

○第1話〜無奏上結界〜


「うひゃあ!揚羽蝶だ!」



 僕は虫が大好きだ。動物全般が好きだけど、特に虫を見ると心が躍る。


 でも、この里では殺しても捕まえてもいけない虫がいる。


 『蜘蛛』だ。


 この里の社(やしろ)で祀られている神様は蜘蛛の姿をされているらしく、間違って神様や神様の使いを殺したり捕まえるのを防ぐため、蜘蛛は大事に扱われている。因みに社の名前も大八蜘蛛坐大社(オオヤクモイマスオオヤシロ)と言う。



 僕の母上は、元はこの社の巫女だった。成人後巫女を引退すると同時に祝言を上げて染物の仕事をしていたけど、姉上が10歳になる年に父上が亡くなった。

 僕はその後に産まれたので姉上とは父親が違う。僕の父上は社の権宮司(宮司の補佐役で代理を務める)である玉蟲家の当主で、母上は装束の納品のときに見初められ、妾になったらしい。そして産まれたのが僕だ。



 姉上も巫女をしていたが、成人後は薬の行商として各地を売り歩き、東にある都に近い某社の宮司の息子に見初められ嫁に行った。それが2年前だ。


 姉上が家を出たことで母上は気兼ねなく父上の御屋敷に住むことになったけど、離れ住まいで、僕は母屋に入ったことがない。兄上や姉上が数人いるらしいけど、会ったことすらない。父上と言葉を交わしたのも数えるほどだ。

 でも、そのおかげか何をしても咎められたり行動を制限されたりしないので、毎日虫取りに勤しんでいられるのだ。




「行ってきます!」

「気を付けるのよ。貴方はただでさえ身体が弱いのだから。無理しちゃ駄目よ。」

「は〜い。」


 僕は身体が弱いわけではない。つい夢中になって『力量』を消費し過ぎてしまうだけだ。

 『力量』とは神様から授かった不思議な力、『御力』を使うために必要なもので、その量は個人差がある。この力量が尽きると意識がなくなるので、結果としてぶっ倒れるわけだ。



 この社は『結界師』を多く輩出する。僕も結界術の『御力』を使うことができる。


 聞く所によると世の中には色んな『御力』があって、特に有名なのが帝の一族が使う『治癒の御力』だ。

 あとは宮司の一族が使う『禊祓の御力』かな。

 この『御力』を使うことができるのは社の御神域に住む、『山の民』とその末裔だけだ。帝の一族も元は山の民だという。


 そんな『御力』の一つが『結界術』なんだけど、僕はこの結界術をあることに使っている。


 そう!虫取りだ!



 結界術には穢れや呪い等の目に見えない物の侵入を防ぐものと、人をも寄せ付けない結界など、大きく分けて2種類ある。


 僕が特に研究しているのは虫を囲う為の結界だ。これは人をも寄せ付けない結界、『対人結界』を応用したものだ。



 勿論、沢山の失敗をしてきた。なにしろ、結界を張るには『祝詞(のりと)』が必要なんだけど、祝詞を上げる間に虫は飛んで逃げてしまう。特に飛んでいる蝶なんかは最難関だ。

 でも、あの不規則な動きが蝶の醍醐味なんだよねぇ。


 一度花に止まった蝶を囲おうとして、祝詞を上げる直前に飛び立ってしまい、身体の半分だけ結界が囲った為に、蝶を真っ二つにしてしまったことがある。


 …あれは悲しかった。



 そしてなにより、虫籠1つ分の結界を構築するだけで、とんでもない力量を消費するから、使う度にぶっ倒れていた。


 何度も同じように倒れるので、里の人達は僕の事を阿呆だと思っているらしい。

 そこまでは思ってないようだけど、母上や姉上は、僕は身体が弱いせいだと思っている。


 でも、何度も倒れているうちに力量が増えたようで、使える回数が増えてきた。最近は1日に10回は使える。それでもつい夢中になって限界を超えてしまい、結果としてぶっ倒れるのだから、阿呆と言われても仕方ないのかもしれない。




 「ねぇ、奏(かなで)、今日も虫取り?」


 声をかけてきたのは隣に住む、いや、今は僕と母上が引越したから、隣に住んでいた同い年の瑠璃だ。

 瑠璃は僕が頻繁にぶっ倒れるので、心配して、よく虫取りについてくる。

 瑠璃は黙っていれば可愛いのに、お節介焼きで、口煩い。


「倒れない程度に加減できないの?」

「倒れることにも意味があるんだよ。結界を2回使って倒れたら、次は2回できるようになる。3回に使って倒れたら、次は3回できるようになるんだ。多分力量が増えているんだよ。」

「成長する時に力量は増えるっていうから、それなんじゃないの?」

「成長ならそんなに急に増えないよ。」

「じゃあ、2回目以降の方が効率が良くなって、力量の消費が減ってるだじゃないの?」


(それはそうかもしれない…。でも、倒れる度に回数を増やせるなら、僕は何度でもぶっ倒れる!効率が良くなっているならそれにこしたことはないしね。)


「それならそれでいいよ。」

 




「奏、千尋から文が届いているわよ。はい、これは貴方にって。」


 ある日、虫取りから帰宅すると、姉上から文が届いていた。他国に嫁に行った姉上だけど、定期的に近況報告の文を送ってくる。


「奏、元気でやってる?私は元気です。

 私は今、とんでもない御方と共に勉強をしているのです。

 本来は私がその方へ結界術についての講義をする予定だったのだけど、その方は結界術を使い始めて1年にも満たないのに、私が今まで見てきたどの結界師より凄い結界術を使うのです。

 何から説明すればいいか、書きながら混乱した頭を整理しているところです。」



 姉上が見たこともないない程の結界師…。どんな人なんだろう?



「まず、その方は力量が非常に多いので、対呪、対穢、対邪などは一纏めで、対物、対人が一纏め。どちらも入れない結界まで展開できます。

 それから、防御結界という物を自身の前面に展開し、対物、対術の防御が行えます。

 何より凄いのは、それらを祝詞を上げることなく瞬時に展開するのです。」



 えっ!?何それ。そんなことができるの?

 結界を張るのに祝詞の奉上は必ず必要なものだ。どんな結界を張るときも、神様に頼んで御神力を賜らうことで、結界に必要な力量の消費を少なくできる。


 力量が多いと、神様に賜らなくてもいいからなのかなぁ?



「更に、防御結界をクルクル丸めて細くし、矢に変えて弓で放つのです。もっとも、今はクルクル丸める作業を省いていて、瞬時に作り出して本物の矢より早く連射するのです。それも途轍もない威力で。」



 はぁ?!結界をクルクル?矢にする?

 

 姉上は夢と現(うつつ)の区別がつかなくなったのかもしれない。



「その方は祝詞を上げないということは、神様から御神力を賜ることがありません。それなのに、それらの結界を繰り返し行うのです。

 しかも、防御結界を張ったままで。

 

 私は気が遠くなる思いでした。世の中にはこのような凄い方がいるのです。」



 本当にそんなことができる人がいるの?しかも、初めて1年足らずって…。

 僕は何度もぶっ倒れて、やっと少しずつ増えているのに…。



「その方のお名前は、乾のサクヤ様。瑞の国にある赤犬の社の宮司の養女で、現在15歳でもうすぐ16歳になられます。鬼防寮という鬼退治専門の寮の頭をその若さで務めておいでです。」



 女の子でまだ15歳なのに頭…。


 因みに、『頭(かしら)』は、社の中の部門の『寮』の1番偉い人のことをいう。15歳でそんな立場になるなんて、いくら宮司の養女でも普通はあり得ない。未成年だけで構成される巫女寮でも、普通は成人間近の17歳くらいだ。

 

 てか、鬼防寮ってなに?



「また、見目も美しく同じ女である私から見ても思わず魅入ってしまう程です。にも関わらず、弓の腕も小太刀の腕も凄まじく、貴方も聞いたことがあるかもしれませんが、霊徳童子という鬼と2度も渡りあっておいでです。

 サクヤ様は結界術以外にも複数の御力をお使いになり、調薬まで教えて頂きました。

 それでいてとても謙虚な方で、是非貴方にも会わせてみたいと思います。

 いつか一人で旅ができるようになったら、梟の社を訪ねてきてください。一緒に赤犬の社へ行きましょう。」



 姉上の文にしては珍しく、興奮が隠しきれない文だった。

 そのような人がいるなら、会ってみたい。いや、美しいからとかじゃなくて。

 勿論それも気になるけど…。


 叶うなら実際にその結界術を見てみたい!


 それにしても、祝詞を上げない結界術かぁ…。


 どうやってやるんだろう…。


 僕にもできるかなぁ?





 翌日から僕は無奉上(これは僕が勝手に命名した。)による結界の特訓を始めた。


 できるだけ人目につかないようにやっていたつもりだったけど、集中しすぎると人がいることに気づけないから、見られた人には阿呆だと思われているんだろう。

 

 無奉上だと神様からの御神力を賜れないので、使う力量は倍近くなる。

 始めてから暫くはできる気配もなかった。


「なぜサクヤ様はできるのだろう?力量の違いだろうか?でも、力量が違っても1回くらいはできるはずなんだよなぁ。」


 もっと力量を節約すればできるのか?全部囲うから力量が必要なんだよなぁ。虫籠みたいに網状なら力量も少なくて済むかもしれない…。


 頭の中に完成予想図が出来上がった。


「よし!虫籠だ!」


 ちょうどよく芦の先端に止まったトンボを、虫籠で捕らえるように頭に像を結ぶ。



「構築!」



 で、できた!


「できた!やった!本当にできた!」


 そして、そのまま僕はぶっ倒れた。




 それから毎日無奉上での虫籠結界を繰り返し、一ヶ月程で安定して構築できるようになった。




「奏、虫取りのついでに魚を取ってきて。晩のおかずにするから。」

「…わかった。」

 


「あの子、竿も網も持たずにどうやって魚を捕る気なのかしら…。本当に阿呆なのかねぇ。」


 …聞こえてます、母上。



「よし、今日は虫取りじゃなく、魚取りだ。」


 僕は魚籠(びく)だけ持って家を出た。


 川にやって来た僕は魚の姿を探す。ちょうどよい大きさの魚の群れを見つけた。


「いつもより大きめな籠で…、構築!」


「よし!」


 一度に4匹の魚を結界内に捕らえて、結界を岸に移動させる。それから結界を解除して魚を魚籠の中に放り込んでいく。



「よし!もう一回。」


 今度は3匹。2人で食べるのだから十分だろう。今日は倒れずにすんだけど、まだまだ力量が足りない。

 あの大きさの虫籠結界を2回使うだけでヘロヘロだ。



「凄いじゃない、奏。貴方、網も竿も持たずに、どうやって魚をとったの?」

「えっ?!あぁ、それは籠でね…」

「あ、罠か!なるほどね。その場で作っちゃうなんて、意外と器用なのね。奏がただの阿呆じゃなくて安心したわ。」


 勘違いしているみたいだけど、阿呆なのは否定できないかもしれないから、態々説明はしなかった。





「こんな朝早くから行かなきゃいけないの?」

「だから、ついてこなくてもいいのに。」

「だって、奏はどこでぶっ倒れるか分からないじゃない。奏のお母さんにお願いされたのよ。」

「母上が?もう心配症だなぁ。」


 最近は倒れるギリギリでやめても力量が増えることが判ったので、余りぶっ倒れていない。時々夢中になり過ぎてぶっ倒れることもあるけど…、あくまで時々だ。


「で、何でこんなに早いの?」

「甲虫や鍬形は夜行性で、この時間ならまだ残っているんだよ。」

「でも、昨夜は大雨だったのに、虫が出てきてるの?」

「それは…、行ってみなきゃわからないけど…。」


 昨夜は激しい雷雨だった。いつもは浅く緩い小川が、水量を増して流れが早くなっている。


 そんな川に架かる橋を瑠璃が渡ろうとしたときだった。


 ドンッ!


 上流から流れてきた木が橋脚にぶつかった。激流に辛うじて耐えていた橋脚は、その衝撃に耐えきれず、橋が崩れ落ちた。


「きゃー!」


 崩れ落ちた橋と共に、そこを渡っていた瑠璃が激流に投げ出された。


「瑠璃!」



 そこからは夢中だった。


 瞬時に籠の結界を構築する。今までは魚を捕るときのものが最大で、人を囲ったことなんかない。

 しかも下手をすれば身体を切り取ってしまう。


 でも、今やらなきゃ瑠璃が流されてしまう。この激流じゃ助からない。


 考える前に身体が動いていた。


「構築!」



 無奉上の結界で包囲された瑠璃は、水面ギリギリにとどまった。


 呆気にとられる瑠璃を見る余裕はない。結界を岸に移動させると、すぐに結界を解除した。


「奏…これ、結界よね?どうなってるの?奏、祝詞も上げなかったじゃない。」


 瑠璃の疑問に答えてあげるだけの余裕がなかった。力量が尽きかけて気を失う寸前だったから。


「誰にも…言わないで…。」


 そのまま僕は意識を失った。

 次に気がついたのは自宅の床の上だった。


「瑠璃ちゃんに一緒に行って貰えるよう頼んで良かったわ。あんなところで倒れるなんて、一歩間違えたら激流に流されてたわよ。」

「…そうだね、気を付ける。瑠璃には後でお礼を言っておくよ。」

「それがねぇ、瑠璃ちゃんは自分が助けられたって言ってるのよ。でも理由を教えてくれないの。自分が助けられたの一点張りで。どうしちゃったのかしら?」


(そうか、瑠璃は黙っててくれたんだ。)





「瑠璃、ありがとう。」


 翌日、瑠璃に会いに行ってお礼をした。


「ううん、こちらこそありがとう。

 でも、何で黙ってないといけないの?あんな凄い結界、私初めて見たよ。自慢したらいいじゃない!」

「いや、余り目立ちなくないんだ。こんなこと出来たら何に利用されるか分からないだろ?ほら、それに『能ある鷹は爪を隠す』って言うしさ。」

「そういうことか…。うん、わかった。」




 瑠璃に本当のことは言えなかった。僕は妾の子だ。当然跡取りなんかになれるわけがない立場だ。

 そんな僕が誰もできないような結界術を使ったらどうなるか…。父上や兄上に利用されるだけならまだいい。


 下手をすれば兄上に殺される…。


 家督争いの怖さは十分に分かっていた。



 友達だった徳之輔は、玉蟲家ほどではないが有力な家の子だった。


 あれは2年前、徳之輔の父でその一族の次男だった人が、長男である徳之輔の叔父に殺された。勿論直接手をかけたわけではないけど。

 徳之輔の父が妖魔退治で武功を上げたことで、叔父が危機感をおぼえたから家督を奪われまいと濡れ衣を着せて殺した。

 そして、徳之輔も。徳之輔だけでなく、家族全員が殺された。


 徳之輔は従兄弟とも仲が良かったらしいのに、家督が絡むと人は鬼になる。


 邪心を抱くことなんて妖魔を倒せる人には怖くもなんともないのだろう。

 恐いのは人間の方だ。



 だから、僕はこの力を他の人に知られたくない。知られちゃいけないんだ。





 そうこうしているうちに僕は10歳になった。


 山の民の多くは10歳になる年に社で働く宮守か巫女になるための試験、『御力量りの儀』を受ける。

 特になりたいわけでもなかったけど、玉蟲家の人間としてこの儀式に落とされる訳にはいかない。落ちようものなら人間として扱ってすら貰えないだろう。



 御力量りの儀の日、社に集まった同い年の子供達と一緒に『神泉』で渡された銭1枚を浮かべる。

 浮かべば合格、沈めば不合格。極めてわかりやすい。

 1列に並ばされた子供達の中、僕の前に並んだ子供10人のうち、浮かんだのは2人だけだった。


(うぅ〜、緊張してきた。)


 この合否で家での扱いが変わるかもしれないと思うと、流石に緊張感が増す。


 そして、いよいよ自分の番になった。


 泉の前にしゃがみ込み、銭を持った手を泉の上に伸ばしたとき、僕はやってしまった。


 緊張で銭を落としてしまった。


(終わった…。)


 と、思った直後、思いもよらない事態になった。

 水面に落ちた銭は、水面で弾むとコンコンと跳ねて駒のようにクルクル回った後、倒れて水面に浮いた。


(浮いた…。)


「…跳ねた?が浮いているな…。ご、合格だ。」


 泉まで案内してくれた宮守が合格を告げてくれたので、やっとホッとした。

 ただ、宮守は目を丸くして、僕のことを怪し気に見ていたことは気にしないことにした。




「母上、合格しました。」

「よかった。父上にも報告に行きましょう。」


 母屋に2人で行くと、応接室に通された。

 父上は少しして応接室に入って来ると、僕を見やってから質問をしてきた。


「銭を落としたそうだな。」

「はい…。緊張して、つい…。」

「それでも浮いたのか…。同行した宮守が驚いていた。」

「申し訳ありません。」

「いや、合格したのだ。気にすることはない。以後励むように。」

「はい、ありがとうございます。玉蟲の名を汚さぬよう努力します。」



 挨拶を終えて部屋を出た。父上とあんなに話しをしたのは初めてかもしれない。


「よかったね、父上に褒められたなんて。

」

「そ、そうですね…。」



 ある意味、儀式より緊張したかもしれない。嫌な汗が出た。

 ただ、合格してしまった以上、明日からは宮守だ。今までのように虫取りばかりはしてられない。いや、もう虫取りなんかできないかもしれない…。



 翌日から配属を決めるための適性確認が始まる。

 色んな部所を回ったけど、最終的に山兵部の結界師寮に配属された。


 山兵とは社の警備から、妖魔や鬼を討伐する部所で、槍寮、弓寮、結界師寮からなる。僕は結界術が使えて、力量が多いことで選ばれたらしい。

 ただ、余り目立ちたくなかったので、基本的な術式しか見せなかった。無奉上なんてもってのほか。間違っても兄上達より優秀だなんて思われたら命を失いかねない。

 僕は生涯爪を隠し続けなければならないんだ。


 そんな僕の術式を、よりよって父上に見られることになるとは、この時は思いもしなかった。





 宮守になって1年経った頃、お役目とて重役の護衛をすることになった。


 よりによって父上の護衛だ。


 この日、父上は同じ国内にある別の社へ用があるとかで、僕を含めた8人の護衛(前衛2人、後衛1人、結界師1人の4人1小隊なので、2小隊だ。)についていた。あとは父上の付き人が2人。父は輿に乗って移動するので、担ぎ手が4人いる。


 御神域を出て街道を南下すると、峠にさしかかる。峠を登りきったら休憩しようと小隊長2人が話していた時、一陣の風が吹いた。

 風がやんだと思って前を見ると、前を歩いていた前衛の2人の首が無くなっていた。2人はそのまま倒れる。


「敵襲だ!玉蟲様をお守りしろ!」

小隊長の1人が叫び、僕じゃないもう1人の結界師が父上の籠に結界を張った。


「妖魔だ!前衛、前へ!後衛矢を番えろ!」


 指示した小隊長に妖魔が突っ込んでくる。鼬の妖魔だった。大きさは人の子供くらいある。


 小隊長は咄嗟に刀で受けたけど、妖魔は両手が鎌のようになっていて、刀で鎌を受けたけど、もう一つの鎌は小隊長の首を落とした。

 前衛の槍が妖魔に突き出されたけど、妖魔は飛んで躱すと、旋回して槍兵2人を切裂く。

 残る弓兵4人が一斉に矢を放った。でも刺さったのは盾にされた槍兵だった。

 次の矢を番える前に妖魔は弓兵4人をあっという間に切裂いた。


 僕は震えて籠の前に立っていた。


 付き人と担ぎ手はとっくに逃げ去っていた。


 もう1人の結界師、善一郎さんが籠の結界を維持していた。


「奏!ここは食い止める!玉蟲様を連れて逃げろ!」


 そう言われたけど、足が竦んで動けない。


「奏!私はいい、逃げろ!」


 父上が籠から出て僕を突き飛ばした。


 突き飛ばされた僕は体勢を崩して膝をつく。顔を上げた時、善一郎さんの首が飛んだ。


 殺される。僕も父上も…。


 そのとき、首を飛ばされた善一郎さんを見てある事を思い出した。


 あれを意図的にやれば…


 僕は父上の前に飛び出すと、手を妖魔に向けていた。


「構築!」


 結界は妖魔の上半身だけを捉えた。


「旋回!」


 展開された結界の籠は、その場で旋回する。旋回したのは上半身だけで、下半身はその場にとどまっている。


「圧縮消滅!」


 結界が消えた時、妖魔の下半身だけが残されていた。


 僕が思い出したのは、蝶を結界で捕まえようとして失敗したときのことだった。


 あれを意図的にやれば妖魔を倒せるかもしれない。


 あとは身体が勝手に動いていた。



「奏、其方…。あの結界術は…、包囲結界術を使えるとは…。」


 父上は呆然としながらも、目の前で起きた事を正確に捉えようと頭を回転させている。


「父上、お怪我はありませんか?」

「けが…、い、いや大丈夫だ。そんなことより、其方の結界術…」

「父上!お願いがあります。」


 僕は父上に向かって土下座した。


「…なんだ?」

「今、ここで見たことは父上の心の中で留めておいてください。」

「なぜだ!それほどの結界術が使えるなら…」

「私は家督など興味はありません!」


 思わず大きな声が出てしまった。後で思い返せば、父上の話を途中で遮り失礼な態度だったと思う。でも、言わなきゃいけなかった。



「父上は私に家督を譲るつもりなどないかもしれませんが、私の力をお認めになっただけで要らぬ争いの種になります。それだけは避けたいのです。」

「しかし…あれ程の結界術を使える者は、社にもそうはいまい。」

「なればこそ!秘して頂きたいのです。私はまだ見たこともない兄上達に殺されたくありませんし、殺したくもありません。」

「…そうか。奏、其方は聡いな。里の者の話では、阿呆だという噂を聞いていたが。だが、其方は聡く、そして努力家だ。」

「お褒めいただくようなことはしてきていません。ただ夢中になってやってきただけなのです。」

「そうか。しかし、生き残ったのは其方と私の二人だけ。逃げ散った者達が妖魔の話をするはずだ。この者達が死んだ理由も説明せねばならぬ。其方の貢献を知らせず、如何様にするつもりだ?」

「善一郎さんが命を賭して父上を救ったということにして下さい。」

「…わかった。だが其方はこの先どうするつもりなのだ?それ程の力、隠し続けて生きて行くのか?」

「私には会ってみたい方がいます。この術を身につけようと思わせてくれた方が都の近くの国にいるのです。」

「その方が其方に教えてくれたのか?」

「いえ、姉上からの手紙で凄い結界術を使う方がいると知っただけで、お会いしたことはありません。でも、その方に可能性を示していただきました。その方が実際にやったと知らなければ、私は挑戦すらしなかったと思います。

 父上、すぐにではありませんが、いつか姉上ところへの旅をお許し願えませんでしょうか?」


 父上は少し考えたようだったが、優しい顔で僕を見た。


「そうか…分かった。其方は私の命の恩人であり、大切な息子だ。子の願いを叶えてやるのが親の務めだろう。そして、命の恩人に礼を尽くすのは立場ある者として当然の行いだ。ただし、母上の許しを得てからな。」

「あ、ありがとうございます!」



 家督争いを避ける口実にサクヤ様の事を利用したわけではないといったら嘘になる。

 でも、会ってみたいという気持は本当だ。そして、希望を口にしてみたら、本当の望みになった。

 

 姉上をして見たこともないような御力を使う凄い人。(そして、美しい女子らしい)

 そんな人がいるなら会ってみたい!



 …そんなこと言ったら、瑠璃にどんな目で見られるだろう…。美しい女子ということは黙っておこう。







○第2話〜オオヤクモヌシ〜


 あの事件以降、僕は平穏な宮守生活を送っていた。


 父上も僕の結界術のことは黙っていてくれているようで、周りから結界術について言われることもなかった。


 因みに、未だに兄上達には会っていない。というか、会っているのかもしれない。互いに認識していないだけで。



 ただ、父上は顔を見かけると言葉をかけてくれるようになった。

 一言二言ではあるけど、気にかけてくれているようで、少し嬉しい。でも、未だに少し緊張する…。



「父上なんだから、そんなものじゃないの?」


 瑠璃は僕と一緒に巫女になっていた。

 寮が違うので会う機会は少ないけど、たまに会うとこうやって近況報告をし合う。


「うちは事情があれだから、父上と言っても雲の上の存在だからね。」

「でも気にかけてくれているんなら、いい父上じゃない。」

「うん、それは有難いんだけどね。」

「そういえば、奏は結界師選抜は受けないの?」


 『結界師選抜』とは、宮守である結界師の中でもより優秀な者を集めて特殊な御役目を努める特別な結界師だ。

 主に包囲結界を構築出来る者や、広域結界を展開出来る者で構成されている。

 瑠璃が僕に選抜を受けないか聞いてくるのは、僕が包囲結界を使えることを知っているからだ。


「そんなつもりはないよ。前にも言ったけど、目立ちたくないから。」

「勿体ないなぁ。折角の才能なのに。」

「それに、忙しくなったら虫取りが出来なくなっちゃうしね。」

「まだそんなことを言っているの?奏は相変わらずねぇ。」


 呆れているのに、どこか安心しているような顔で笑われた。




 そんなある日。 


 休暇を貰えたので、僕は早速虫取りにでかけた。

 宮守になったから、これまで入る事ができなかった社の森に入ることができる。

 いざ虫取り!

 いや!これは非番でも森の巡回をして安全確認をしているんだ。なんて仕事熱心な僕!


 そう自分に言い訳をしながら森に入る。

 社の森には今まで見たことのない虫が沢山いる。

 巡回中に見つけたときは、思わず飛びつきそうになったけど、こっ酷く叱られる怖さが僕を自重させた。


 

「た、玉虫だ!」


 そう、それは憧れの虫!僕の家の名前の由来でもある玉虫。

 少し細長い虹色の虫。玉虫色とはまさにこのことだ。


「綺麗だ〜。」


 思わず感嘆の声が漏れた。本当に見惚れるほど美しい。

 甲虫や鍬形虫も好きだけど、やはり玉虫は格別だ。


 捕まえるなんて以ての外!


 ただ眺めているだけで幸せな気持になれる。


 ぼ〜っと見ていたら、玉虫は飛んで行ってしまった。


「また会えるといいなぁ。」



 玉虫の余韻に浸りながら、僕の探索は続く。



「うわっ!」


 キョロキョロしながら歩いていたから、目の前の蜘蛛の巣に気付けなかった。


「あぁ、蜘蛛様ごめんなさい!折角作った巣を台無しにしてしまいました。」


 でも、蜘蛛は巣作りの名人だ。あっという間に再構築してしまう。


「凄いねぇ、結界みたいだ。」


 呑気に巣作りを眺めていたら、木の上から黒い影が飛んできた!


「鳥、鵙だ!」


 鵙(モズ)は肉食の鳥で、虫やトカゲ、カエル等を捕食する。当然蜘蛛も大好物だ。


「構築!」


 思わず蜘蛛を虫籠結界で囲った。


 モズは結界に衝突すると、頭をぶつけたのか、目を回して落下した。


 よし!蜘蛛を助けれた上に、今夜のおかずも確保できた。


 僕は結界を解除して蜘蛛の無事を確認する。


「よし、元気そうだ。巣の一部は壊れちゃったけど、食べられるよりましだよね?」

「ふふ、良い結界術を使うじゃないか?」


 へっ?誰?


 周りを見渡しても人の姿はない。


「ここだよ。お前の目の前にいる。」


 いや、誰もいません。


「鈍い子だねぇ、ここだよ、お前の目の前の蜘蛛だよ。」

「えぇ!?蜘蛛!蜘蛛が喋った!」

「お前、この社の宮守の癖に蜘蛛が喋って驚くとは。」

「と、いうことは…、ぬ、ヌシ様ですか!」


 僕は思わず土下座する。


「ヌシ様ではないよ。私はその使いだ。」

「ヌシ様の使い…。」

「そうだ。助けてくれたお礼にヌシ様に合わせてやろう。肩を貸しておくれ。」


 蜘蛛は僕の右肩に飛び乗った。


「このまま御山に登って、山頂の奥宮まで行くよ。」

「で、でも、御山に入るには宮司様のお許しがないと…。」

「宮司と神の使い、どっちが偉いんだい?」

「そ、それは神様のお使い…です。」

「だろう?じょあ、行くよ。」


 仕方がない。宮司様の許しはないけど、神様の使いが御山に入れという以上、僕に拒否権はない。

 

 御山に入り山道を登る。そんなに高い山じゃないから、半刻(1時間)もあれば山頂に着いた。


 山頂にはたくさんの巨岩が積み重なった磐座があった。奥宮と聞いていたけど建物はない。ひときわ大きな岩の前に小さな祠があった。てっきり祠に神様がいるのだと思ったけど、違うらしい。


 蜘蛛は大きな岩の左に回れと言う。左に回ると大きな岩と後ろの岩の間に隙間があり、磐座の全周を囲うように設置されたしめ縄の正面だとわかった。


「ヌシ様はこの中におられる。だが出ることもできないし、我等も入ることができない。」


 磐座にはかなり強力な結界が張られている。正直近づくのも怖いほどだ。磐座の隙間は深く暗い。まったく光が差し込むことがない闇で、もし入ってしまったら方向はおろか、上下すらわからなくなりそうだ。



「ヌシ様、結界術に長けた若者を連れてましりました。」


「クグツチか。ほう、中々の力量じゃな。まだまだ足らぬが、良い使い手となりそうじゃ。其方名を何という?」


 神様の声は女の人の声だった。姿は見えないけど若い声ではない。でも威厳があるというか、声だけで体が動かなくなるような不思議な声だった。


「か、奏でございます。」


「か・な・で…奏か。其方の姉もよく使えてくれておる。」

「姉上をご存じなのですか?!」

「ああ、よく知っているさ。千尋は我の言伝役だ。今でこそ他国の神に仕えているが、我の役目を解いたわけではない。」

「お役目ですか?」

「そうだ。我は実体を失い、この磐座に篭っておる。」

「篭もられておられるのですか? 私は社で封じ込められていると教わりました。」

「ヌシ様は人如きに封じられるような弱い神ではないのだ。」

「失礼しました!」

「よい、クグツチ。人は自分たちに都合が良いよう事実を曲げる。よくあることじゃ。」

「はい。」


「奏、其方には我が手足として、目と耳として仕えて欲しいのじゃ。」


「わ、私にできることであれば…」

「今の其方にできることは少なかろう。だが、我が其方に力を与える。それでもまだ足りないが、力量を増やす一助にはなろう。」

「御力ですか?」

「そうじゃ。そのしめ縄に触れてみよ。」


 僕は恐る恐るしめ縄に触れる。


 触れると不思議な熱が伝わってきた。ただ、それ以外はこれといった変化は感じない。


「もうよいぞ。」


 手を離したけど、やっぱり何も変わっていなかった。


「其方に与えたのは『大地への付与』の御力。宮司一族が得意とする力じゃ。其方、御力を増やすために何をしておる?」

「毎日寝る前に結界術を沢山使って、力量を空にしています。」

「人目につかぬように行うのは大変であろう。だが、これからは大地に御力を流し込むだけよい。人目につきにくく土地は肥える。力量も容易に空にできて一石三鳥じゃ。」

「土地を肥やす…大地への付与…。」

「力量が増え結界術を思うように使えるようになったら、また其方を呼ぼう。それまでは封印の結界術についてしっかり学ぶがよい。」

「はい…。」


 返事をすると、小さく笑って声は消えた。磐座から発せられていた重たい空気も和らいだ。

 磐座の中の闇も、少し明るくなったように感じた。

 気がつけば肩に乗っていた蜘蛛も、いつの間にか姿を消していた。



 僕は御山を降りて、入山口の鳥居のところまで来ると人の目がないか確認した。

 誰もいないことを確認して社に戻ろうとしたところで声をかけられた。


「なぜそこから出てきた。誰の許しを得て入山したのだ?」


 声のした方をゆっくりと見る。


「父上!」


 僕の顔を見た父上も驚いたようだ。


「奏…まさか、虫取りではあるまいな。」

「ち、違います!」


 そこから先を言い淀んだ。

 どこまで喋っていいのか?


「お前のことだ、何か事情があるのだろう?」


 すぐに叱責されると思ったけど、父上は意外と冷静に接してくれている。

 正直先程までの出来事は夢のような感覚だ。

 そして、何とも言えない怖さ、悍ましさがあった。


 父上に相談すべきかもしれない。


「父上、ご相談がございます…。」

「わかった。ここでは不味い。私の部屋に行こう。」

「はい…。」


 僕は黙って父上の後をついていった。



 

 父上の執務室は中庭に面した静かな六畳間で、整然と片付けられていた。


 床の間を背にした父上と正対して座る。


「で、相談とは?」

「はい。どこまで話て良いのか判断しかねますので、いくつか質問させて頂いて宜しいでしょうか?」

「…良いだろう。」


 父上は怒るでもなく、静に答えてくれた。


「父上はヌシ様のお声を聞いたり、ヌシ様の使いと会われたことはございますか?」

「ヌシ様と…。そうか、其方は呼ばれたのか。さもありなん。」


 父上が全てを理解したような顔になる。


「どういうことでしょうか?」

「よい。其方は口にすべきではない。其方が漏らすのは良くないだろう。」


 父上は側近と思われる人達に人払いを命じた。


「これから話すことは他言無用。よいな?」

「はい。」


 父上は居住まいを正して静に話はじめた。


「この社に坐す畏き神はオオヤクモヌシの神、かつて西国を統べる強大な力の神であった。ここまでは其方でも知っている通りだ。

 ヌシ様の力の源泉は結界術による強固な守りと大地に御力を籠め、実り豊かな田畑とすることによる経済力だった。

 そのような豊かな国であればこそ、他国から狙われる。それが日輪大神だった。

 日輪大神とは幾度も幾年も戦に明け暮れたが、日輪大神は癒しの御力で、倒れた兵を回復し、繰り返し攻め寄せる。消耗戦になれば不利になるのはヌシ様の軍だ。

 そしてとうとう破魔の矢によりヌシ様は大怪我を負い、強い憎悪から祟神になられた。」


「祟神…。」


「日輪大神はヌシ様を自らの手で封印すれば一族の存続を許すとし、現在の宮司一族の手によりヌシ様は奥宮の磐座に封印された。

 勿論、宮司一族とて本意ではなかった。一族の者を後の朝廷となる日輪大神の子孫達の臣下として差し出し、国も大きく割譲させられ、雲の国は今日に至る。

 そして、今日に至っても宮司一族はかつての繁栄を忘れられないままだ。

 そして、差し出した一族の者を使い、復権を果たそうとしている。

 復権の暁にはヌシ様の封印を解こうと考えているのだ。」


「ヌシ様の封印を…でも、ヌシ様はたた…」

「みなまで言うな。其方は口にしない方がいい。何処に蜘蛛がいるか判らんからな。」


「蜘蛛が…?」


「そうだ。蜘蛛はヌシ様の目であり耳だ。其方は今後も迂闊なことを言うてはならん。少なくとも御神域内ではやめておけ。」

「はい…。」


 父上は周りに気を配りながら話を続けた。


「私個人としては、ヌシ様の封印を解くなどけっしてあってはならぬことだと思っている。もうヌシ様はかつてのヌシ様ではない。

 封印を解けば大きな災いを招くことになるだろう。

 封印を解く為には力量の多い者が必要だ。今の封印を破れるほどのな。

 それ故其方に目をつけたのだろう。正直これは予想していたことだったが、思いの外早かった…。」


「そうだったのですね…。」


「今は何も語るな。そのうち共に神域の外に出る機会もあるだろう。その時まではヌシ様の言われた事を守っておけ。其方の意見はその時に聞く。」

「分かりました。」

「まったく、姉といい其方といい、我身内にしておかなければ何をしでかすかわからん。」

「えっ?!姉上の事を…御存知なのですか?」

「其方の母を妾にしたのは、あれを目の届くところに置いておくためでもある。この里を離れれるよう話をつけたのも私だ。」

「そうだったのですね。」

「念のために言っておくが、其方の母に情がないわけではない。其方が産まれたのがその証だ。」

「はい…。」

「その母が心配する。そろそろ帰るがいい。」

「はい。御迷惑をおかけしました。」

「いや、其方の立場では仕方のない結果だ。ヌシ様の頼みを断れる者などこの社にはおらんからな。」

 


 僕は一礼して部屋を出た。


 まだ頭が混乱している。


 どちらの言う事が正しいのだろう?どうしてもヌシ様の言葉を信じきれない自分がいる。なんといえばいいか、利用されているという感覚が拭えない。


 ここはすぐに結論を出さないでおこう。



 帰宅した僕は新しい御力を試してみたくなった。


 自宅である離れの裏には小さな畑がある。ちょっとした野菜が育てられていて、母上がよく世話をしていた。

 新しく作られたと思われる畝があり、何かは判らないけど、苗が植えられていた。


 僕は結界の範囲を指定する感覚で畝のある部分だけ御力を籠めてみた。


「うわっ!凄い!」


 畝に植えられた苗はみるみる伸びて3倍の高さに成長した。


 ここで僕の好奇心が漠然としたこれまでの不安を袋叩きにした。


「土地以外にも籠めれないのかなぁ?」


 そう思ったら止められない。


 畑を見渡すと青虫が目に入った。

 紋白蝶の幼虫だ。


「もしかして成長しちゃう?」


 恐る恐る青虫に御力を籠める。


「えっ!?そっち?」


 青虫は蛹になるのではなく、単純に大きくなった。1寸(約3センチ)の青虫が、倍ほどの大きさになってしまった。


 これは成長を見守らなければ!

 倍の大きさの紋白蝶なんて夢しかない!


 僕は青虫のいた菜葉ごと網で覆い、観察を続けることにした。


 後日、この青虫を見た母上が絶叫を上げ、酷く叱られたけど涙ながらに訴えて飼育継続の許可を得た。



 話が逸脱したけど、土地以外にも御力を籠めれることは判った。

 包丁に御力を籠めたら切れ味が良くなったので、研いでおいたよと説明したら母上に褒められた。

 

 これは何かと便利かもしれない。




「奏、権禰宜がお呼びだ。」


 呼び出しを受けて僕は父上の執務室に赴いた。


「奏、3日後に紅の国の慈櫛の宮に行く。護衛としてついて参れ。」

「畏まりました。」


 執務室には父上と僕以外には誰もいなかったけど、父上は周囲を気を配ってから話をする。


「あれ以来ヌシ様との接触はないか?」

「はい。遣いとの接触もありません。」

「そうか…。後は国を出てから話そう。」

「はい。ところで、御用向きは?」

「うむ。慈櫛の宮のヌシ様はここのヌシ様と夫婦神であることは知っているな?」

「はい。クシハヤヌシ様ですね。」

「そうだ。行事というかなんというか、年に一度、クシハヤヌシ様をお迎えに上がることになっていてな。」

「お迎えに、ですか?」

「当然実現したことはない。夫婦仲が修復されていないのに、クシハヤヌシ様が帰る理由がないからな…。」

「でも、儀礼的とはいえお迎えに上がると…。」

「そういうことだ。」

「理由は兎も角、この国から出るのは初めてですから、楽しみです。」

「そうか…。あと、其方の兄のひとり、長男の光太郎も私の補佐として同行する。どこか機会を見つけて紹介しよう。」

「…はい。ありがとうございます。」



 そして3日後、僕は父上や兄上を含めた総勢13人(そのうち護衛は2個小隊の8人)で慈櫛の宮に向け八雲の里を出発した。


 



 


○第3話〜旅立ち〜


 雲の国から南に街道を下る。途中東西に走る山地を越えるけど、季節は夏。

 汗がダラダラと吹き出すため、頻繁に給水しながらの山越えだ。


 通常、社の正使であれば輿を利用するんだけど、今回は身軽に動きたいという父上の希望もあって父上は馬に乗り、従者の一人が轡を取っている。


 途中、宿場で何泊もする旅だけど、国から出るのが初めての僕にとっては何もかもが新鮮だ。


 旅に出るとき、父上が兄上を紹介してくれた。


「光太郎だ。奏だったな。優秀な術士と聞いている。今回は宜しく頼む。」

「はい!こちらこそ宜しくお願いします。」


 短い挨拶だったけど、緊張していたからこのぐらいが限界だった。

 兄上はスラリと背が高く、顔立ちは父上に似て男前だ。チンチクリンの僕とはとても兄弟には見えない。

 光太郎兄上は嫡子なので、将来は父上の後を継いで権宮司になる予定だ。

 間違っても逆らっちゃいけない相手だけど、逆らう理由もないし、兄上は僕のことなど気にも留めてないだろう。



 旅は比較的順調だった。

 途中妖魔や鬼と出くわすこともあったけど、こちらは2個小隊で結界師もいる。 

 僕ともう一人の結界師は佐平次さんと言って、非常に優秀な拘束結界の使い手だ。

 鬼や妖魔はほぼこの人一人で片付けていた。



 里を出て6日目、紅の国の北部最大の宿場町、水霧の宿に到着した。

 水霧の宿近辺は妖や妖魔が多い。国府もここには兵を駐屯させて備えている。

 本来は注意すべき場所だけど、駐屯兵がいるので僕達の出番はない。お陰で特に問題なくこの宿場町をやり過ごす事ができた。

 

 そこからさらに3日かけ瑛州の宿に到着した。

 瑛州の宿は三角州が複数あるところで、小さな宿場町が点在しているけど、それらの総称が瑛州の宿だ。

 ここで食べた好物焼きはとても美味しかった。

 

 ここからは船に乗り換え海路で慈櫛の宮に向う。馬はここの馬借に預けた。



 慈櫛の宮は海上に浮かぶ様に建てられた宮で、その正面に大きな鳥居が海の中に立っている。干満差が大きいので、干潮になれば鳥居まで歩いていけるが、今は満潮。朱色の鳥居と社殿が海に映り込み、山の緑と青い海に挟まれてとても美しい。

 船はこの鳥居を潜って拝殿の横の桟橋に着けられた。



「よくぞ参られました。ご無沙汰しております、権宮司殿。」

「こちらこそご無沙汰しております、宮司殿。」


 慈櫛の宮の宮司様が自らお出迎え下さった。それだけ大八蜘蛛坐大社の存在感はこの辺りでは強いのだろう。


 到着すると早速拝殿に向かい、父上はここのヌシ様であるクシハヤヌシ様に奏上する。

 勿論返事などないんだけど…


 夕方になると歓待の宴が催された。

 僕は護衛という立場にも関わらず、末席とは言え同じ食事が用意された。


 内海といえば牡蠣と穴子なんだけど、牡蠣は時機が早いらしく出されなかった。

 でも、代わりにといっては何だけど、小鰯の刺身や天麩羅はとても美味しかった。

 

 膳も一通り手を付けると、歓談の時間になる。

 僕はお酒は余り飲めないので、食事をしながら父上達の話を聞いていた。



「今年の正月明けに、あの『神産みのサクヤ』様が当宮に参られたのです。」 

「『神産みのサクヤ』、様、ですか?噂には聞いたことがありますが…」

「いや、噂以上の御方でした。当宮の神宝、『破魔の鏡』の神力を取り戻して頂いただけでなく、神器と呼べる程の弓を授けて頂きました。」

「あの『破魔の鏡』が?そのようなことが…」

「輝きを取り戻した鏡は真実の姿を映すのですが、その鏡に映されたサクヤ様は正しく日輪大神の如き御姿だったらしく、また、授かった弓は100間離れた的を破壊するほどの力を持っています。」

「いやいや、俄に信じ難い話ですな…」

「嘘でも冗談でもありません。あの御方は本当に神であられる。実際、小さいとは言え祠のヌシであられるそうです。そして、初国立大神に神であることを正式に認められたといいます。」


(『神産みのサクヤ』って、あのサクヤさん?そんな凄い人なの?!とんでもない結界師とは聞いていたけど…)


「そのサクヤ様は何故西国に?」

「琴亀社と灰の国に御用があったとか。当宮の者がサクヤ様のもとで修行している縁で、里帰りを兼ねて立ち寄って頂いたようです。」

「それは、サクヤ様のもとに宮守を派遣しておられたので?」

「いえ、偶々近くにいたときに、赤犬社の鬼防寮という新設の寮の山兵を募集していたらしく、それに選ばれたそうです。」

「鬼防寮…ですか。鬼対策に特化した寮ということですな?」

「そこの山兵は皆恐ろしいほどの力を持っていて、当宮の2人も短期間に考えられないほどの力を身に付けていました。なにしろ、ここに来るまでに琴亀社の山兵を壊滅させて、そこのヌシ様を封印してきたと言ってましたから。」

「なっ!?その鬼防寮の山兵は何個小隊でそのようなことを?!」

「小隊としては1個小隊らしく、人数的には2個小隊程度で頭であるサクヤ様を入れて9人です。あとは犬が一匹。」

「きゅ…9人で社の山兵を壊滅…?」

「しかも、似たようなことが過去にも2回あったそうで…。あの傭兵で有名な龍神社もその一つで、今ではサクヤ様の麾下にあるとのことで…。」

「あの龍神社が1個小隊で…。その鬼防寮は何個小隊あるのですか?」

「そこまでは…。ただ、少なくとも3個小隊はあるような話ぶりでした。」

「その…壊滅させられた社というのは、何か落ち度があったのですかな?」

「琴亀社については、宮司一族内のいざこざと言いますか、宮司の一人娘が鬼防寮の一員だったらしく、父と娘の意見が衝突したようです。そこにサクヤ様が加担したようで…」

「それで、ヌシ様が封印されたので?」

「話では、祟神になりかかっていたそうです。それでやむなく封印したと…」

「祟神に!?…なるほど…。」



 その後も宴席の話題はサクヤ様の伝説のような話が続いた。

 その中でわかったことは、サクヤ様は結界術だけでなく、多様な御力を使われる。神様の降臨を頻繁に賜り、自身祠のヌシ様として神様になられた。そして神様であることを創世神の一柱であるハツクニタチオオミカミに認められた。西国を旅して灰の国まで行かれた。鬼防寮の頭として、多くの留学生を受け入れている。ということだ。

 機会があれば、僕も赤犬の社に留学してみたい。そんな思いに駆られた。



 翌日は山兵の鍛錬を見学し、一部鍛錬に参加させてもらう。

 ただ、慈櫛の宮の結界師はそう多くはない。ここの頭が大八蜘蛛坐大社の出身なので、鍛錬の方法も似ていて余り勉強にはならなかった。


「貴方、随分余裕で熟しているわね。」

「えっ?!あ、はい…えっと…」

「うちは夕鶴。これでも結界師寮の隊長格よ。」

「玉蟲奏です!」

「玉蟲?貴方、あの権宮司の息子さん?」

「はい…一応。」

「なるほどね。貴方、サクヤ様が灰の国でなさったこと、知っとる?」

「サクヤ様が?いえ知りません。」

「そう…。あの国の前の国守は、土着系のヌシ様の社や祠を次々と潰して、そこにオオヤクモヌシ様の息のかかった者をヌシ様に据えようとして、サクヤ様の逆鱗に触れたの。で、神罰が下った国守は朝廷への謀反を企てた廉で処刑されたの。」

「オオヤクモヌシ様の…」

「そう。つまり、貴方達大八蜘蛛坐大社の者はサクヤ様にとって敵対する存在と認識されているってこと。」

「サクヤ様にとって、僕達は敵…そんな!」

「あら?貴方、サクヤ様を知っていたの?」

「姉が隣国の丹の国の社に嫁いでて、サクヤ様と親交があるらしく、サクヤ様の凄さを手紙で知らせてくれました。僕もいつかサクヤ様にお会いしたいと思っていたのです。」

「そう…。でも、貴方が大八蜘蛛坐大社の者と知って、お会いして貰えるかしら?」


 返す言葉が見つからなかった…

 

 名前は知っていても一度もお会いしたことのない人で、サクヤ様も僕のことなど知りもしないだろう。僕が一方的に尊敬しているだけだ。

 いつか会いに行きたいと思っていたけど、会ってもらえるかどうかは分からない。姉上の紹介があれば会うことはできるかもしれないけど、果たしてまともに取り合って貰えるだろうか?

 僕や父上はオオヤクモヌシ様の封印を解いたり、勢力を高めることなど考えていない。でも、それを大っぴらにすることもできない。

 今ここで、夕鶴さんに僕はそんなつもりはないと、正面切って言うことすらできない。


 僕はサクヤ様の敵…



「まあいいわ。貴方の実力は知らないけど、うちはあの方の凄さを目の当たりにしたわ。あの、とんでもない威力の矢を防御結界で防ぎきるなんて、夢でも見ているようだった。矢と防御結界がぶつかる音じゃなかったもの。でも、それすらもサクヤ様の力の一部に過ぎないんだもの。そのうち大八蜘蛛坐大社も琴亀社のようになるんじゃないかしら。精々首を洗って待ってなさい。」

「…」


 何も言い返せない。


 どうすればこの誤解を解くことができるだろう…

 早く解いておかないと、霊徳童子が退治されたら、次は大八蜘蛛坐大社かもしれない。それまでに誤解を解きたい!


 その日の夜、僕は父上に面会を願った。




「父上、このお役目が終わったら、赤犬の社に向うお許しをいただけませんでしょうか?」


 慈櫛の宮の客間の一室で、僕は父上と一対一で面会を許された。

 父上も話があったらしく、依頼はすんなりと了承された。


「唐突だな。どういう訳か聞いてもよいか?」

「はい。父上は今年の冬に灰の国で起きたことは御存知ですか?」

「…聞いている。国守が謀反の疑いで処刑された件だな?」

「はい。その背景に当社の暗躍があったことは?」

「…何故それを?」

「昼間の鍛錬の時にここの宮の結界師の隊長格の方に聞かされました。」

「そうか…。では、それにサクヤという娘が関与していることも?」

「はい。サクヤ様は我等のことを敵視しているだろうと…」

「そうかもしれぬな…。で、其方はどうするつもりなのだ?」

「誤解を解きたいと思っています。このままでは、大八蜘蛛坐大社も琴亀社の二の舞になりかねません!」

「誤解といってもな…。我等が関与したことに間違いはないからな。」

「ち、父上も関わられていたのですか?」

「いや…。だが、知ってはいた。知っていて止めることができなかった。それは関わったのと同義だ。」

「止めれないのでしょうか?」

「其方は私に宮司一族を倒せというのか?」

「!」

「残念ながら、ヌシ様を復活させるべきでないと思っている者は少数だ。その少数も大きい声でいうことは憚られるのだ。私とて大っぴらには言えぬ。性急過ぎる動きをなんだかんだ理由を付けて押し止めるのが精一杯なのだ…。

 社の者は、長年に渡り朝廷に虐げられているという意識の者が殆どだ。実際は良くしてもらってもないが、虐げられているわけでもない。だが、かつての栄光が邪魔をする。本来なら自分達こそが…とな。」

「しかし、父上もオオヤクモヌシ様は崇神であると。」

「そうだ。封印を解くということは、この国に大きな災いをなすということだ。しかし、人というものは自分にとって都合のいいことだけを聞こうとするもの。その危険性より、かつての栄光を取り戻すという耳障りの良い方に流される。そして、都合の悪いことを言う者を排除しようとするのだ。」

「どうすれば止めれるのでしょうか?」

「自分たちの力では無理であろうな。強力な外圧が必要だ。強制力を持った外圧がな。だが、当然反発するであろうし、禍根も残す。」

「強力な外圧…それがサクヤ様であると?」

「そうなのかもしれぬし、そうでないかもしれぬ。其方、それを見極めれるか?」

「私が、ですか?」

「そうだ。其方はヌシ様にもお会いしたことがある。そのうえで封印を解くことに懐疑的である。そしてサクヤ殿に会ってみたいと願う者だ。どちらの意見が正しいのか、しかと見極めることができるであろう。」

「父上は?」

「私の立場はそれを許さぬ。そして、暴走しないための歯止めとして残らねばならぬ。」

「では…」

「其方は修行のためここに残す、ということにしておく。帰ればヌシ様の目がある故、下手に帰らぬ方がいい。 まずは姉を頼れ。」

「はい…」

「まだ幼さを残す其方を一人で行かすことは、其方の母に何と申し開きをすればよいか困るのだがな…。だが、其方の実力はうちの結界師の中でも5本の指には入ろう。危険は避けた方がよいだろうが、その辺の妖魔や鬼ごときに負けることはあるまい。」

「だ、大丈夫でしょうか?」

「自信を持て。あと、一つ良いものを授ける。」

「なんでしょうか?」


 父上は懐から一枚の護符を取り出した。


「相手の動きを止め、御力や妖術を封じる護符だそうだ。」

「そ、そんな護符があるのですか!」

「声が大きい。なんでもサクヤ殿の社を中心に、色々な護符の研究をされておられるそうだ。この護符は置き土産として数枚置いていったもののうちの一枚だそうで、後学のためと宮司が下さったのだ。」

「そ、そのような大事な物を私がいただいても?」

「使わず済んだなら返してくれればいい。其方に護衛の一人もつけれぬ情けない父のせめてもの報いだ。それに、 サクヤ殿のもとで学べたなら、同じような物も作れるようになるのではないか?」

「そうですね…。必ずや成果を持ち帰ります。」

「期待している。ただし、その成果は暫くは秘匿するのだぞ。」

「秘匿ですか?」

「そうだ。あ奴らに渡れば、どう使われるかわかったものではないからな。」

「そう…ですね。わかりました。」

「それと、成果云々より、まずは無事に帰ってこい。」

「ありがとうございます、父上。」

「我らは明日帰国する。其方はここに残り、準備を整えてから出立せよ。路銀は多く持たせてやれぬが、 これだけあればとりあえず都を往復するくらいはもつだろう。」

「こ、こんな大金を?」

「それでも心もとないくらいだぞ。無駄遣いはするなよ。土産など買わぬように。」

「はい。」

「あと…、虫に現を抜かすでないぞ。」

「は、はい…。」


 うっ…虫好きが父上にばれているとは。


 父上達は予定通り翌日帰国の途に就いた。


 

 僕が旅の準備を進めていたら、夕鶴さんが声をかけてきた。


「貴方、サクヤ様のところに行くんだって?」

「なぜ御存じなのですか?」

「宮司に頼まれたんだよ。貴方について行けってね。」

「えっ!?そ、そうなんですか?」

「流石に貴方のような子供をひとりで行かせるのは忍びないってね。」

「あ、ありがとうございます。」

「感謝される覚えはないわ。私はお目付け役だからね。」

「お目付け役?」

「そう。貴方がサクヤ様に会うに値する者か、それをこの旅の間に見極めるの。」

「は、はぁ…。どうか、お手柔らかにお願いします。」

「そうはいかないわ。駄目そうなら貴方を強制的に連れ戻さなければならないんだから。覚悟しておきなさい。」

「えぇ!?それは困ります。これでも私の双肩には大社の命運がかかっているのです。」

「はぁ?なんで貴方みたいな子供にそんなものがかかっているのよ。きっと冗談でしょうから、真に受けちゃだめよ。」

「は、はぁ…。」

「覇気がないわね!うちだって、こんな子供の世話をしながらじゃなきゃ、サクヤ様に再会したいのよ!貴方だけ引き返させるわけにはいかないんだから、ちゃんとしてよね!」

「はい、頑張ります。」


 

 こうして僕はサクヤ様に会うため、大きな不安を抱えながら東へと旅立った。


 その道中と目的地にとんでもない事態が待っているとも知らずに。


この〈雲の国編〉を投稿したことで、この短編は一旦完結とします。続編も投稿するつもりはあるのですが、もう少し先になりそうです。

その際は別編として、加筆ではなく新規投稿としてあげるつもりです。

 近日中にこれまでのものは削除する予定です。

 今後も応援宜しくお願いします。

 また、この話の本編である「浄弓の巫女」も合わせてお楽しみください。

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