第41話:藤沢 亮
——0%。
その数字を目にした瞬間、頭の中が真っ白になった。
これまで私は、沙良を寝取り、詩織を自分の娘ではなく扱っているに違いない——そんな許せない相手として、広瀬啓介を憎んできた。
だが結果は、まったくの親子関係なし。
ではなぜ詩織は、あの男を「パパ」と呼んでいるのだ?
憎悪に塗り固めていた心が崩れ、代わりに疑問が押し寄せてきた。
啓介は、淡々とした調子で口を開いた。
「詩織さんがお腹に宿った頃、沙良さんは精神的に不安定になっていました。あなたとの結婚生活を続ける自信がないと相談を受けたこともあります。ですが、やっと宿った命を大切に生み育てるように、オレが言い聞かせたのです」
私は呆然と、その声を聞き続けた。
「そして詩織さんが生まれたとき、名前をどうするかという話がありました。亮さんは沙良さんに一任されたと聞いています。沙良さんがその際にオレに相談してきて、いくつか候補を一緒に考えました。その中からあなたが選んだのが『詩織』だった筈です」
耳の奥で記憶が甦る。
——確かに、あの時私は沙良に丸投げした。
仕事に追われ、家庭に背を向けていた。
啓介は続けた。
「名前を決める過程にまで携わったから、オレはもう自分の娘のような感覚を抱きました。そのとき沙良さんが、誕生日とは別に年に一度、オレに詩織さんを会わせてくれると約束してくれたのです。オレには息子はいますが、娘はいません。だから、詩織さんが成長していく姿を見るうちに、ますます自分の娘のように感じてしまっていたのです」
その声には嘘がなかった。
悔しいことに、私は思い当たる節が多すぎた。
良き夫でも、良き父親でもなかった自分。
その隙間を、啓介が埋めてきたのだ。
「とはいえ、今回最も傷ついたのは詩織さんでしょう」
啓介の目は、まっすぐに私を射抜いていた。
「亮さん。この毎年のオレの身勝手な“誕生会”は、今回で終わりにします。ですが——あなたも、二度とご自身のお子さんを『自分の子ではない』などと疑い、詩織さんを傷つけることはなさらないでください」
私は視線を落とし、深い溜息を吐いた。
——本当に、私は何をやっていたのだろう。
「……本当に、申し訳ありませんでした……」
絞り出すように言った。
「疑って、あなたも殴ってしまい……詩織にも、それから沙良にも……」
沙良は泣きながら、ただ何度も頷いていた。
だが、当の詩織は嗚咽を漏らしながら席を立ち、自室に閉じこもってしまった。
——その背中が、胸に突き刺さった。




