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星々が照らす道

「桐也さんの命令とはいえ、ステラを狭い部屋に閉じ込めるのは心が痛んだわ。天王寺家の屋敷に閉じ込められていた私と重なって見えるけど、桐也さんの目的の達成に必要ならば仕方ないと、同情を押し殺してあの子と向き合い続けたわ。でも、どうしても我慢ができなかったの。屋敷の窓から外を眺めることはできた私と違い、窓もない部屋に閉じ込められたステラは外に世界が広がっていることすらも知らない。そんなのはあまりに惨いと思ったの」

「だから、外の世界のおとぎ話を?」

「そうよ。桐也さんは私を外に連れ出してくれたのだから、ステラもいつかは外に出してくれるものだと思っていた。だから、ステラが初めて外に出たときに、私と同じような感動を味わえるよう、外の世界への憧れを植え付けたの」

「植え付けた、なんて悪い言い方しなくてもいいように思いますが」

「いいえ。私のやったことは間違っていたわ。母様が私にやったことと同じ。子の幸せを親が勝手に決めつけてはいけないのよ。優れた男性との間に子を作ることが幸せだとする母様の教えに、私は縛られてきた。消息不明になっても悲しく思わないくらいには、あの人のことは嫌いだった。それなのに、幼いころから刷り込まれた価値観は呪いのように私から離れてくれなかった。親のかける呪いはとても強力なの」


 どれだけ嫌いであっても親から受けた言葉からは逃れられない。親がかける呪いの理不尽さは骨身に沁みている。


「そうね、あなたはその身をもって知っているのね。親の呪いを」


 どうやら月島さんは俺の考えたことは全てわかるようだ。逆に彼女の考えていることを俺の頭に直接流し込むこともできるのだろう。それなのに、対話という形式を取っているのは、きっと月島さんのこだわりだ。だが、そのこだわりのおかげで、俺も言葉を探せる。相手に伝えるための言葉を探す、相手から受け取った言葉を飲み込む、その過程にはきっと意味がある。思考を直接繋げてしまえば生まれない何かがそこに生まれる気がする。


「親の言葉というのは確かに強いです。でも、あなたがステラに与えたのは呪いとは違う気がします。自由になって欲しいというのは優しい願いだと思います」

「いいえ、これも立派な呪い。当時はステラのためだと思い込んでいたけど、私はあの子を自分の分身として見ていたのだと、今ならはっきりわかるわ。結局、まともに親になることはできなかったのよ。でも、それも当然ね、母様は私を母様の分身として育てたのだから。親としての正しい振る舞いを知らないのに、それを実行できるわけがなかった。それに早く気がついていれば……」

「でも、あなたがステラを逃がしてくれたから、俺はステラと出会うことができました。それだけは確かです」

「けれど、そのせいであなたとステラは傷ついた。いたずらに外の世界への憧れを高めるよりも先に教えることがあったはずだと後悔してるわ。私はあの子の心を育むことができなかった。ステラはいまだに自分と他人の境界が曖昧なの。また誰かを傷つけるかもしれないし、傷ついて自分の形を維持できなくなってしまうかもしれない。最悪の場合、本能に従いこの星の全ての人間を取り込んでしまうかもしれないわ。桐也さんの理想としていた世界がそれだけど、今はそれがとても寂しい世界だとわかる。あの子にはそんな過ちをしてほしくないの」

「大丈夫です。ステラが間違えそうになったら、俺が止めます。そのためならどんな痛みにも耐えられます」

「あら、私がお願いしたかったことを先に言われてしまったわね……私ね、あなたにステラの先生になってとお願いしたかったのよ。まだ何も知らないあの子をどうか導いてあげて、と」

「導く、というのはまだ難しいかもしれません。だから、一緒に探します。俺とステラが、ステラとみんなが共に生きるための道を。ぼくらの在り方を考え続けます」

「良い返事ね。あなたならステラを任せられるわ」


 ステラが信じた月島さんが、俺のことを信じている。その喜びが力となる。


「でも、覚えておいてね。人は簡単に道を誤るものよ。自分の出した答えを信じ続けた桐也さんは、周りが見えなくなってしまった。桐也さんを妄信した私も同じ。何が正しくて、何が間違っているか、それを見定めることは容易ではないわ」

「それなら大丈夫です。俺は一人じゃないから。ステラだけじゃない、陽太も、金森さんも、木原教授も、水瀬店長も……俺が道を見失っても、照らしてくれる人たちがたくさんいます。きっとこれからも色んな人と出会って、その度に学んでいきます」

「とっても強い光ね、あなたって。どうかその光を絶やさないでね」

「はい!」


 月島さんが失敗談として語った物語を、俺は失敗談だとは思わない。梨沙さんの後悔を俺は知った。天王寺桐也の原点にあるあいつなりの愛と信念を知った。俺に託された物語はまだ続いているのだ。バッドエンドにはしてやらない。


「さて、私はそろそろ行くわ。すぐにステラが起きるから、後はよろしくね」

「ステラとは話さないでいいんですか?」

「大丈夫、後でちゃんと別れは告げる。ただ、あなたとステラが二人きりで話す時間が必要だと思うから、しばらく外すわ。あの子は私に依存している。だからこそ、私じゃ駄目なの。あなたの言葉じゃないと、ステラは変われないのよ」

「責任重大ですね」

「言ったでしょ? この星の運命を背負うことになるって」

「俺は本当にとんでもない拾い物をしてしまったようですね。ゴミ収集箱に流れ着いた少女にこの星の命運がかかっているなんて……」

「後悔してる?」

「まさか」


 にやりと笑ってみせた。これは決して虚勢ではない。


「じゃあ、またね。ステラをお願い」


 月島さんはそう言うと、光の粒となって白い世界へ溶けていった。

 そして、ステラが動き出した。


「あれ、リサはどこだ? 隠れていたら、一緒に遊べないぞ」

「梨沙さんはちょっと用があるらしい」

「ワタシと遊ぶのより大事な用なのか? なあ、レンも一緒にリサを探してくれ。まだ匂いはする。近くにいるはずなんだ」

「ステラ。それよりも今は俺の話を聞いてくれないか。とても大事な話なんだ」


 俺はなるんだ。ならなきゃいけないんだ。ステラが進む道を照らす星に。

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