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星と共に

 混乱と驚きが混ざった表情のステラ。彼女に投げかける言葉を探したが、答えを見つける間もなく、天王寺の分身が一斉に俺とステラに飛びかかった。

 そのとき、突風のような衝撃波が走り、分身は勢いよく吹き飛ばされた。

 白い羽毛が舞った。見ると、ステラの背中からは彼女の体よりも大きな純白の翼が伸びていた。その姿は天使のように美しかった。


「ステラ……!」


 立ち上がり、彼女を抱きしめた。そうせずにはいられなかった。伝えたい言葉も、伝えねばならない言葉もたくさんあったが、いざ目の前にすると、上手く言葉を紡げず、ただ彼女の名を繰り返して涙を流すことしかできなかった。


「レン……これは本当なのか? 夢じゃないのか……?」

「ああ、俺はここにいるよ。夢なんかじゃない」

「でもワタシ、レンを傷つけて……」

「傷つけたのは俺だ。俺がステラを傷つけた。酷いことをした。ごめん、本当に、ごめん」

「ワタシのこと、嫌いになったか?」

「嫌うもんか! 好きだ……大好きだよ!」

「ワタシも……ワタシもレンが好きだ!」


 ステラの頬から伝う熱い涙が肩を濡らした。

 向き合ってお互いの存在を確かめた。ステラの顔は真っ赤で、目元はきらきらと光っていた。きっと俺も同じような顔だったろう。


「見事だ!」  天王寺の嫌味な拍手が響いた。どうやらステラとゆっくり話す時間は与えてくれないようだ。


「これが愛の力というものか、素晴らしい! 奇跡と評するに値する! だが……もう十分だ。再会の感動を共有しているところ申し訳ないが……今一度、君たちは別れることになる……さあ、互いに惜別の言葉を告げるがいい。なにしろ終生の別れだからな」

「さよならするのはオマエだ、キリヤ。レンを傷つけるのは、ワタシが許さない」


 ステラが翼を広げるのに呼応して、近くに倒れている数人の分身から白い塊が分離し、翼に飛びついた。白い塊を吸収した翼は、神々しい光を放ちながら、より大きく伸びていった。


「未分化状態になったことで、覚醒したわけか……お前を追い詰めたのは、失策だったと認めざるを得ないな。だが、支配下に置いている細胞の総量では、こちらが勝る……!」


 残っている分身が、糸の切れた人形のように一斉に倒れた。分身の身体は溶けて黒い泥になり、天王寺のもとへと集約していく。泥が裾から潜り込むと、天王寺の全身の筋肉は膨張し、スーツはビリビリと音を立てて破れ、黒い光沢のある皮膚が露わになった。あっという間に、天王寺は黒い巨人へと変貌を遂げた。3メートルは超える背丈に対して、大きさの変わっていない天王寺の顔がお面のように貼り付けられ、不気味に笑っている。


「いくら純度が高いといえども、この物量を相手にできるかな? 小娘一人が、この……私、俺、僕……我々に敵うものか!」

「忘れるな、俺もいる」


 ステラと天王寺の間に割り入った。戦える肉体をイメージし、全身に銀色の甲殻を鎧のように纏った。


「レン!? それって、ワタシの――」

「ああ、君が俺の中にいてくれたおかげで、この力を使える」

「でも、普通の人間じゃなくなったんだぞ? レンはいいのか?」

「そんなのどうでもいい。むしろお揃いになれて嬉しいくらいだ。それに、こうして君を守れる」


 他人のために命を張るのはこんな気持ちなのか。鼓動が高鳴り高揚感が恐怖や不安を超えていく。


「ワタシ、守られるだけなのは嫌だぞ」

「じゃあ、一緒だ……こいつを倒して、一緒に帰ろう」


 ステラの手を取った。今度こそ手放しはしない。


「この星を統べるのは、俺、私、たちだ……!」

 

 天王寺の右腕がぐんと伸びて大蛇に変わり、こちらを睨みつけて大きく首をもたげた。


「崇高なる目的のため……我らの糧になれ!」

「「望むところだ」」


 飛びかかる大蛇に、俺とステラは、重ねた手を突きつけた。

 大蛇と手が触れた瞬間、爆発が起きた。

 衝撃波と共に、白い煙が広がり、視界が塞がる。

 煙が晴れたとき、そこに立っているには、二人だけだった――ステラと俺が立っていた。

 天王寺がいたところには、塩のような白い塊がある。


「馬鹿な……これほど、とは……」


 天王寺の顔だったと思われる塊は、無様な言葉を残すと、ボロボロと砕けて白い粉へと変わった。


「終わった……? これで勝ったのか……?」


 あまりにもあっけない決着に、呆然と立ち尽くした。あれほど強大に思えた天王寺桐也が、まさかこんな一瞬で敗れるなんて。それほど、今のステラの力が強大だということなのか。


「レン!」


 ステラが抱きついてきたが、素直に喜ぶことはできなかった。

 ステラと再会を果たし、天王寺桐也に勝ったのは事実だ。

 だが、その代償は大きい。


「レン、どうして浮かない顔をしているんだ……?」

「陽太と、金森さんは……あいつにやられたんだ。俺が巻き込んだせいで、二人は……」

「なんだ、そんなことか」


 ステラの言葉に、耳を疑った。


「そんなこと……? 二人は、死んだんだぞ? それだけじゃない、もっと大勢……天王寺に取り込まれた人たちだって! 天王寺桐也も最悪な男だけど、俺たちが手を下して良かったのか……だって、人の命なんだぞ……?」

「レンはわからないのか? ミンナいるぞ、ここに」


 天王寺が砕けた後に残った白い粉が宙を舞った。キラキラと輝き、つむじ風のように渦巻いている。


「聞こえないのか、ミンナの笑い声が? ほら、こんなに気持ち良くしているぞ?」

「何言ってるんだ? 笑い声なんて……」


 耳を澄ましても何も聞こえてこなかった。

 しかし、ステラは何か聞こえているのか、渦巻く光の粒の中心で、くるくると回って踊っている。彼女は俺の知っている笑みを浮かべているのに、なぜだか、別人のように感じて、ひどく不気味だった。


「可笑しい。レンはこんなこともわからないのか……だったら仕方ない。ワタシが教えてあげる」


 ぬっと、ステラの顔が目の前に来て、俺の唇を奪った。

 途端に、頭の中が真っ白になった。

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