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残酷な真実

 暗闇の中で目を覚ました。手足を縛られ、目と口を塞がれているようで、床の上でもがくことしかできない。


「ようやく起きたか」


 声が聞こえた直後、何者かに身体を起こされ正座させられた。目隠しが外され、声の主――天王寺桐也の姿を正面に捉えた。横を見ると、陽太と金森さんが同じように正座で拘束されている。ここが天王寺の研究所なのだろうか、青い照明で照らされた部屋の中には円柱状の水槽がいくつもあり、その間には天王寺の部下の研究員と思しき白衣の集団がずらりと並んでいる。ほとんどの水槽は空になっているが、唯一、天王寺の背後にある巨大な水槽の中には、銀色の巨大な肉塊が不気味に蠢いていた。


「ようこそ、星見蓮くんとそのご友人方。我が事業に多大な貢献をした君たちを歓迎するよ」


 天王寺がゆったりと拍手をすると、研究員が一斉に続いて夕立のような音で部屋が満たされた。部屋全体を揺らすような轟音であったが、天王寺が拍手を止める瞬間に合わせて、全ての部下がピタリと手を止め、静寂が訪れた。研究員は歳も性別もばらけているが、表情はそっくりな笑顔を浮かべていて、訓練された軍人のように動作が揃っている。


「その様子を見るに、なぜ歓迎されているのか、理解していないようだね? まずは、見たまえよ」


 天王寺が横にずれて、背後の水槽を指し示した。円柱状の水槽の中には、無数の電極が突き刺さった銀色の肉塊が浮かんでいる。それ自体が生きているのか、絶えず形を変化させ、脚や翅など昆虫や動物の体の一部のような物体を作り出しては崩してを繰り返す様は、目を疑うほどに異様だった。


「これを見て何を思うか、感想を聞かせてくれ」


 俺たちの口を塞ぐテープが剥がされた。最初に言葉を発したのは陽太だった。


「なんだよ、この気色悪い物体……こんなもん作ってどうするつもりだよ」

「陽太、やめろ……それ以上言うな」


 わかってしまった。一目見ただけで、とても似つかないこの醜い物体が、そうだと、直感で理解した。

 

「これがステラだ……」


 天王寺が再び拍手をした。陽太は言葉を失い、金森さんは「嘘……」と独りごちた。


「やるじゃないか。存外、君はステラの本質を理解しているようだ」

「ステラになんてことを……!」

「おや……君はどうやら勘違いをしているようだね。ステラを未分化状態に戻したのは、君だよ」

「は?」


 天王寺に笑みを向けられると、まるで心臓を取り出されて弄ばれているかのような激しい不快感に襲われた。


「元来のステラは個という概念を持たない生物だ。あらゆる遺伝子を取り込みながら拡散し、やがては星全体で一つの生物となる。そういう生態を持った生物なのだ。故に私は(ステラ)と名付けた」


 少女の名前だと思っていたものが、天王寺が地球外生命体に与えた名称であるという真実が忌々しい。何度も口にして「ステラ」と呼んできたが、その記憶がまとめて天王寺の手によって汚されたようだ。


「だが、月島梨沙の手により、ステラは本来のスペックを発揮できなくなった。彼女がステラを自身の子供のように思って育てたせいで、本来必要のない人としての自我を身に着けてしまったのだ。万能だったステラの細胞はその力を失い、一時は傷を再生するのがやっとの惨状だった。私はあれの自我を壊すために、肉体と精神を痛めつけ、他の生物へ姿を変えられるほどに回復したが、それでもあれは人としての形に拘った。単純に痛みを与えるだけでは自我の崩壊を誘発させることは困難だと判断し、次の策を考えていたころだったよ……月島梨沙が都合良く動いてくれた。彼女はあれに希望を与えた。希望……それは深い絶望へ導くための飛び込み台で、私では与えられなかったものだ。外に逃げたあれを、私はあえて泳がせた。それが何故だか、わかるかね?」

「……わからない」

「君に拾われたからだよ、星見蓮くん。君であれば、あれに淡い希望と耐え難い絶望を与えてくれるだろうと、賭けに出たのだ」


 俺も、ステラも、最初からこの男の掌の上にいた。天王寺に食らいつこうとする俺の心は、深い谷底へと落とされた。


「少し観察するだけで君の精神の歪みを理解したよ。親から愛されなかった少年は、自分のことも愛してやれない。他者との違いに苦しみながら、自ら変わる気概もない。そんな哀れな少年は、不思議な少女と運命的な出会いを果たす。悪の組織から追われる少女を守れば、ヒーローになれる。そう考えた少年は立ち上がった。だが、少年はヒーローらしからぬ劣情を少女へ抱いてしまった。その一方で、少女は、遺伝子の獲得と拡散を図る生物としての本能から、少年へ疑似的な性愛感情を募らせていった。ヒーローたれと劣情をひた隠しにする少年と、本能ゆえの繁殖願望を恋と定義した少女……衝突は目に見えていたよ」


 心がズタボロに引き裂かれて、何も言い返せない。震える唇はなんの役にも立たず、ただ茫然と絶望に打ちひしがれることしかできない。


「ちょっと、待って。あなた一体どうやってそんなことを知ったの? 四六時中見ていたような口ぶりだけど……」


 木偶の棒の俺を見かねたのか、金森さんが天王寺から情報を引き出そうとするのを横目で眺めた。


「見てきたのだよ。私はいるよ、どこにでも」


 天王寺が「ふふふ」と肩を揺らすと、部屋中の研究員が同じようにした。その顔がぶくぶくと泡を立てて変形していく。バラバラだった笑い声の高さが徐々に統一されていく――瞬く間に、全ての研究員の顔が天王寺桐也のものへ変わった。

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