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痛みを忘れ

 事件のすぐ後に私は転校したけれど、どこからか噂が流れつき、散々な日々を送ることになった。

 だから、高校受験では私を知る人がいない県外のところに進学した。それでも私が悪く言われるのに、そう時間はかからなかった。それもそのはず、私自身が何も変わっていなかったからだ。むしろ親とか世の中に対しての反抗心から開き直って、私の素行はもっと酷くなった。帰りが遅くなったり、突然泊まったりするものだから、ママとパパは私に色々と言ってきた。実際、碌でもないことをしてきたわけだけど、当時は叱られるのがとにかくうざったらしくて、汚い言葉で言い返した。

 当時は私を縛るものは全て敵とみなしていた。清く正しくを説く大人。私のことを悪く言うクラスメイト。体だけの関係と決めていたはずなのに、気色悪い口説き文句をSNSで送ってくる粘着質な男。全てを憎み、侮蔑した。

 子供も大人も一皮向けば本能に忠実な獣だ。それを知っている私はみんなよりは賢い。そんな馬鹿らしいことを当時は本気で思っていた。

 自由に遊びほうける一方で、勉強もそれなりにやって成績は常に良かった。大学進学をして家を出るように両親から言われていたからだ。自立するべきだとか曖昧な理由を伝えられたが、世間体を気にして私を家から追い出したかったのが本音だろう。私も家にいても息苦しいだけだから、ちょうど良かった。私を縛るつまらない大人から離れられると思うと、清々しかった。

 大学に入学すると、すぐに色んなサークルの新歓コンパに参加して、何人かセフレができた。大学生となると、高校生と比べて肉欲に正直な男が格段に多いから、私としては楽だった。

 でも、しばらく関係が続くと、男たちは独占欲を強めていった。誰もかれもが私を自分の物にしたがったが、私にはそれが屈辱だった。お前らは私を満たすための道具だ。私がお前らの粗末な棒を使ってやっているんだから感謝しろ。そんな思い上がりも甚だしい馬鹿げた怒りから、1年の夏頃には二桁いたセフレをみんな捨てた。

 そうしたら、私を虜にしようと不毛な争いをしていた男たちは、私の最低な中身に気がついて、二度と関係を持とうとしなくなった。それどころか、私をサゲマンや梅毒女、歩く性病と呼ぶようになって、男も女も私を避けるようになった。気づけば私は有名人になっていたが、まともな友人は一人もいなくなっていた。

 遊んでいる人間や、交友関係の広い人間、いわゆる陽キャの連中には、私の噂は広まっていて、もう誰も私とヤろうとはしなかった。

 持て余した性欲を満たすために、私のことなんて知らない孤立したコミュニティがないものかと、部室棟で探していたときに見つけたのが、地球外生命体(E.T.)研究会だった。

 ふと、ママの言葉が過った――「宇宙人みたい」ある意味私にぴったりなサークルだと、私は自虐半分で入部した。

 E.T.研には男子が4人、女子は私だけだった。いわゆるオタサーの姫状態だ。みんないかにも女慣れしてない感じで、私のことを意識しているのは明らかなのに、警戒心が強く、なかなか自ら手を出そうとはしてこなかった。

 だから、私は時間をかけて攻略することにした。E.T.研の活動にもちゃんと参加して、彼らの領域に入っていった。

 そうすると、少しずつ警戒心がなくなり、ある日部員の一人が私に告白した。私は機を逃すまいと、告白された当日に部室でセックスをした。

 私と彼の関係は周りには秘密にした。彼にとっての私は初めての彼女だったようだけど、私は4人の内の一人目だった。全員とヤることをゴールとしたゲームみたいなものだ。

 そのしばらく後に別の部員が迫ってきたら、同じようにヤッた。その後、もう一人とヤッて、あと一人で全員と関係を持つというところで、私が3人と同時に肉体関係を持っていることがバレた。

 当然ながらE.T.研は荒れた。最初は「俺の彼女に手を出しやがって」と、そんな感じで男同士で言い争いになった。みんな私のことを本気で好きだから悪く言いたくなかったのだろう。でも私はみんなの純粋な思いに目を向けることもなく「みんなでヤレば良くない?」と軽く言った。その一言で悪者が決まった。煽ろうとしたわけじゃない。私なりに喧嘩を止めようとして出た言葉だった。彼氏や彼女なんて定義の曖昧なものに拘るみんなの気持ちが私には一切理解できなかったのだ。

 そして、次の日からみんなはE.T.研の部室に来なくなった。SNSもブロックされた。

 時間が解決するだろうと思っていたが、それは甘過ぎた考えだった。誰も来なくなったE.T.研の部室に私は一人で通い続けた。

 E.T.研に愛着を持っていることに気づいたのは、皮肉なことに全てが壊れた後だった。女性経験のない部員の警戒を解くために活動した数か月。体以外でそれだけ密に他人と繋がったのは、いつ以来だっただろう。それは決して恋という感情ではないけれど、確かに代えがたい価値のある何かがそこにあったのだ。

 私は失ったものの正体も掴めないまま、空虚な心の穴をまた他の誰かとするセックスの快感で忘れようと、性懲りもなく考えた。

 木原先生が私の前に現れたのは、そんなときだった。

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