星眠る夜に
ステラに満足するまで食べさせると、それだけで保存食の備蓄が尽きた。なかなか世話のかかる奴だ。
満腹になったステラは、相当疲れが溜まっているのか、俺が布団を敷くとすぐに眠りに落ちた。
ステラが寝たのを確認すると、俺は浴室で温めのシャワーを浴びながら、今日の出来事を振り返り始めた。
あまりに唐突な宇宙人との出会いは夢なのかと未だに疑うほどであるが、さらに信じられないのは自分の取った行動だ。
宇宙人の女の子を匿うなんて、勢いとはいえ随分と大胆な行動に出てしまった。
なんの力も持たないただの大学生が大企業を相手にかくれんぼをするのか? それも偶然出会っただけの他人のために。
それに、こんなことはあまり考えたくないが、そもそもステラが無害だと断じて良いものだろうか。
俺はまだ彼女が地球に来た目的すらも知らない。もし、ステラが地球侵略を企む危険な種族の仲間だったら、俺はどう責任を取ればいいのだろう。
果たして、本当に彼女を信用して良いのだろうか……?
そこまで考えたところで、部屋を出ようとしたステラの寂しそうな顔が、ふと脳裏に浮かんだ。
俺は最低だ。あれが地球侵略を企む宇宙人の顔なわけがない。自分の疑り深さが、優柔不断が、嫌になる。
他ならぬ俺自身が、去ろうとする彼女を引き止めたのだから、すぐに撤回するわけにはいかない。
確かに、俺一人の力でできることは少ないかもしれないが、やれるだけのことはやってみよう。
少女を監禁して、非道な実験をするような連中に、ステラを渡すわけにはいかない。
決めたからには、必ず守るんだ。
俺は浴室の鏡に映る自分に向かって言い聞かせた。
寝巻きに着替えて、灯りの消えた部屋に戻ると、浴室から漏れ出た光が、ステラの寝顔を照らした。良い夢でも見ているのか、幸せそうな表情を浮かべている。
俺は今までこれといって何かを成し遂げた経験がない。だが、この寝顔を俺の力で守れたのなら、それだけで自分の人生を誇れるようになれる気がする。
布団に入ると、これから先の計画を考えた。
最終目的はステラが安全に暮らせる場所を見つけることだ。
何の変哲もないの一人暮らしの大学生のアパートは、宇宙人の隠れ家としては意外性があるかもしれないが、碌な防犯設備もなく安全とは言い難いし、俺だって生活が厳しい。
あくまで俺の家は一時的な避難場所程度に考えて、天王寺の目が届かない施設でも探してステラを預ける線で考えてみよう。
とはいえ、簡単に信用のおける引き取り手が見つかるとは思えないから、しばらくの間ステラとの共同生活を覚悟しなければならない。
そうなると、問題になるのは金だ。
まずは、食料。先ほどの食いっぷりを見るに、どうやら変身にはかなりエネルギーを使うようだから、食費を抑えるためにも、よっぽどのことがない限りはやらないように彼女に言い聞かせよう。だが、単純に考えて二人分の食費を用意するのはかなりの負担だ。
それからステラに着せる服もない。病院服のようなものを着せたままというわけにはいかないし、俺のを貸すにしても小柄な彼女には少し大きいだろう。
生活費を稼ぐために俺は今以上にバイトのシフトを増やさなければならない。
だが、俺がバイトをしている間、ステラを一人にしていて良いものか? 俺が留守の間に、天王寺の追っ手がやって来ないとも言い切れない。
それに生活費のためにバイトにばかりして、ステラの引き取り手や天王寺の動向について情報収集する時間がなくなっては本末転倒だ。
現実的に考えて、協力者が必要だ。
俺の留守中にステラを見守り、できれば彼女に一通りの社会常識を教えて欲しい。
だが、協力を頼む相手の人選を誤れば、かえってステラの身を危険に晒すことになる。リスクを考えたうえで慎重に選ぶべきだ。
多少強引になってもいいからステラが宇宙人であることは伏せておくとして、奇妙で図々しい頼み事を引き受け、そのことを他言しないような人物が必要だ。
幸いなことに、俺には一人だけ心当たりがあった。もっとも、俺が頼み事をできる知人なんて他にいないのだが、あいつならきっと力になってくれるだろう。