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勇気を持って飛び込めば

 講義に集中できないまま1限と2限が終わり、あっという間に昼休みになった。

 大学の構内にあるコンビニに足早に向かったが、既にレジから店の外まで長い列ができていた。構外のコンビニに行こうとも考えたが、どうせどこも長蛇の列に違いない。運良く売れ残っていた唐揚げ弁当を手に取り列に並んだ。

 3限は元々空きコマで、4限は休講の連絡が届いていた。ステラを連れてすぐに帰ることもできるが、初日からさっさと帰るのは流石に気が引ける。それに、好奇心旺盛で人懐っこいステラのことだ、長居をしたがるに決まっている。金森さんも今日は2限が終われば、講義はないらしい。だから、今日はE.T.研の部室で長時間を3人と共に過ごすことになる。

 ステラと陽太が気がかりではやる気持ちと、他人と長時間共に過ごすという慣れない体験に緊張する気持ちが、ちょうど半々といったところだ。会計を終えて、弁当を電子レンジで温めずに早く部室へ向かおうかと一瞬考えたが、結局電子レンジを使い1分間立ち止まる選択をした。

 こんな些細なことで思い悩んで我ながら面倒な性格だと溜息が漏れたところに、背後から誰かが肩に手を乗せた。人前にもかかわらず「うわ!」と間抜けな声を上げて振り返ると、金森さんがそこにいた。


「驚きすぎでしょ。ホシミンは面白いね」

「誰だって突然背後から触れられたら驚きますよ」

「ごめんごめん。それにしても、どしたの? 溜息なんてついちゃって」

「別に……ただ久々の講義に疲れただけです」

「それなら良いんだけどさ。何か悩みがあるなら先輩に相談したまえよ」


 相変わらず金森さんは他人との距離が近い。悪い人ではないはずだが、どういうノリで接すれば良いのか掴めない。

 ――あのビッチ誰でも食うからさ。

 考えないようにと思っても、本人を前にするとどうしても歓迎会の後で聞いた話が過ってしまう。

 金森さんが、やや特殊な性癖を持っているのは違いない。けれど、誰とでも「する」ような、ましてや「食う」なんて言葉で表現される倫理観の欠如した行為に及ぶ人だとは信じたくない。もしかしたら距離の近さから軽い女だと誤解されたのかもしれない。むしろそうだと信じたい。


「そういえば、今日ステラちゃん来てるんだよね? ピュア成分補給できるの楽しみ❤︎」

「なんですかピュア成分って」

「なんか無知シチュが捗るっていうか……」

「ムチシチュ……?」

「いやいや、なんでもない。気にしないで」


 噂の真偽がどうであれ、この人の変態性がステラに悪影響を与えないように監視した方が良さそうだ。金森さんもステラの純粋さをわかっていて彼女なりに気を遣っているようだし、張り詰めるほどのことではないのかもしれないが。

 どうも俺は対人関係についてごちゃごちゃと考え過ぎて臆病になりがちなところがある。その性格が俺を生きづらくしているのだ。これからは余計なことを考えずにシンプルに生きよう。行く前はナーバスだった歓迎会も、最後に変なことを聞いたせいで台無しになったものの、それまでは楽しめていた。

 だから、今日はあまり考え込まずに、初めてのサークル活動を純粋に楽しむとしよう。初めての体験はなんだって緊張するものだが、大抵は想像したよりもなんてことないものだ。

 ステラも陽太も金森さんも、優しい心を持っている。俺だって他の人たちみたいに仲間や友達といった関係を築けるはずだ。普通の人よりも遅くなったが、俺だって進むことができる。この世界はきっと、俺が思っていたよりも綺麗な色をしているはずだ。

 金森さんと共にE.T.研の前に着いた俺は、張り切って戸を引いた。

 そして、言葉を失った。

 そこにいるのは当然、ステラと陽太の二人。問題はステラが手にした物体だ。ピンク色をしていて、円筒状の持ち手と卵形の先端部から成るそれは、静寂に包まれた部室にブーッという振動音を響かせている。()()()()()()()だ。

 ただの健康器具と言えばそれまでだが、傍らに置かれた段ボール箱にマジックで書かれた「乙女の秘密道具♥ 見たら殺す♥」の文字列が、ステラの持つそれに危険な意味合いを持たせている。

 やはりここは危険地帯だった。

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