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穏やかな朝

 腹のあたりに重さを感じて目を覚ますと、ステラが俺の腹を枕にして寝ていた。

 驚いて上半身を持ち上げると、転げ落ちたステラが頭を床にぶつけて「()て」と声を上げた。


「どうしてこんなところで寝てるんだ。お前の布団はそっちだろう」

「こっちの方がクーラーが近い」

「じゃあ、枕も一緒に持ってこい」

「枕よりもレンのお腹の方が寝心地が良い」

「失礼な、俺はそんなに太っていないぞ」

「高さがちょうどいいんだ」


 ステラを拾ってから今日で1週間になる。

 ネットで注文した布団も届き、畳にバスタオルを敷いて寝る生活からは解放された。これで快眠できると思った矢先にこれである。それにしても随分と懐かれたものだ。拾った直後は獣のように威嚇していたというのに。


「なあレン、今日はアルバイトとやらも休みなんだろう? ならば一緒にごろごろしようではないか。だからほら、もう一度ワタシに腹を貸せ」

「ふざけたこと言ってないで早く起きろ。バイトがない日こそやらなきゃいけないことがあるんだ。お前が家事のひとつでもやってくれたらな。そうだ、朝食作ってみるか?」

「嫌だ。レンが作った料理の方が美味いからワタシはやらない」


 カレーを作ってバイト帰りの俺を出迎えてくれた少女はもうここにはいない。今ではわがままでぐーたらな姫様だ。

 人間は堕落しやすい生物だというが、それは宇宙人でも同じようだ。世話をしてくれる存在がいると、それに甘えてしまう。最初は色々やってみようとしても、自分が頑張らなくても今の生活を維持できるとわかれば、すぐに怠けてしまうのだ。

 だが、怠けているのは俺も同じかもしれない。

 ステラを拾ってすぐは天王寺の追手を警戒していた。だが、この1週間でそれと思しき人物を見たことはなく、それを理由に警戒心が徐々にうすれている自覚がある。バイトで留守にするときは陽太を呼んでいるが、それも天王寺への警戒というより、ステラが何かしでかさないかの監視という意味合いの方が強くなっている。

 よく考えれば、行方不明の人間を探すということはそもそも容易なことではない。警察が動けば話は変わってくるが、宇宙人のステラのことを公に探すことはできないだろう。ステラの存在を明かしているのはきっと限られた人間だけだろう。そうなれば大企業の人脈を活かすのも難しい。天王寺桐也の命令を忠実に守り、秘密を絶対に漏らさない部下が数百人とかいない限りは人海戦術は使えない。人目につくところでステラが騒ぎを起こさない限りはそうやすやすと見つかりはしないのだ

 だから焦る必要はない。ずっとここで匿うのは難しいとしても、ステラの仲間の宇宙人や信頼できる預かり先をいつか見つければ良いのだ。

 それまでの束の間、捨て猫を拾ったような気になって、この生活をせいぜい楽しむとしよう。

 さて、仕方が無いのでこの大きなペットに餌をやろう。朝食らしくベーコンエッグサンドにしようか。まずトースターを予熱しておく。そうすることで、トーストの表面はカリッと中はフワッと焼き上がる。それから、フライパンに火をかけ、冷蔵庫から卵2個とベーコン2枚を取り出す。フライパンにベーコンを並べるとジュッと油が跳ねた。そこに卵を落としたら、くっつかないようにヘラを間に挟み、白身の端が固まるまで待つ。水は入れない。蓋をして弱火でじっくり焼いた方が食感が滑らかになるからだ。ベーコンエッグが焼き上がるのを待つ間に、温まったトースターに食パンをセットしてタイマーを3分に合わせた。

 平凡なメニューでも少しの工夫を加えることで、味や出来栄えがだいぶ変わってくる。一人暮らしはまだ2年目だが、実家にいた頃から家事は俺が担当していたので、簡単な料理ならお手のものだ。

 

「んーいい匂いだ。レンは凄いな、なんでも作れて」

「そんなことないよ。こんなものは誰でもできる」

「でもワタシはできないぞ」

「それはお前がポンコツ宇宙人だからだ」

「なんだとー!」


 ステラが俺の背中をぽかぽかと叩く。もう少し強ければ良い肩叩きになりそうだ。

 しばらくじゃれあいに付き合っていると、トースターがチンと心地良い音を立てた。両面に薄茶の焦げ目がついたトーストを皿に出すと、ふわっと香りが広がり、ステラが早速ぐーっと腹を鳴かせた。

 フライパンの上のベーコンエッグの方は半熟で良い具合に焼きあがっている。トーストにバターを塗り、カットレタスと出来上がったベーコンエッグを乗せ、仕上げにマヨネーズと黒胡椒をかけ、パンを真ん中で折れば――ベーコンエッグサンドの完成だ。


「「いただきます」」


 そういえば、ステラは「いただきます」と「ごちそうさまでした」は欠かさずに言う。ステラが以前話していた「リサ」がそのように育てたのだろうか。こんなやんちゃな子を育てるのはさぞかし苦労したことだろう。

 

「どうかしたか、レン?」


 ステラが口の周りを真っ黄色にしながら訊いてきたので、思わず笑ってしまった。

 ステラはなぜ笑われているのかわかっていないようで、ポカンとしている。それがまた面白い。

 世話のかかる同居人だが、まあこんな生活も悪くないかもしれない。

 さて、今日の日中は空いてるから、掃除でもしようか。このところアルバイトが忙しく部屋の隅には埃が溜まってきている。今夜の予定のためにも、体を動かして腹を空かせた方が良いだろう。


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