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夢から覚めて


「早かったな」


 目が覚めると、レルの膝を枕に寝ていた歩夢。

 驚いて飛び起きる。


「…何してんですか」


「膝を貸してあげたんだから、お礼くらい言ってもらわないと」


「…ありがとう、ございます?」


「疑問系かよ」


 困惑する歩夢をよそに、レルはタバコに火をつけて、またもくもくと煙をふかし始める。


「どうだった?ユエは見つかった?」


「いえ。でも、ユエがよく来るっていうパブは見つけました」


「ふーん。やるじゃん」


 レルは緩慢な動作でタバコの煙を肺に入れて、ゆっくりと吐き出す。

 その一連の動作は思わず見惚れる。

 彼女のアンニュイな感じが、現実の世界に戻ってきたのを歩夢に実感させた。

 初めてここで会った時は、まるで異世界に迷い込んだかと思ったのに。


 歩夢は腕時計を見る。

 15時過ぎ。

 昼ごはんを食べずに放課後にここにやってきた。

 夢の世界に行って、1時間過ごして帰ってきて。

 夢の世界の時間も含めて、歩夢が下校した時から経過していた時間を考えると、あちらで滞在した時間は現実に反映されるということだろうか。


「夢の世界は現実世界と同じ時間が流れているんですか?」


「そう。60進法。あっちで丸1日過ごすと、こっちでも24時間経ってる」


 同じ時間が流れているということは、夜にトリップすれば、夢の世界も夜ということ。

 ユエが本当に女好きでパブのような場所を出入りしているとすれば、昼間よりは夜に出没する可能性が高いだろう。


「あの、今夜、もう一度トリップしたいので、カクテルをください。できれば、もっと多い量を」


「……」


 もう一度、しかも今夜。

 また夢の世界に行きたいと言われるとは思わなかった。


 レルは歩夢が夢の世界で警備兵に追われながら何とか生き延びて帰ってきた、と思っている。

 一度兵に追いかけられれば、懲りて悪夢を取り返すなど諦めてくれると思ったからだ。

 予想外の反応に、レルは困る。


「もう一度って…今回は運良く帰ってこれたけど、もし次、警備兵に捕まったら、君は牢獄に入れられてそのまま時間が過ぎ、こっちに戻ってこれなくなる可能性だってあるんだよ?」


「大丈夫です。これを貰ったので」


 歩夢は帰る時にダニエルにもらった星のお菓子が入った小瓶を見せた。

 黄色い星を食べてきた。

 残りは5個。

 少なくとも、5回はトリップできる。

 安全に往来できることを示したくて見せたが、レルはそれを見て目を見開いて固まっている。


「これが何か?」


「それ、誰にもらった?」


「ダニエルです。ダニエル・ウィリアムズ」


 その名前を聞いたレルは片方の眉毛をピクリと動かした後、タバコを吸って、肺に入れて、天井を向いて深く息を吐き出した。

 数秒の沈黙の後、彼女は諦めたように笑った。


「そうか、ダンに会ったのか」


「親しいんですか?彼とは」


「まあ、それなりに」


「あなたに、よろしく伝えてくれと言われました。あと、いつでも帰りを待っている、と」


 歩夢の言葉を聞いたレルは、タバコを吸おうと口元まで持ってきていた右手の動きを止めた。

 意外な言葉だったのだろうか。

 二人の関係性がわからない歩夢は邪推するしかなかった。

 (帰ってくるな、とか言われると思ってたのかな?)


「次トリップしたときは、真っ先にウィリアムズ兄妹に会いにいく予定です。ユエが、彼らのお店によくくると言うので。だから、できれば夜に行って見たいんです」


「……あの二人が、君を助けるとでも?」


「人間だとバレると悪さをしてくる輩もいると。だから匂いを消せと、この星のお菓子を俺にくれました。あっちの住人が人間に好意的だと勘違いした俺が、安易に誰かに話しかけて捉えられ、最悪帰れなくなるかもしれないように俺を騙そうとした人よりは、彼らは俺を助けてくれそうです」


 あっちに行って得た情報は、レルに聞いていたこととは違った。

 どっちが嘘をついているのかわからない分、歩夢は今こうして直接尋ねるしかないのだ。

 レルに何かされるかもしれないリスクもある。

 だが、歩夢が夢の世界から帰ってこられるように、ずっとそばにいて見守ってくれていたのは事実だ。


 目が覚める時、誰かに引っ張られる感覚がしたのだ。

 伸ばされた手を掴んだら、目の前に自分を覗き込むレルの顔があった。

 歩夢は確信しているのだ。

 直感に過ぎないが、レルは自分を傷つけようとはしていない、と。

 ではなぜ…

 歩夢は問うしかなかった。


「レルさんは、どうして俺がトリップするのを嫌がるんですか?」

 

 

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