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ウィリアムズ兄妹


「私の兄のお店なの」

 

 そう言って店内を進んでいく彼女についていくと、奥の席へ着席した。

 歩夢も彼女の向かい側に座ると、彼女は店員に注文をする。


「星の紅茶を二つ。あと、兄さんを呼んできて」


 (星の紅茶ってなんだ?)

 聞き慣れない紅茶を注文されて少し不安になる歩夢。

 テレサは気分がいいのか、元々社交的なのかおしゃべりを始めた。


「歩夢はどうやってここに来たの?」


「トリップカクテルを飲んで」


「あなた大人?」


「いや、高校生。まだ大人じゃない」


「カクテルって大人の飲み物よね?」


「ある占い師に、これを飲めば夢の世界に行けるって言われて」


「それで飲んだの?」


「まあ…」


 ニヤニヤするテレサ。

 その笑みの意味がわからず困惑する歩夢。


「その占い師って、誰?」


「レル、だったはず」


 明らかに表情が明るくなるテレサ。

 知り合いなのだろうか。


「だからそのペンダントつけてるのね」


 そう言われて首に下げてある天球儀を持つと、横から声がした。


「それをどこで手に入れた?」


 低い男の声だ。

 体格が大きそうな、強そうな声。

 凛と響く落ち着いた。

 声の方を見ると、スキンヘッドの筋肉ムキムキの男が立っていた。

 きっとこの男に殴られたらひとたまりもないだろう。

 歩夢はそう思って息を呑んだ。

 その様子を見てテレサが男を嗜める。


「ちょっと兄さん、歩夢が怖がってるから、威圧するのやめて」


 怖がってなんかない。

 そう言いたかったが、見栄を張るには相手が悪すぎた。

 大人しくテレサの采配に従う歩夢。

 兄と呼ばれた男も、テレサの横に腰掛けて妹に話しかける。


「用はなんだ?この人間のことか?」


「そう。獏を探してるんだって」


「どの獏だ?ここには獏も他の奴らも大勢いる」


「歩夢、その獏の名前わかる?」


「…ユエ、って言ってた気がする」


 テレサと兄は二人で顔を見合わせた。

 兄が歩夢に問う。


「なんだってユエを探してるんだ?」


 歩夢が答えようとすると、テレサが勝手に答えてくれる。


「悪夢を取り返したいんだって」


「そんなイかれた野郎なんて会ったことねえぞ」


(今、あなたの目の前にいるんだが?)

 歩夢はそんなことを思いながら、兄と妹が話している会話を聞く。


「ある人を助けるためには、その悪夢を思い出さないといけないんだって」


「助ける?」


 テレサの兄は歩夢の方を見る。

 わからない、という顔をして。

 腕組みをして警戒モードに入ったのを見て、歩夢はなんとか情報を引き出せないか、事情を洗いざらい話すことにした。


「俺の悪夢はユエに食べられたんです。その悪夢、実は、昔の知り合いからのSOSだったみたいで。その人を助けるためには、その悪夢を取り返して詳細を思い出さないといけないんです。そうすれば、その助けを求めてる人の居場所がわかるかもしれないって、レルに言われて」


 テレサの兄は“レル”という言葉に反応した。


「お前、レルに会ったのか?そのペンダント…」


「そうです。初めてのトリップなので、ちゃんと元の世界に帰れるようにと、レルがくれました」


 テレサの兄が片手の手のひらを上に向けて歩夢の方へと差し出す。

 そのペンダントをよこせ、ということだろうか。

 もし盗られたらまずい。

 だが、今のところ、ユエを知っている人物はこの二人だ。


 歩夢はペンダントを外して手渡す。

 テレサの兄はペンダントを回して全体を見ている。

 そして、天球儀の中を除いた。


「お前、あと40分したら帰らないといけないだろ。帰り道、覚えてるか?」


「い、一応。花がたくさん咲いている、庭園の木の下です」


「よりにもよって獏の王宮の庭に落とされたのか?警備兵に見つからなかったか?」


「警備兵?いや、誰もいなかったと思いますけど…」


 テレサの兄は立ち上がる。

 不思議そうに見つめている歩夢とテレサ。

 兄は二人についてこい、というジェスチャーをしてお店を出る。


 先ほどテレサと共に歩いてきた道を逆に歩いている。

 これは、スタート地点に戻されているのだろうか。


 兄の意図が読めずおとなしくついて行くと、先ほどの王宮の庭園の前で小瓶を手渡される。


「こっちの世界の物を食べないと、侵入者として警備兵に捕まる。これを食べれば、とりあえずは人間の匂いは消えるから、バレる心配はないだろう」


 小瓶に入っているのは、星の形をしたカラフルなお菓子だろうか。

 歩夢は蓋を開けて恐る恐る口にした。

 口の中に広がるのは甘酸っぱい、レモンのような味。

 美味しい。

 小瓶の蓋を閉めて、残りを返そうとすると、テレサの兄に小瓶ごと押し返された。


「持っていろ。ユエを探しているのなら、また来るだろう?その時はすぐにこれを一つ食べるんだ。人間がいると知ると、悪さをする奴もいる」


 レルと言っていることが違う。

 レルは、ここの住人は人間に好意的だと言っていた。

 どちらかが嘘だということだろうか。


「次はどこにトリップするか分からないが、もしまた来たら、うちを訪ねろ。さっきの店だ」


 さっきの店。なんとなく方向は覚えているが、正しく思い出せる気がしない。

 それを察してか、テレサは笑いながら言う。


「そこら辺の人にウィリアムズのお店って言えば伝わるから」


 そこでテレサの兄は気づいた。


「まだ名のっていなっかったな。俺はダニエル・ウィリアムズだ」


「歩夢です。夜野歩夢(やのあゆむ)


「そうか。また来いよ。ユエはよくうちに来る。今日はもう歩夢の時間がない。次来る時は、もう少し多めに飲んでこい。レルにそう言えばくれるさ」


 多めに。トリップカクテルのことだろうか。


「あと、レルによろしく。いつでも帰りを待ってると、伝えてくれ」


「わかりました」


 歩夢とダニエルは握手をして別れた。

 テレサには手を振って。


 歩夢は木の下まで走ると、ちょうど木の下に円錐の光の柱が立っていた。

 見上げると、空まで伸びているようだ。


 宇宙人に攫われる人間のように、この光の中で吸い上げられるのだろうか。

 歩夢は恐る恐る光の中に足を踏み入れると、その瞬間から体が浮上するのがわかった。

 徐々に睡魔が襲ってきて、意識が遠のいて行く。

 空から先ほどテレサとダニエルがいた場所を見ると、まだ二人はそこにいた。

 手を振ろうとした時には、もう意識がなかった。

 

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