彼らの事情
突如入ってきた招かれざる客。
歩夢は息を殺して彼らの会話に聞き耳を立てる。
ダニエルは毅然とした態度で、いきなり入ってきた人物たちに対応する。
「いきなり失礼だぞ、リアム。今はこの店のスポンサーであるムーア家の次期後継者、ナサニエル様を食事でおもてなしをしているところだ」
「おもてなしねえ〜…俺のことももてなしてくれよ」
男はそう言いながら手前の椅子を引いてテーブルについた。
歩夢の目の前にはその男の足がある。
ドア付近に立っていた残り二人は座った男の後ろへ移動して立ったまま。
(残り二人は手下のようなものか?)
顔が見えない歩夢は今入ってきた輩がヤクザのようなものだと勝手に思いこんでいた。
ドアを開ける時や椅子を引く時、座る時、荒々しさが際立っていた。
粗雑な輩というイメージが定着する。
歩夢はより一層警戒して気配をなるべく消すように努める。
そんな歩夢を察してか、ナサニエルはテーブルの下で歩夢にハンドサインを送る。
OKのようなサイン。
(何がOKなんだ?このまま隠れてろって意味か?)
歩夢はよく分からないままその場でじっとしていると、ナサニエルは輩に口を開く。
「新メニューのお披露目会だったんだけど?邪魔しないでくれる?」
「新メニューだ?これは人間の食い物じゃないか。この店は俺たち夢界の住人を蔑ろにして人間に媚び売ろうってのか?」
この輩の言葉で歩夢は実感した。
この世界の住人は人間のことをよく思っていない、と。
正直、ナサニエルとダンがこの後どう返すのか歩夢は気になった。
現地人から嫌われている人間を匿う二人は、この世界でどう振る舞うのか。
それによって歩夢の今後の身の振り方が大きく変わる。
歩夢は息を呑んで二人の言葉に耳を傾ける。
「人間の食べ物を新メニューとしてるのはオーナーの意向でね」
「オーナー?ネイト、お前の父親の意向ってことか?いつからムーア家は人間と仲良しになったんだ?人間をあれほど憎んでいた家紋も地に落ちたな」
「我が家紋は人間を憎んでいる訳でも人間を贔屓している訳でもない」
「じゃあ何でこんな、人間と獏の半端者がやってる店に投資なんかしてんだ?」
「わかってないな?人間もハーフも監視するためだよ。人間の食べ物を並べれば人間が寄ってくるだろう?探す手間が省ける。君たち警ら隊が介入できない場所に、我がムーア財閥がわざわざ入ってやってるんじゃないか。我が国は財政が厳しいだろう?それを無償で助けてやってるんだ。少しは感謝してくれよ」
「という訳だから、帰ってくれ。営業妨害でお前の上司に連絡入れるぞ?ナサニエルが。意味わかるだろう?ムーア財閥の投資が消えたらお前らの活動だってできなくなるんだぜ?」
輩の舌打ちが聞こえてきた。
テーブルの下で聞いている歩夢はヒヤヒヤしながら会話を聞いていた。
一触即発、とまではいかなくても、それなりに緊迫した状況だったことに違いはない。
歩夢の目の前にあった足が遠ざかり、椅子が引く音と共に輩が立ち上がった。
その足はそのまま扉へと向かい、立ち止まってつま先がこちらを向く。
「俺の上司はお前らを信用しているが、俺は信用していない。俺に目をつけられてることを忘れるなよ?」
そう言って三人は出て行った。
ようやく深呼吸ができる歩夢は深く息を吐いた。
その呼吸音を聞いてナサニエルはクスリと笑って歩夢に声をかける。
「出ておいで。もう大丈夫」
ゆっくりとテーブルの下から顔を出した歩夢はそのまま固まる。
心配したダニエルが覗き込んだ。
「どうした?」
「…足が痺れて立ち上がれない」
ダニエルとナサニエルが大笑いしている中、歩夢は恥を忍んで椅子にもたれかかって痺れに耐えるしかなかった。




