再会
歩夢の緊張が最高潮に達した時、男の手のひらの中にあるものを見て歩夢は一気に脱力した。
「…なんだよ……タバコかよ…クソ!」
男は悠長にタバコに火をつけて一服。歩夢は今までの緊張はなんだったのかバカらしくなりその場にしゃがみ込んだ。その様子を見て男は心配する。
「どうした?大丈夫か?腹でも下したか?」
全く的外れな男の心配を聞いて歩夢は切れた顔で男を睨む。男はなぜ睨まれてるのかわからないと言ったような表情だ。そしてまた、男は的外れな推測をする。
「あ、腹減って動けない感じ?食うか?」
そう言って男はタバコを口に咥えて両手をズボンのポケットに突っ込み何やら探している。そして左のポケットで見つけた何かを歩夢に向かって投げてきた。歩夢は驚きつつもなんとかキャッチする。手に収まったものを見ると、個包装されたキャンディらしきものだった。
歩夢はそのキャンディを見回す。こっちの言葉は現世の日本語とは違うはずなのだが、今の歩夢にははっきりと読むことができた。
“Wキャンディ“
(ダブルってなんだ…?)
そう思いつつも、こっちの世界に来てまだこちらの食べ物を口にしていなかった歩夢はとりあえず食べることにした。袋を開けて口の中に放ると、甘酸っぱい味が口いっぱいに広がる。
「…美味しい」
思わず漏れた言葉だった。その言葉を聞き逃さなかった男はしゃがみ込む歩夢の元へと駆け寄って目線を同じにし、ニカっと音が出るような笑みをこぼした。
「だろ!?この店は何を食っても最高なんだ!食べに行こうぜ!」
唐突に食事に誘われて戸惑う歩夢。先ほどこの男から逃げ回っていたというのに。展開についていけず、歩夢は口を半開きにし眉間に皺を寄せることしかできなかった。男はそんな歩夢を気にせず立ち上がり、手を差し伸べて笑う。
「俺はナサニエル。人間、お前は何て言うんだ?」
「……」
ナサニエルと言った男が本当に信用できる人物なのか確証がない歩夢は、差し出された手を取っていいのかわからず、彼の手と彼の顔を交互に見やる。痺れを切らしたナサニエルは歩夢の手を掴んで引き上げてハグをし、歩夢の背中をバシバシと叩く。
「そう警戒すんなって!俺はこう見えて人間擁護派だし!何度もこっちに迷い込んだ人間を助けてんだぜ?帰り方がわからないのなら教えてやるよ!」
ナサニエルは歩夢の両肩を掴んで顔を覗き込み、またニカッと音がついてきそうな勢いで笑う。よく見ると誰かに似ているような気もしたが、頭が回らず思い出せない。彼の目元を見ていると、ナサニエルは歩夢の首筋に顔を沈めてきた。歩夢は咄嗟に距離を取ろうとするが、ナサニエルの力には敵わずされるがまま。ナサニエルはそのまま歩夢の首の匂いを嗅ぐ。徐々に鳥肌が立ってきた歩夢。何をされるかわからない恐怖と気持ち悪さ。そんな歩夢をよそにナサニエルは顔を上げて、真っ白い歯をのぞかせた。
「おし!人間くさいの消えたぞ!だが油断は禁物だ!こっちの飯くって早いとこ安心しようぜ?」
ナサニエルはそう言うと歩夢の手を掴んでどこかへと向かう。手を振り解きたいがナサニエルの力が強すぎて解けない歩夢は諦めて彼に従うことにした。すれ違う街の人々は男同士が手を繋いでることに好奇の目を向ける。居た堪れなくなってくる歩夢だが、ナサニエルが悪い奴ではなさそうなので無碍にもできない。羞恥心に耐えながら歩いているとナサニエルはあるお店に入っていく。どこかで見たことがあるような風景だ。
手を引っ張らられたまま歩夢は店内を進んで行く。またもや見覚えのある奥のテーブル席についた。そして注文を取りに来たウェイターを見て歩夢は声を上げる。
「テレサ!?」
「歩夢!?なんでいるの??」
「何?知り合い???」
再会に驚く二人。
腹ごしらえをしようと連れてきた馴染みの店で馴染みの店員に会い、まさか連れてきた客とその店員が知り合いだったナサニエル。ニヤニヤしながら二人に問うナサニエルは、いたずらっ子の顔をしていた。
「まさかこの店に人間が出入りしてたとはね〜」
他の客にも聞こえるような大きな声で言い放ったナサニエル。横で食事をしていた客は食事を中断して席を立った。他にもチラホラと席を立つ客がいる。
状況がわからず困惑する歩夢と、焦るテレサ。ナサニエルはニヤニヤしながら先ほど帰った隣の客が手をつけず残していった飲み物を取って飲んでいた。




