協力依頼
「なんだ、こっち側の人間かよ。じゃあ、このまま話すぞ?」
「構わない。どうせ、新宿の失踪事件のことだろ?」
「そうだ。で、失踪した人間は見つかったか?」
「いや、まだ。何せ、そう何時間も店を空けて、向こうに行ってはいられないからな」
歩夢は目の前で展開される話についていけない。
ただ、“新宿の失踪事件”というワードに引っかかった。
先ほどレルに見せてもらった写真。
(この男性はあれを調べている刑事だろうか?)
推測しながら歩夢は二人の会話に耳を傾ける。
「現場にはカクテルも何も見つからない。別のものを使ってトリップしたということだ。何か心当たりはないか?」
「うちで売ってるのはカクテルだけ。ここはパブだぞ?酒が売りだ」
「お前はそうかもしれないが、他の連中はどうだ?何かトリップできそうなものを売ってる奴を知らないか?」
「うちには人間をさらって得をするような奴はいないよ」
「お前の仲間を疑ってるんじゃない。何かトリップできるものを作れる奴はいないか、と聞いている」
「同じことだろう」
先ほどまで仲が良かったように感じた二人の会話だが、今は火花がばちばちに散っている。
歩夢は気まずくなるが、ロキが替えの紅茶を持ってきてくれたおかげで場が一度切れた。
このままロキと一緒に部屋を出て行きたいが、そうするとレルにカクテルをもらうまで下のバーカウンターで待たなければならない。
ロキが出入りする時に聞こえた喧騒。
おそらくパブの一階は今、飲みにきた客で賑わっているのだろう。
初めての空間でアウェイな雰囲気になるのはやや気が引ける。
重苦しい雰囲気だとしても、今はレルと一緒にいた方が安全だと判断し、歩夢は諦めて紅茶を味わうことにした。
宗文のグラスにビールを注ぐロキに話しかける宗文。
「ロキ、お前は知らないか?トリップできるもの」
「カクテルですか?」
「それ以外にだ」
「カクテルのレシピを応用すればそんなのいくらでも作れますよ。それ追ったってキリないでしょ」
「お前は作れるか?」
「いえ、僕はトリップじゃなくて、ドリームキャッチャー専門なんで無理です」
ドリームキャッチャー。
歩夢は聞いたことがあるような気がしたが、それがなんなのかわからなかった。
(夢を掴む道具か…?)
「ボウズ、お前は知らないか?」
「ほぇ?」
まさか自分に話を振られるとは思わず、驚く歩夢。
どうしていいかわからずにレルの方を見た。
レルは歩夢を助けるわけでもなく、タバコを挟んでいる右手でグラスをもち、ビールを飲んでいる。
「いや、俺は、その、よくわかりません」
「ふーん、じゃあ、そのブレザーの右ポケットに入ってるものはなんだ?」
右のポケットには、ダニエルからもらったお菓子の小瓶が入っている。
これがなんだというのだろうか。
歩夢はポケットのものを出してテーブルに置いた。
レルが口を開く。
「ただのお菓子だよ」
「それは、夢界の食べ物だろ?なんでこっちにあるんだ?」
「私があげた。この前あっちに行ってきた、土産だ」
「土産?異世界のものを持ち帰るのは違法だぞ。現世にどんな影響が出るかわからん」
「たかが数個でどんな影響が出るっていうだ?ただのお菓子だ。お前も食べてみるか?」
そう言ってレルは瓶の蓋を開けて差し出すと、宗文はそれを受け取った。
彼はそのまま瓶を口元に持ってきて、逆さまにする。
中に入っているお菓子が全て宗文の口の中へと入っていった。
それを思わず口を空けて見つめる歩夢。
歩夢の反応を見て笑うレル。
なぜ笑われているのかわからない宗文。
ロキは三人をそれぞれ見やった後、何が起きているのか察したようだ。
「お前はひどいな。それはこの少年への土産だというのに。一口も食べずにお前に全部食われるとは。なんて可哀想な」
「土産じゃないだろ。これは、そのボウズがあっちから持って帰ってきたものだ。匂うぞ。ボウズ、これ食ったろ?」
全てバレていた。
宗文という男は、異界課の刑事と言うだけあって、観察眼は鋭い。
レルはケタケタ笑いながら事の真相を話した。
全てを聞いた宗文は驚く。
「悪夢を取り返すだぁ?お前は何を言っているのかわかっているのか?」
怒る勢いで歩夢に詰め寄る宗文。
歩夢は怯みそうになるが、踏ん張って言い返す。
「友達に危険が迫ってるんです。だから、助けなきゃならないんです」
「他にも方法はあるだろう?」
「じゃあ教えてくださいよ、悪夢でしか会えない彼女の居場所を突き止める方法を」
歩夢にそう言われると黙り込む宗文。
警察がまともに取り合うはずはない。
悪夢に出てきた女の子を探して助けてくれ、など。
ストーカー被害に遭っても実害が出ていない限り警察は動けないというのに。
「そういうわけだから。私はお前たちにできない人助けをしているんだ。歩夢のことは目を瞑ってくれ」
レルが歩夢のために宗文を説得している。
歩夢は余計なことを口に出さない方がいいだろう。
そう思ってレルに任せていると、宗文から交換条件を提案される。
「歩夢君がトリップしている件と、お前が高校生に酒を飲ませてる件は目を瞑ろう。その代わり、あっちにトリップしたら、この失踪事件の被害者たちがいないか探してくれ。もしかしたら夢界から帰れなくなってる可能性がある」




