VI
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空が茜色の夕日に染まってきた頃、街には疲労困憊で肩で息をしながら歩いてゆく二人の姿があった。
彼女に振り回され、飛鳥は大学と街で一日中、ナンパをさせられた。
ちなみに女子たちには、飛鳥以上にサハリエルが人気があった。
美人で高飛車、時々古風な言葉を使う彼女のキャラは、意外にも女性受けが良いようだ。
最も当の彼女は、すっかりと疲弊しているが。
「今時の女子は、いつもあんなに元気なの……?」
「あはは……女の子は、可愛いものが好きですから」
「それは私のことを言ってるのかしら……。まぁいいわ、連絡先を交換した中に気になった女子は居た? こういうのは、待たせない方が良いわ。早めに好意を示して……」
その時、儚げな旋律が二人の耳朶を打った――。
二人が視線を向けた先では、路上ライブが行われていた。
飛鳥と同年代の男女混成のロックバンドで、集まってる人の数を見ると結構な人気のようだ。
中央に立つのは、白金色の長髪と、淡青色の瞳を持つ愛らしい顔立ちの女性だ。
〝降りしきる雪に涙を隠して
押し殺したこの想いは冷たい大地へ
あの教会の鐘楼に登ろう
日付が変わると同時に私は鐘を鳴らす
あなたへの想いは今日へと置いてゆく
それでも朝が訪れば、雪が溶ければ
甦る、この鼓動
今、私の胸に溢れるのは、君がくれた暖かさ
溶けない雪がないように、この愛も消えないから 〟
歌が終わり、女性を中心にメンバーが頭を下げれば、耳が張り裂けんばかりの拍手が響く。
気がつけば、聴衆もかなり増えている。
そして女性の声に聴き惚れていたのは飛鳥も同じだった。
隣でサハリエルが意味深な笑みを浮かべた気がしたが、今は気にしない。
この音楽の余韻に浸っていたかったから。
ライブ後はメンバーとファンの交流時間が設けられた。
この距離感の近さが、路上ライブの良さだろう。
その場に立ち尽くしていると、ボーカルの女性が飛鳥達の姿を目に止める。
「二人は初めてだね、来てくれて……って宇佐美飛鳥!?」