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八王子にある飛鳥が通う私立大学は、東京ドーム約八個分の広さを持つ自然豊かなキャンパスだ。
著名なドイツ人の建築家がデザインした最新設備を備えた講義練やスポーツ施設、偏差値は中の上、まだ歴史が浅いながらも志望者はとても多い。
そんなキャンパスは、今ある噂で持ちきりだった。
整った顔立ちと社交的な性格、大学一のイケメン、我が校の誇り、むしろ東京の誇りとも名高い飛鳥が謎の美女を連れて来たと。
それも艶やかな濡羽色の髪と、映画か音楽のPVでしか見ることのないようなファーコートを風に靡かせ、寒空の下でもブランド物のサングラスをかけたセレブ美女。
首元には、飛鳥の贈った、雪の結晶がモチーフの首飾りが、かけられていた。
「ふっ、有象無象の人間どもが、私の美貌から目が離せないようね」
この服は飛鳥がコンビニで見繕ってきた雑誌から、サハリエルが気に入って天使の力で生み出したものだ。
それ自体には最早、突っ込まない。
首飾りを使ってくれていることも、意外と律儀なのだなと嬉しく思う。
だが、よりによって何故こんなに目立つ服を選んだのか。
ちなみに参考にしたのは、表紙を開いてすぐにある海外のハイブランドの広告か何かだったと思う。
飛鳥は今日一日のことを考えると、はげしい頭痛に襲われた。
かくして、その予感は的中する。
「見なさい! 飛鳥!! あの女子など魅力的ではないの。顔も愛らしく、胸のサイズも申し分ない。もちろん、この私ほどではないけどね」
「法学部の小森さんですか。可愛いですよね。天然そうなのに将来弁護士になったら、法廷でスーツを着てビシバシと議論するのかなぁ。その姿を想像するだけで、ドキドキしちゃいますね。あ、でもレディが胸のサイズとか大声で言うのは良くない……」
「そうと決まれば早速アプローチね!!」
「あぁ、待ってください! そんな急に〜!!!」
抵抗する間もなく、走り出すサハリエルによって、彼は引きずられて行った。
「見なさい! 飛鳥!! あの女子など魅力的ではないの。切れ長の瞳に磁器のような肌、脚の長さも素晴らしいわ。言うまでもなく、私ほどではないけどね」
「外国語学部の菊池さんですか。美人ですよね。あぁ見えて、可愛いものが大好きらしいですよ。でも、恋人はきっとクールな自分が好きだからって、猫の動画とかを見てても彼氏さんが来ると、すぐにスマホを隠しちゃうんです。二人で猫カフェとか言ったら、絶対に楽しい……」
「そうと決まれば早速アプローチね!!」
「あぁ、待ってください! 相手は彼氏持ち〜!!!」