表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

大統領演説

作者: 雉白書屋

 とある会場。演説を控え、ソファで寝息を立てている大統領に秘書がそっと声をかけた。


「大統領、大統領」

「んあ!? ……なんだ? 髪のセットは終わったか?」


「ええ、とっくに終わってます。そろそろお時間です」

「ああ……それで、準備はどうだ?」


「ええ、こちらに用意してあります」

「馬鹿、原稿のことじゃない。スナイパーは何人配置した?」


「三人です」

「三人だと!? はあ……」


「少なかったですか? ですが……」

「まったく……いいか、私がこの選挙戦に勝って大統領を続けるためには、なんとしてもこの地区を制さねばならん。そのために必要なことはなんだ?」


「民衆に力強さをアピールする、ですよね? 私たちチームがそう提案しました」

「そうだ。だが、スナイパーを三人とは……。それから、警備員の数は?」


「ご要望通り減らしました。多すぎると聴衆に圧迫感や臆病者の印象を与えるとのことで」

「うむ。それでいい……。スナイパーの数も減らせ」


「ですが大統領、先週の暗殺未遂では、スナイパーの数は増やすべきだとご自身でおっしゃったではありませんか」

「……ああ、わかったよ。ふん……それで段取りは?」


「ええ、こちらにまとめてあります。まず――」


 ついにそのときがやってきた。大統領はステージに立ち、演説台の前で集まった聴衆に向けて力強く語りかけた。


『私は、この社会の不和と分断を癒し、性別、宗教、肌の色に関係なく、国民が団結し、安全で繁栄する新時代を――』


 だが突如、一発の銃声がその声を遮った。弾丸は大統領の右耳をかすめ、大統領は身を低くしながら冷静にステージを降りようと左へ一歩踏み出した。しかし、その瞬間、二人目のスナイパーの銃弾が大統領の鼻先をかすめた。

 ここでようやく、驚きで固まっていた聴衆が悲鳴を上げ始めた。

 大統領が一歩後ろに下がる。その瞬間、三人目のスナイパーの銃弾が大統領の左耳をかすめた。


 ――今だ。


 大統領は演説台を蹴倒し、腕を高く掲げて叫んだ。


「私は屈しない!」


 すべてが台本通りだった。会場は割れんばかりの歓声に包まれ、「決まった」と勝利を確信した大統領は、笑みを抑えきれなかった。

 この日の演出が生まれた背景には、数か月前の『本物』の暗殺未遂事件があった。

 奇跡的に凶弾を免れたその事件のあと、大統領は暗殺未遂と支持率上昇が密接な関係にあることに気づいた。民衆は暴力に屈しない強いリーダーを求めている。そう確信した大統領はそれ以来、暗殺未遂を演出し続けたのだ。

 そしてこの日、三人のスナイパーを配置し、それぞれに『体をかすめる』よう指示を与え、大統領はステージ上で見事に舞ってみせたのだった。しかし……


 ――四発目!?


 再び銃声が会場に響き渡った。観覧席から放たれた弾丸が、大統領の右胸を貫いた。


 ――まさか、これは……本当に……えっ、五発目!? 六!? 七!? 八……


 銃声は続き、次々と弾丸が大統領の体を撃ち抜いていく。大統領はグーサインをしたまま、倒れることもできず、肩を揺らし、まるで挑発的なダンスを踊っているかのようだった。


 その後、捕まった暗殺犯たちはこう語った。


「毎回暗殺未遂が起きるほど嫌われてるし、おれもやってやろうかと思ったんだ」と……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ