第40話:私の目的は、アリシアを幸せにすることなの。
「俺は、宮廷社会の醜いゴタゴタの中に再びアリシアを放り込みたくはない。俺がセレスタの亡骸と一緒に、アリシアを引き取ってきたのは、そのためだったと言うのに……」
「わ、私は……」
カレルさんの冷静な言葉を聞いて、私の心の中が少しずつ整理されてきた。
「私の目的は、アリシアを幸せにすることなの。そのためならば、自分はどうなっても構わないわ。だから、アリシアの気持ちを尊重する。アリシアが平和な国に逃げたいと言うのなら、私はアリシアと逃げるし、王太子妃になりたいと言うのなら、この子をお城へ連れていくわ」
フィドルさんとカレルさん、私たちの保護者代わりの二人は、戸惑った顔をした。
「アリー、あなたは、どうしたい?」
静かに大人たちの言葉を聞いていたアリシアが、家族の顔を見回す。
「アリーは、王子さまに、会いたいの」
え……っ?
三人の大人はこぞって驚きの顔を浮かべた。
「アリーは、王子さまに、会いたい」
アリシアは、切なげな顔をして、片方しかなくなってしまったガラスの靴を握りしめていた。
「アリー、あなたまさか、昨日あんなに泣いていたのは、ガラスの靴を失くしたからではなくて、王太子様との別れが辛かったからなの……!?」
アリシアは、そっと頷いた。
私たちは天を仰いだ。
まだこの子、五歳のハズなんだけど……。
「無理からぬことなのかもしれないな……。王家の人間は、『運命の相手』を見付けた瞬間に深くその者を愛し、離れがたい気持ちになると言われている。王族の結婚相手になったことのある人間にしか分からないことだが、もしかしたら、『運命の相手』の方も、王子に見初められた時、その瞬間に心を奪われてしまうのかもしれない」
私はカレルさんの言葉に、ペンダントの中のエヴァンを見るたびに胸を締め付けられるような愛しさを思い出していた。
かつてのセレスタも、エヴァンの『運命の恋人』で、彼らは強く惹かれ合っていたのかもしれない。
私がエヴァンに対して抱いているものと同じような気持ちを、アリシアも王太子殿下に抱いているのかもしれない。
「……分かったわ」
私は覚悟を決めて宣言した。
「逃げも隠れもしない。私は明日、アリシアと一緒にお城へ行く」
「ダメだ……っ!」
フィドルさんが私の身体を抱き締めて言う。
「行ってはいけない、セティ……っ!行ったら君は殺されてしまう。何のために、僕が君をこの世に蘇らせたと思うんだ!?母を失ったアリシアがあまりにも不憫で……かわいそうだったから、アリシアのために君を蘇らせたのに……!こんなことになるのなら、どんなに君が働きたいと言っても、この家に閉じ込めて置くべきだった……!君が下手に出歩くようなことをしたからこんなことになってしまったんだ!」
フィドルさんは、心底悔しいと言う顔をして、怒鳴るように言った。
「フィー、ごめんなさい。だいじょうぶ。おかあしゃまのことはアリーが守るよ」
アリシアはきっぱりと言う。
アリシアはいつも迷いがなく、自分の心に正直に話す。
だからこそそんなアリシアの言葉には、不思議な安心感があり、信憑性があるような気がしてくる。
カレルさんは考え込みながら言う。
「……分かった。王宮へは俺が連絡をしておこう。ここにピンクの髪にアメジストの瞳を持つ五歳の少女がいる、すぐに迎えに来い、とな。そうでも無ければ、のこのこ王宮へ向かいなどしたら、褒美を狙った心無い人間たちに容赦なく捕まるだろう」




