第3話:と、言うことは私(というかこの女)、十九歳の時にこの子を産んでるのっ?
「セティ……!セティ、やっと目を醒ましたんだね……!もう、意識が戻ることはないものかと……っ!」
素敵な声だった。少なくとも声だけなら間違いなくイケメン。
私は恐る恐る目を開けた。
目に飛び込んできた男性の顔。
私は再び卒倒しそうになった。
「あ、アンドリュー!?」
目の前の欧米系男性の顔は、スマホの中ので何度も見たアンドリューの画像にそっくりだった。
茶色い髪に薄茶色の瞳、いわゆる『イケメン』の部類に入るような洗練された華やかさはないけど、優しげで目尻が下がっていて、黙っているだけで笑っているような柔和な顔……。
「ち、ちょっと待って、じゃあ、私の夫は(私が身体を許したであろうお相手は)、そしてこの可愛らしい女の子のお父さんは、あ、あなたなの!?アンドリュー!?」
私をロマンス詐欺に陥れて人生を破滅させた自称オーストラリア人――アンドリューそっくりの男に向かって叫ぶように言った。
柔和な顔は怪訝そうに歪められた。
「アンドリュー?いったい何の話をしているんだい。僕の名前はフィドルだよ。フィドル・クルール。君の夫でも、アリシアのお父さんでもない」
「じゃあ、あなたはいったい誰なの……?私の名前は『セティ』と言うの?」
アンドリュー改めフィドルさんは悲しげに眉尻を下げた。
「やっぱり、記憶がないんだね……。無理もない。本当に酷い目に遭ったようだから」
やっぱり……?
私は若干の違和感を覚えながら聞き返す。
「ええと……、私、本当に何も覚えていないんです。私は、どこの誰なのですか?この子の、お父さんは……?」
話の流れ的に、まさか現代日本から転生してきましたとは言い出せなくて、私は記憶喪失だと言うことにして、相手に話を合わせてみた。
「君はセレスタ・クルール。僕は、フィドル・クルール。僕は君のお兄さんだよ。僕たちが幼い頃にお母さんが死んでしまって、僕たちは父親に育てられたんだけどね、その父親も僕が十八歳の時に他界。以来十年間、僕が君を養ってきたんだ。幸い僕を宝石職人として雇ってくれた親方さんがいい人で、面倒を見てくれているから、今日までなんとかやってこれたんだけどね…」
「えっと、そうするとあなたはいま二十八歳。私は……?」
「四歳下の二十四歳のはずだよ」
二十四歳のはず……?
妹だと言うのにずいぶん曖昧だ。
ともあれ、どうやらセレスタと私は同い年のようだ。私も、死ぬ前は二十四歳の日本人女性だった。
二十四歳の誕生日に、アンドリューは薔薇の花束を送ってくれたのだ。
「それで、この子は何歳なのかしら?」
私は傍らでつまらなそうに私たちの会話を聞いている銀髪紫眼の超絶美少女を見ながら言った。
「五さい、だよ」
少女はにこにこしながら言う。
か、かわいい……。
「と、言うことは私(というかこの女)、十九歳の時にこの子を産んでるのっ?」
いろいろ衝撃だった。
十九と言ったら、私が高卒で働き始めた頃ではないか。
この中世ヨーロッパ風のアニメみたいな世界では普通のことなのかもしれないけど、二〇〇〇年代の現代日本で男性との触れ合いもほとんどなく育ってきた私には、いささか刺激が強すぎる。
「この子の父親が誰なのか、申し訳ないけど僕も知らないんだ……」
彼は衝撃的な話を更に続けた。
「情けないことに、セティが十六の時にこの家を出てから、君がどこで何をしてたか、僕も把握できていなんだ……。だから、本当に驚いたんだ。ある日セティが――あっ、ごめんね、僕は君のことをセティと呼んでいたんだけど……セティがこんなに大きな女の子を連れて、僕の家の前に倒れていた時は……。君は意識不明だった。身体中に酷い怪我をしていて、なんとか命からがらこの家の前まで辿り着いた、と言った様子だったよ……」