第29話:ねえ、絶対にないとは思うけど、アリシアの父親がまさかあなただったりはしないわよね
「悪くない対応だった」
店を出て一言、カレルさんは私を褒めてくれた。
相変わらず無表情なのでよく分からないけど、褒めてくれてるんだろう、と、思う。
前世では、上司に褒めてもらったことなど一度もなかった。
カレルさんは大股でゆっくりと私たちの斜め前を歩きながら言う。
「自信無さげに薦められるよりは、堂々と良いものだと薦められれば、相手は安心するからな」
「カレルさんは、ああいう営業の仕方もなさるんですね。なんだか、ちょっとがっかりでした」
私は傷付いた気持ちのままそう言っていた。
「なんの話だ」
カレルさんは変わらぬトーンで言う。
「なんの話って……分からないんですか?もう。若い男性を愛でるマダムの気持ちに漬け込むようなことして……」
このなんとも言えない気持ちを、どう伝えればよいものか。
「大丈夫だよ~おかあしゃま。カレルさんが好きなのは、おかあしゃまだからね~!」
アリシアが茶化すように突拍子もないことを言う。
「はあ……?誰がこんなアバズレ女……」
カレルさんはアリシアからの突然の攻撃にも顔色一つ変えずいつものうんざり声で言うのだった。
いやいや、アバズレ女はヒルダ・ビューレンで、私じゃないってば。
「ねえ、絶対にないとは思うけど、アリシアの父親がまさかあなただったりはしないわよね」
私はまさかと思いながらアリシアに聞こえないように小声で聞く。
だが悪女ヒルダ・ビューレンなら生前、何を仕出かしているか分かったものではない。カレルさんも充分に若く美しい男性なのだから。
「んな訳あるか!バカかお前は……っ!」
カレルさんは今度こそ声を荒げて全否定するのだった。
そうか。
なんか、良かった。
そうだったらどうしようかと思った。
「さっさといくぞ。商品の数を考えたら、あと一ヶ所だな」
カレルさんはどんどん歩いていく。
ほんとに、手練れの宝石商人であるカレルさんの人脈に感謝しなくちゃ。私一人じゃこうはいかない。
この後、もう一ヶ所同じような大きなカフェに私の作品は置いてもらえることになった。
もう一ヶ所は大きな公園に面したテラス席のあるカフェだった。
店主は男性で、カレルさんに色目を使ったりしないし、ヒルダ・ビューレンのことも知らない、真面目そうな執事のような方だったのでほっと安心した。
残りの半分の作品が、カフェのカウンター席の一角に、綺麗に整理されて並べられていくのを見て、嬉しい気持ちになった。
今回作った作品は五十点あった。
全て売れれば十万ルシルになる。
もっともっと作ろう。
いろんな場所でたくさん売って、すこしでもお金を稼ぐのだ。
「セレスタ、アリシア。どこでもいいから好きな席に座れ」
店との交渉が終わって、そのまま帰るのかと思いきや、カレルさんは、テラス席を示して言った。
「えっ……?」
私はカレルさんの言葉に驚く。
「さっさとしろよ」
「わーい……!アリーカフェすき~」
アリシアが大喜びで公園に面したテラス席の一つにいそいそと座った。
「ここのパンプディングが美味しいんだ」
カレルさんは私たちに何も聞かずに勝手にパンプディングと紅茶を三人分頼んでしまった。
ここに来ればこれだと決まっているかのように。
意外だった。
カレルさんにお気に入りのお菓子と紅茶があるなんて。
いつ誰と来るんだろう。
カレルさんは私にお店を任せてふらりと居なくなる時間が多いけど、可愛い彼女とデートでもしてるんだろうか。
それともまさかお一人様……?
ますますカレルさんの不思議度合いが深まっていく。
色気たっぷりのマダムに迫られても顔色一つ変えてなかったし、ここの真面目そうな店主にも、明らかに身分の高そうなラングトン伯爵にも一目置かれているようだった。
何よりみんな、カレルさんのことをクラマルス卿と呼ぶ。
「卿」を付けて呼ぶのってどんな身分の人?ヨーロッパ風異世界のことに詳しくない私にはよく分からない。
一方でヒルダ・ビューレンのような悪女を蘇らせるためにわざわざ私の魂を転生させる大魔法を使えるような魔法使いなのだ。




