第28話:アリシア、いつもここぞと言うときに母を助けてくれて、ありがとう。
「これを、ここに、置けと?」
マダムはカレルさんの手を離し、私のビーズ細工を手に取り鼻で笑った後、値踏みするように私の顔を見る。
「あらあなた……どこかで見たことのあるような顔ね……」
彼女の顔がますます怪訝そうに歪む。
「おかあしゃまのビーズ、キレイだよ~私大好き」
アリシアがすかさず背伸びしてどや顔でマダムに主張する。
アリシア、いつもここぞと言うときに母を助けてくれて、ありがとう。
「あ、あの……っ、娘もとても、お気に入りなんです。子どもさんのおもちゃと思っていただいてもかまいません。カフェに来られたお客様のお土産に、ぴったりじゃないかなって。全て私が一つ一つ丁寧に作った一点ものです。こんな緻密なデザインのビーズ細工は、他のどこでも手に入りません」
私は怯まず声を張って堂々と言った。
何も恐縮することなんてない。
兄フィドルさんの工房で丁寧に作られたビーズ達、それを私が一つ一つ丁寧に仕上げたお花や、蝶々だ。
胸を張ってお薦めできる。
「ビーズでこんなものを作れるんですね、可愛い!いくらなんですか?私も欲しいです!」
遠巻きに様子を見ていた他の従業員が目を輝かせて歓声を上げると、お会計するためにカウンターにやって来た奥様もそれに加わる。
「ほんとね、可愛いわ。私はこの指輪にしようかしら……?いくらですか?」
「お買い上げいただけるのですか!?」
よかった。
小さく美しきものを愛でる心が異世界も日本も共通で……!
「すべて、一律二千ルシルです!」
「二千ルシル?安いわね。ではこれとこれ、二ついただくわ。お金はここで支払えばいいの?」
カフェのお客様だった三十代前後の女性は、千ルシル札を四枚、さっさと私に渡し、薔薇のモチーフの指輪と、アリシアのブレスレットと同じデザインの、マーガレットの指輪をお買い上げくださった。
う、う、売れた……!
こんなにあっさり。
カレルさんの言った通りだった。
原価はほとんどゼロに近いものが、このお値段で売れるなんて。
二千ルシルなんて、この人達からしたらはした金なのだろう。
「あ!お客様……カフェのお代はこちらでお支払いください」
従業員がカウンターに立って彼女に言う。
その様子を見ていたマダム・ロゼッタは微笑んで言った。
「分かりましたわ。他ならぬクラマルス卿の頼みとあらば、わたくしも一肌脱ぎましょう。この貸しは高く付きますわよ、カレル」
マダム・ロゼッタが大人の色気たっぷりの声色で、優雅にカレルさんの右頬に手をやり、反対の頬にキスしながら言うので、私はどぎまぎしながらその様子を見ていた。
作品を置いてもらえるのは嬉しいけど、なんだか複雑な気分だ。
カレルさんは営業モードを崩さずポーカーフェイスで対応してるけど、「貸し」っていったい、なんなのだ。




