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嫌われ悪女セレスタが殺された理由  作者: 滝川朗
第三章:ブランド力
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第27話:誰にも秘密よ、おかあしゃま

「店に入る前に」

 カレルさんはえりを正しておごそかに言った。


 カレルさんは私に箱の中の作品を見せろと言う。


 うながされるままに箱のふたを開けた。

 アルミみたいな軽い金属でできた、昔のクッキーの缶みたいな箱の中に、私の作品がところ狭しと詰められている。


 カレルさんはささやくような声で言う。


「神よ、笑みたまえ」


 カレルさんの人差し指は今日も雄弁ゆうべんに小さなアクセサリー達に魔法を掛けた。


 私の作品たちがふわりと内側からほのかな光を放ったように見えた。


「アリシア、君にもだ」

 カレルさんはアリシアの腕に付いているマーガレットのブレスレットにも同じようにした。


「最後に」

 カレルさんは一番小さな作品であるピンキーリングをまみ上げると、私の手を取って小指に差し込んだ。


「これは、頼りない新米従業員がヘマをしないための加護だ」


「な……っ」

 唐突な行いに、赤面してしまう。


「ちょっとしたまじないだ。あまり効果が強すぎるものだと怪しまれるだろう?悪夢を見ないとか、靴紐が切れないとか、大事な日に晴れる、とか、本人も気付かないようなちょっとした加護が、これを身に付けている限りは得られる」


 カレルさんの長い人差し指が私の小指のピンキーリングを弾く。

 素敵だ。私の胸はときめいた。

 カレルさんのちょっとした遊び心だ。


「素敵な魔法だわ」


「他言はするなよ、絶対に」

 カレルさんは念を押すように言った。


「誰にも秘密よ、おかあしゃま」

 アリシアまでもが、おませな顔をして言うのだった。


 私は大きくうなずいて、三人で意気揚々(いきようよう)とカフェへ足を踏み入れた。




 とたん、ざわざわと人々の話し声がいっぱいに広がる。

 みんな各々(おのおの)着飾っている。

 古着のワンピースを着ている私とアリシアは肩身が狭かった。はやくお金を稼いで、アリシアにお洒落をさせてあげたいものだ。


 この国のカフェに入るのは初めてのことだった。

 さっきまで緊張でドキドキしていたのに、カレルさんのピンキーリングのおかげか、私の心はいでいた。


 カレルさんはまっすぐにお会計用のレジスターのあるカウンターへ向かい、そこに居た従業員に二言三言何やら伝えていた。

 クリーム色のワンピースに白いエプロンという可愛らしい制服の女性は、驚いた顔をして店の奥へ引っ込んでいく。


 しばらくして慌てたように一人のマダムが出てきた。


 白髪混じりの茶色い髪を美しく結った五十代前後の美魔女だった。

 濃い緑の華やかなドレスとそれに合わせた宝飾品がとても似合っている。


「クラマルス卿……?あなたがわたくしのお店にいらっしゃるなんて、どんな風の吹き回しかしら。嬉しいわ……」


 美魔女はカレルさんのすぐ隣に立ち、優雅に微笑みながらカレルさんの右手を取ってぎゅっと握った。

 恋する乙女のようにカレルさんを見詰めている。


「ご無沙汰していて申し訳ないです、マダム・ロゼッタ。今日はあなたにお願いがあって参りました」


 カレルさん、真面目スイッチの入った営業モードだ。

 この薔薇の香水の香りのする美魔女もカレル・クラマルス宝石店のお得意様なのかな。


「何をやってる、セレスタ?」

 カレルさんにうながされ、私は慌てて進み出た。

 いま、はじめて名前呼びされたような気がするけど気のせいかな。


「マダム。このお店に、私の作品を置いてもらえないでしょうか」


 私は緊張しながら箱を開き、中身をマダムに見せた。

 マダム・ロゼッタは目を見開く。


「まあ、なんて可愛らしいんでしょう。これは……たしかに、お子さんの『おもちゃ』にちょうどいいわね」

 マダムは皮肉を込めたような口調で言って、くすりと笑う。


 お、お、おもちゃ……!?

 そうか。

 この国の人にとって天然石の削りくずで作ったビーズはあくまでオモチャなのね。

 アクセサリーとしては扱ってもらえないというわけか。

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