第26話:ボロい商売だな……!
現代日本に居た頃は、こんな作品、作れる人は山ほどいたし、私のはあくまで趣味で、自分のために作っていただけだったけど、この世界では凝ったモチーフのビーズ細工は新鮮なのかもしれない。
自分の作品が売り物になるかもしれないと思ったら、とんでもなくワクワクしてきた。
私は斜め前を歩くカレルさんの横顔を盗み見た。
肩の長さで切り揃えられた群青色の髪がサラサラと風になびいている。
カレル・クラマルスは不思議な人だ。
乏しい私の二次元知識の中の魔法使いの外見からは程遠い。
シンデレラの世界の魔法使いだって、眠れる森の美女の魔法使いだって、頭巾をかぶった人の良さそうな妖精さん(なぜかみんなおばちゃん)だったじゃないか。
唯一魔法使いらしさがあるのは左耳にひとつだけ付いた青い宝石のピアスかな。
年齢不詳。落ち着いているからセレスタよりは年上に見える。
フィドルさんぐらいかもしれない。
ふらりと出て行って店を空ける時間も長いし、ぐうたらしていて頼りにならないようでいて、この人に任せておけば取りあえずなんとかしてくれるのではないかと言うような、不思議な安心感もある。
それにアリシアも「カレルさんなら、おかあしゃまを護ってくれる」と言っていたではないか。
「売りに出すなら、値段を決める必要があるな」
歩きながらカレルさんが言う。
「こういったアクセサリーの相場って、いくらぐらいなのかしら」
「原価は?」
「工房で余った原石の欠片から作られたビーズだから、原価なんてあってないようなものなんだって」
私はフィドルさんに言われたままのことを言った。
「テグスと、ワイヤー代はもらおうと思ってる。テグスなら十メーター巻きのものが一つ五百ルシルぐらい。モチーフの大きさによるけど、指輪なら一作品二メーターぐらいかな……となると、一作品百ルシル?石代を入れたとしても二百ルシルぐらいじゃないかしら」
カレルさんは吹き出した。
彼には珍しく楽しげに笑い始める。
「その緻密な作品の原価が一つ二百ルシルとは。ボロい商売だな……!」
カレルさんは愉快そうだった。
たしかに、カレルさんが普段扱っている本物の宝石や純金を使った宝飾品の原価を考えたら、オモチャみたいなものだろう。
「いいぞ……二千ルシルだ。これから行く店に出入りするブルジョワたちの一回分の昼食代ぐらいの値段だ。二千ルシルでも安いと感じられるだろう」
二千ルシル……。
原価二百ルシルのアクセサリーが、十倍の二千ルシルで売れるの?
そりゃあたしかに、ボロい商売だ。
カレルさんの歩く速度がますます速くなるので、私とアリシアはついていくのが精一杯なぐらいだった。
どうやらカレルさんの商売人な部分に火が着いたらしい。
「まずはここだ」
カレルさんが立ち止まる。
大通りに面した煌びやかなカフェだった。
大きな石造りの縦長のビルの一階が全てカフェになっている。銀座の三越みたいな建物だ。上はホテルとかかな。
入り口は金色の手すりの両開きの大きな扉で、扉の上にはこの国の言葉でシンプルに「カフェ」の文字。
臙脂色のルーフの付いたたくさんの窓ガラスから中が見える。
ちょうどお昼過ぎでお客様もたくさんだった。
私はこれからこの立派なカフェに入店するのか……。
なんだか緊張してきた。




