第25話:失敗しても、責任は自分で取れよ
「いったい、何をやってる……」
翌日。
兄に貰った箱にたくさんのビーズとワイヤーを入れて出勤した私を見て、案の定カレルさんは迷惑そうな顔で言った。
「どうせお客さんも来なくて暇なんだから、いーでしょ。まあ、黙って見てなさいよ」
ピンク色お下げに深緑の瞳に伊達眼鏡を掛けた一見文学少女風の超絶美女(それがこの世界での私)は、店番をしがてら、手芸にいそしみ出した。
まずはやっぱりお花のモチーフがいいかしら。材料が少なくても華やかに見えるものがいいわね。
そう。私の前世での趣味はビーズ細工だった。
たしか、はじめての出会いは、小学校の図書館の棚の上に飾られていた昆虫を模したビーズ細工だった。
誰が作ったのか知らないけど、生徒か先生か、凝り性の人がいたのだろう。
テントウムシとか蝶々とか蜻蛉とか、本当に細かく精巧にできていた。
彩りも鮮やかで、ビーズでこんなものが作れるのかと、本当に心が躍ったものだ。
百均にビーズのキットが売られていることを知った私は、母からたまに与えられる食費の百円玉を大事にとっておいて、一つできたらまた一つと、少しずつ作品を増やしていった。
ねこちゃんとかウサギさんとか、イチゴパフェとかチョコレートケーキとか、クリームソーダとかクリスマスのリースとか、百均のキットで作れるものは本当に小さいものだったけど、リカちゃんもシルバニアも持っていない私にとっては、自分の手でそれらを作り出せることが、夢のようだった。
そしてその趣味はずっと続いていて、高卒で働きはじめて少し自由になるお金ができたら、手芸屋さんで材料を少しずつ買い集め、アクセサリーももちろん作るようになったし、自分で考案したデザインのものも作るようになったし、本当に色々なビーズ細工を作ってきた。
唯一の趣味だったとも言えるだろう。
おかげで今、レシピがなくても、兄に貰ったビーズ(大きさも色もまちまち)から、様々なモチーフを作れる。
異世界で昆虫が好まれるかは謎なので、スタンダードにお花にしようか。
薔薇、コスモス、マーガレット、蝶々や四葉のクローバーも作れるぞ。
「おかあしゃま、すごーい!」
一つ目の作品は、アリシアにあげることにした。
白い小さなビーズで作った、小さなマーガレットのモチーフを幾つか連ねて作ったブレスレットだ。
アリシアの小さな腕にぴったりとはまる。
大人用には同じモチーフで指輪を作った。
指輪なんて秒で作れる。
他にもいろんなモチーフをどんどん作る。
蝶はブローチにしたらいいかな。
蝶々は羽根にいろいろな色や模様を入れて、でも懲りすぎて時間を掛けすぎてしまうので要注意だ。
「すごいすごーい……!」
アリシアは作品ができ上がる度に歓声を上げて喜んでくれた。
手にとって遊びはじめる。
私はあまりにもお客さんが来ないことを逆手に取り、それから数日を掛けてたくさんの作品を生み出し続けた。
でき上がったお花の指輪や蝶々のモチーフを見てカレルさんの目の色が変わった。
相変わらず迷惑そうな表情はしていたが、明らかに目の色が違う。
この人はこんな感じでもやっぱり商売人だから。
宝石商の血を騒がせることができたんじゃないかしら。
「どう?これをね、ブルジョワの奥様方が集まる喫茶店や美容院に置いてもらうの!」
カレルさんはしばらく顎に手を当てて考えていた。
「失敗しても、責任は自分で取れよ」
口ではそう言いながらも、丈の長い外套――日本でも少し前に流行っていたロングコートみたいなものを羽織ってお店の外へ向かう。
「おい、出掛けるぞ」
「え……っ?」
「作ったもの残らず全部持ってこい」
私は慌てて箱にビーズ細工を詰めると、アリシアを連れてカレルさんの後を追う。
本当に言葉数が少ないんだから。
「お前みたいな新米従業員に任せてたら何をされるか分からないからな。『カレル・クラマルス』の名前を使う以上は、それなりの対応をする必要がある」
カレルさんはそれだけ言うと、颯爽と歩き出した。
もしやカレルさん、私の作品売り出そうとしてくれてる……?
目利きの宝石商のお眼鏡に敵ったのだ……!
私の心は躍った。




