第24話:『その顔』でそう言う場所に行くと言うことはお前、完全に自殺行為だぞ。比喩じゃなく、言葉通りの意味だ。もう一回死にたいのか?
「そろそろ諦めたらどうだ?商才がありそうには見えないぞ」
「いやよ!私はアリシアのために自分の力でお金を稼ぐって決めたんだから!」
この店の客層は理解できた。
つまり相手は庶民ではなくお金持ち。先ほどのような王侯貴族や大実業家、と言ったところだろうか。
「うーん……お金持ちが集まるところと言ったら……宮殿?パーティー?サロン?」
「やめておけ……『その顔』でそう言う場所に行くと言うことはお前、完全に自殺行為だぞ。比喩じゃなく、言葉通りの意味だ。もう一回死にたいのか?」
う……っ。仰る通りとしか言いようがない。
やはりそんなにヤバいのか、この女は。
「じゃあ、カフェとか……美容院とかは?」
私はそれが物凄く良い思い付きの気がしてきた。
「私の居た世界ではね、気鋭のアクセサリー作家は、奥様方が集まるカフェや美容院に商品を置いて貰って、認知してもらっていたわ。お金持ちの方も、美容院には行くわよね?」
「まあな。本当の金持ちは家に呼びつけるが、美容院はこの国の文化でもある。着飾って出掛けて、髪を整えて結ってもらう、令嬢にとっては月に一度の一大イベントだ」
カレルさんは苦虫を噛み潰したような顔だ。
面倒事を増やすなとでも言いたげだ。
「言っとくがここの宝石を持ち出すなよ。窃盗されたら大損害だからな……!」
「そんなあ……」
いいアイデアだと思ったのにな。
「おかあしゃま、見て見て……!」
家に帰り、夕飯の支度をしていると、アリシアが何やらいそいそと母に見せる。
「なあに?」
身を屈めてアリシアの示すものを見ると、アリシアの腕に、キラキラと光るブレスレットがあった。
「まあ、綺麗。これはどうしたの?」
「フィーに貰ったの。余りものだからあげるって」
フィドル兄さんに?
おとうしゃまと呼ぶなと言い続けているせいか、最近アリシアはフィドルおじさんのことを「フィー」と呼ぶようになった。
「へえ、良かったわね。とても綺麗。よく見せて」
私はアリシアが渡してくれた小さなブレスレットをしげしげと見た。
ビーズだった。
大小様々、色とりどりのビーズが糸に通されただけのシンプルなブレスレットだった。
これだ……っ!
私はビビっと来た。
「アリシア、ありがとう!!!あなたってやっぱり天才だわ!」
私は思わずアリシアをぎゅうぎゅう抱き締めていた。
アリシアはきょとんとした顔をする。
「善は急げだわ」
私はアリシアを連れて家を出た。
念のため伊達眼鏡を付けてバンダナをマスクのように付けて、我ながら不審者だな、と思いながら街中を歩く。
目指すはフィドル兄さんの工房だった。
勤務はだいたい十八時すぎまでだ。まだ兄は職場にいるはず。
「セティ、君が工房に来るなんて、いったいどうしたの?」
工房に押し掛けた私とアリシアを見て、フィドルさんは目を丸くしていた。
親方さんも、他の職人さん達も、物珍しげに闖入者を見ている。
そりゃ、そうよね、伊達眼鏡に覆面の怪しげな女だもの。
「ごめんなさい、いきなり押し掛けて。でも、思い付いたら居ても立っても居られなくて……」
「いったい何の話だい?」
フィドル兄さんは不思議そうに首を傾げる。
「これ。ビーズよね?アリーがフィドル兄さんに貰ったって。他にも、ある?安価なものなのかしら?」
「ああ、さざれ石だね。天然石をカットした後の破片を磨いて作ったビーズだよ。僕が糸に通してアリーのブレスレットにしてあげたんだ」
「さざれ石?天然石をカットした後の破片?それって、本来廃棄するものってことよね。じゃあ、原価は掛からないの?これって、たくさんある?」
私は興奮して捲し立てていた。
「まあ、厳密に言えば原価はゼロではないけど……新米職人たちに宝石の研磨の練習のために作らせているんだ。たくさんあるよ。これでアクセサリーを作って、街の小物屋なんかに安価に卸したりもしてる」
私は思わずフィドルお兄さんの手を握っていた。
「お願い。分けて欲しいの。私には原資がないから、今は代金を払えないけど、売れたら後払いでいくらか払うわ」
兄は妹の剣幕に、目を白黒させている。
「い、いいけど……別に、代金は構わないよ。原価はほとんどないようなものだからさ」
兄はたじたじだ。
「本当に?やったー!ありがとう。ついでに、テグスとか、ワイヤーとかってないかしら。針金の細いやつ」
「セティは突拍子もないことを言い出すねえ……」
兄は驚いた顔をしながらも、親方さんに掛け合って、私に必要なだけのビーズとテグス(テグスってなんだろう……と言いながら、アクセサリー用の紐をくれた)とワイヤーを分け与えてくれたのだった。




