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嫌われ悪女セレスタが殺された理由  作者: 滝川朗
第三章:ブランド力
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第23話:ヒルダめ。こんな素敵なロマンスグレーにまで手を出していたのか……?

「商売上がったりね……」

 来る日も来る日も、お客さんは全く来なかった。


「本当にあなた、商売する気あるの?」

「だから、言ってるだろう。俺は暮らしていけるだけの金が稼げりゃいいんだよ」

 それにしたって……。これだけお客さんが来ないとなると、その日暮らしていける売り上げもないではないか。


 店に置いている品物自体は、フィドルさんが働いている工房をはじめ、ここラドラック王国の城下街に工房を構える名匠達が作った逸品が集まっているにも関わらず、商売っ気がないせいか、お客さんは全く集まってこない。


「あんたこそ、あんだけ啖呵たんか切ってたわりには、全然じゃないか。さっさと客を連れて来たらどうなんだ?」

 うーん……。それなのだ。


 ひとまず客を連れてくることが肝心だと思い、もちろん私も人通りのありそうな通りに立って、声を掛けてみたりはしたのだが……。


 そもそも高価な宝飾品を買えるだけの余裕のある人などまれだし、身なりの良いお金持ちそうな人達に声を掛けてみても、すでに決まった店があるからとすげなく断られる。


 そりゃ、そうよね……。

 カレルさんの店には、特段変わったものが置いてあるわけでもない。


 市場調査と思って、大通りにあるきらびやかないくつかの宝石店のショーウィンドウを覗いてみたりはしたが、どこも売ってあるものは似たり寄ったりだ。


 繁盛している店は、愛想のいい店員がいるとか、ディスプレイがお洒落だとか、その店にしかないオリジナルな商品を置いているとか、その店その店で工夫を凝らしているからだ。


 それに比べてカレルさんの店と来たら……。

 大通りから微妙に外れた目立たない場所にあるし、小さなショーウィンドウもあるのに、ほこりかぶってほとんど使われていない。


 パッと見宝石店かどうかすら良く分からない。小さな看板にカレル・クラマルス宝石店と書いてあるからかろうじてそれと分かるだけだ。


 この店にしかできない創意工夫と言ったら……。


「あ!そうだ!あなた魔法使いなんだったら、魔法を使ったらいいじゃない。こないだアリシアに見せてくれたみたいな、素敵な演出をしてお客さんをあっと驚かせて見たら……?」


「はあ……っ?」

 カレルさんは呆れ果てたような冷めた顔をする。


「これだから異世界人は……。この世界で魔法が使えるっつったらな……そりゃもう、大変なことなんだぞ……って言うかお前、誰にも言ってないだろうな……?」

 カレルさんは急に慌てた声で言う。


「言ってないわよ……。誰にも言うなって言われたし。そもそもあなた以外の誰かと話す機会なんて無いし」

 魔法を使えることは、そんなに人に知られたくないようなことなのか。

 いまだにこの世界のしきたりやルールは分からないことばかりだ。




 その時、店の扉が開いた。

 晴れた平日の、昼下がりの時間帯だった。


「久しぶりだね、クラマルス卿。店が開いているとの噂を聞いて、思わず来てしまったよ」

 落ち着いた渋い声だった。


 チェーンの付いた眼鏡を掛けて、仕立ての良さそうな貴族風のコートを着た素敵なおじさまだ。


 私がこの店で雇われて初めての客だった。


「これはこれは、ラングトン伯爵」


 は、伯爵……。

 出た!『王侯貴族』ってやつね……!

 このヨーロッパ風世界で言うところの、支配階級というやつかしら。


「おや、珍しい人が居るね。この頃噂を聞かないと思ったけど、こんなところに隠れていたのかい」

 素敵なおじさまは面白そうな顔をして言った。


 ここにもヒルダ・ビューレンを、知る人が。

 しかも一発で見抜かれてしまったではないか。

 カレルさんの魔法はやっぱりあてにならない。


「うむ。薄紅色の髪と翠玉の瞳も悪くないね、似合っている。相変わらず綺麗だ」


 う……っ。ヒルダめ。こんな素敵なロマンスグレーにまで手を出していたのか……?


「もうすぐ孫娘の誕生日なんだ。君のお薦めで何か見繕ってほしい」

 ラングトン伯爵は渋い声でカレルさんに依頼する。


かしこまりました」

 カレルさんは白い手袋をはめると、言葉少なに、しかし今までに見たこともないような真摯な対応でラングトン伯爵に幾つかのアクセサリーのセットを提案した。


「いいね。ではこれにしよう」


 私は目を丸くした。

 あっさりお買い上げだ。


 カレルさんは、アクセサリーの一揃ひとそろいをったレリーフの瀟洒しょうしゃな木箱に収め、丁寧に包装した。

 金貨何枚か知らないけど、物凄い額のお金を現金一括払いでお支払いだ。


「ありがとう、では。そちらの可愛いお嬢さん方も、また会いましょう」

 颯爽さっそうと去っていく後ろ姿に開いた口が塞がらなかった。




「これで数ヶ月は食っていけるな」


 店の外に出て、びしっと四十五度の角度で頭を下げながらお客様を見送っていたカレルさんは、ラングトン卿の姿が見えなくなった途端にくすりと笑いながら言った。


「これで分かっただろう。先代オーナーからのよしみで、ああいう古馴染のお客様が何名かいらっしゃるんだよ。彼らはカレル・クラマルスの名前を信用して買いに来ている。ここに来れば必ず保証書付きの確かな品物を購入できる、とな」


 うう……確かに。

 貴族のお金持ち様からすれば、高いお金を出して偽物を掴まされるリスクよりは、同じ品物でも信用のあるお店から買いたいと思うわよね、ブランド力ってそういうことだ。


「あなたが営業もしないでゴロゴロしている理由が分かったわ」


 寝てても向こうから大旦那様がやって来てくれるなら、こちらから仕掛ける理由なんてないものね。

 下手な営業の仕方をしたら、逆に店のブランドイメージを落とすことにもなりかねない。


 だけど私は、私のお客様を捕まえてきて、品物を売らないことには、給料はもらえないのだ。


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