第17話:これ以上面倒事に巻き込まれるのはうんざりなんだ。
「はあ……っ?」
私は思わずす素っ頓狂な声を上げてしまう。
「絶対に、誰にもいうなよ。これ以上面倒事に巻き込まれるのはうんざりなんだ。お前ら兄妹とも、きっぱり縁を切るつもりだったんだからな……!」
カレルさんはカウンターに肘を突き、頭を抱えるようにして言った。
この人は、私とフィドルさんをはっきり兄妹と言う……。
「俺は魔法使いなんだ。ここだぞ、口外するなと言うのは。俺が魔法使いであることは、絶対に誰にも言うなよ」
そんな、『ここ、テストに出ます』と言う高校教師みたいに言われましても……。
はあ……。魔法使い?
やはり中世ヨーロッパ風異世界だから、この世界にも魔法使いが居るってわけね。
「俺は頼み込まれて、拝み倒されてお前をこの世に転生させた。……というか、お前を転生させたのはあくまで手段であって、本来の目的は、セレスタ・クルールを生き返らせることだった。セレスタは俺が見た時点でもう、事切れてたからな。魂も天国へ行った後だったのか地獄に落ちた後だったのかは知らないが、どこにも見当たらなかった。つまりだ。俺は、魂も既にこの世を去った人間を、蘇らせろと、そんな無茶なことを頼まれたわけだ」
私は思わずアリシアの横顔を見た。
母が事切れていただの、魂がこの世を去っただの、そんな話を聞かされて、ショックじゃないだろうか……。
ところが、気丈なアリーは、顔色一つ変えず、静かにカレルさんの話を聞いている。
まるで、そんなことは百も承知、と言った顔だ。
「魂が別の人間のものになる以上、姿形はセレスタでも、全く別の人間になる。それでもいいのか?と俺は確認した。迷いはないようだった。それで構わない。むしろ、新しい人間に生まれ変わって貰いたいと思っているようだった。無理もないかもしれないな。セレスタは、どうしようもない悪女だったらしいからな」
カレルさんは淡々と説明を続ける。
「だから俺は、異世界から、セレスタと同じ時期に死んだ、魂の質が似ていて、器に適合しそうな女を喚び寄せた、それだけだ。上手く行くかは分からなかったが、お前がそうしてピンピンしているところを見ると、どうやら成功したらしいな」
成功したらしいなって……随分ね、この魔法使い。
上手くいったかどうか、見届けもしなかったなんて。
「いったい、誰なの?貴方にセレスタを蘇らせてくれとお願いした人って……やっぱり、フィドルさん?それに、そもそも、セレスタはなんで死んだの?」
この人なら事情を知っていそうだと思い、私は質問を畳み掛けた。
カレルさんは綺麗な顔をますます憂鬱そうに曇らせ、うーん……と悩ましげに再び頭を抱えた。
「俺の口からは言えない……。いや、セレスタの記憶を失くして、新たな人生を歩むなら、敢えて知る必要もないことだ。変に首を突っ込むと、後悔することになると思うぞ」
カレルさんは忠告するように言う。
「ねえねえカレルさん、いつもの『あれ』見せてよ~」
アリシアが、敢えて私たちの会話を終わらせようとするように割り込んだ。
この子はどこかそういうところがある。
「『あれ』……?」
カレルさんは、迷惑そうな顔をする。
「どうしてもか?」
「うん!見たいみたい……見たいみたい……!」
アリシアは駄々っ子のように言う。
いつも大人しく母や叔父の言うことを聞くアリシアがこのような態度を取るのは珍しいことだ。このカレル・クラマルスと言う魔法使いは、どうやらアリシアにとても懐かれていたようだ。