第15話:職業安定所とか、ないのかな。
私は伊達眼鏡を付け、今日は長い髪を一本の編み込みにして左の肩に流し、アリシアとお揃いの文学少女スタイルになって、意気揚々と家の外へ繰り出した。
大きく伸びをして深呼吸する。
久しぶりに浴びる日差しが眩しくて、ヨーロッパ風の町並みがキラキラしていた。
取りあえず、職を探したいな。
いつまでもお兄さんの脛を齧っているのも申し訳ないし。
でも、そのためには、アリシアを預かってもらえる場所か、アリシア付きでも雇ってもらえる場所を見付けなければならない。
現代日本なら、保育園とかファミサポさんとかあったけど、この世界はどうなんだろう?
シッターさんとか、お手伝いさんとか、雇えないのかな?
職業安定所とか、ないのかな。
それと、誰かにこの黒髪の超絶イケメンの肖像画を見せて、この人がどこの誰だか聞き込みもしてみたい。
でも、これを見せても大丈夫なぐらい信頼できそうな相手がいいな。
高価な代物みたいだから、ほいほい見せたら盗られちゃうかもしれないし。
「ねえ、アリー、どこか、アリーの行ったことのある場所って、ないかな……?」
アリシアはニコニコしながら指差す。
「んとね、あそこ!」
え……っ?あそこって、あれ?
バッキンガム宮殿?
この国の、王様が住んでそうな、素敵なお城よ……?
「あそこ……?」
「うん!あそこ!」
お城に、行ってみるか?
この子の父親誰ですかー?って?
この国の王様と庶民との距離感が、どんなものかは分からないけど、お願いしたら謁見できるような存在なのかしら。
門前払いされるだけかな……。
お城に行ってみるべきか迷いながら、街中をブラブラ歩いていたら、アリシアが突然立ち止まった。
「あ!このお店……!」
「なになに、見覚えある場所なの?」
「うん!おとうしゃまの……じゃなくて、フィーのアクセサリー、売ってるとこだよ!」
おとうしゃまの、アクセサリー……なるほど。
フィドル・クルールは宝飾職人だ。
彼の作る宝飾の、卸し先と言うわけか。
目の前には、一見したら宝石店とは思えない、地味で目立たない一軒家があった。
扉に深緑の黒板のような看板が掲示されているだけだ。
『カレル・クラマルス宝石店』
深緑色の看板に、金色の塗料で書かれた文字だった。
セレスタは、文字が読める。
明らかに日本語じゃないし、いまこうして喋っている言語も日本語じゃないんだけど、そこは転生したからか、セレスタの身体が覚えているのか、この国の言語は何不自由なく自由に使えるみたいだった。
私は意を決して扉を開けた。