第13話:アリシアの父親は誰なのだろう。
こうして私の、傾国の美女にしてキャバレーの踊り子ヒルダ・ビューレン改めセレスタ・クルールにうっかり転生してしまった異世界生活(全世では○女なだったのになぜか娘がいる)が始まったのだった。
養い主兼愛娘アリシアの父親代わりがアンドリューそっくりの兄であること以外、やっていることは専業主婦と同じだった。
掃除、洗濯、食事の準備、それからアリシアの遊び相手になること。
ただ、買い物だけは兄が仕事帰りにしてくるから、絶対に行ってはならないと、口酸っぱく兄に言われていた。
自分と一緒でなければ、家から一切出るなとまで言われていた。
兄は随分と過保護だったけど、まあ、気持ちが分からないでもない。
この間、少しの時間通りに立っていただけであんな騒動になってしまったのだから。
一人で出歩いていて、ヒルダ・ビューレンだと気取られたら、どんな酷い目に遭わされることか。
あの後、兄が出掛けている間に、こっそりとベッドの下を覗いてみたのだが、あの手帳のような、書籍のようなものは、無くなっていた。
私が部屋を綺麗に片付けたことを知った時も、兄はとても慌てていた。
よほど何か、私の目に触れさせたくないようなことが書かれていたのだろうか(もちろんただの猥本であった可能性も捨てきれないけど)。
うーん……怪しい。
兄はまだまだ、何か隠しているような気がする。
自分が居ないところで勝手に出歩くなとあれだけ頑なに言い張ることには、私とアリシアを単に護りたいと言う以外にも、セレスタとフィドルさんの関係について暴かれたくない事実が何かあったりするんじゃないだろうか。
なんだか、もどかしいな……。
結局「ペンダントの君」が誰なのかも分からなかった。アリシアの父親は誰なのだろう。
セレスタは本当にたくさんの男の人生を狂わせた悪女だったのだろうか……。
この女がどんな人間だったのか、知りたいような、知らない方が幸せなような、そんな気持ちだった。