第12話:赤髪が平凡なんだ……。さすがはアニメ世界……。
それからフィドルさんは、私の顔を再び頭巾でぐるぐる巻きにして、工房の裏口から外に出してくれた。
「決めたよ、まずは髪結い屋へ行こう。君の銀髪は目立ちすぎる。平凡な赤髪にでも、染めてみたらどうだろう?」
赤髪が平凡なんだ……。さすがはアニメ世界……。
こうして私は、異世界の美容室へ連れて行かれ、不思議な香りのする毛染め剤を長い銀髪に塗りたくられ、ついでにアリシアの髪にも同じものを塗りたくられ、再び髪を綺麗に洗い落としたら……
「おや?赤毛にしようと思ったんだけど、なんだか微妙な髪色になっちまったね……」
少し恰幅の良い肝っ玉母さん風の美容師さんは、困った顔をして頭を掻いた。
「うん、見事な桃色ですね!」
私は鏡に映ったピンク色の髪の毛に紫の瞳の、絶世の美女を見詰めながら言った。
「うん!まあ、印象はだいぶ変わったし、綺麗な色だから、いいんじゃない?」
フィドル兄さんもそんな無責任なことを言いながら、きっちりとお勘定を払ってくれた。
「ごめんなさい、お金……」
すると兄は手を振って言う。
「お金のことは気にしないでよ。僕は君の兄さんなんだから、君を養う責任が僕にはあるんだよ」
兄は嬉しそうな顔をして言った。
次に、庶民的な服や小物を売っている洋品店へ向かう。
「古着屋さんだよ。安いから重宝しているんだ。好きなものを選ぶといい」
たしかに、売られているのは着古されたような服ばかりだった。
私はせっかく異世界に来て、絶世の美女になれたのに、古着なのね、と少しだけがっかりしながらも、質素倹約な兄の考え方に賛同しながら、目を皿のようにして掘り出し物を探した。
そう言えば転生する前は私も、百均のプチプラコスメが御用達だったし、ファストファッションのお店に足繁く通って、流行りの服を探していたんだっけ……。
アリシアも楽しいらしく、広い店内を歩き回りながら洋服や帽子、カバンや靴などを次々と手に取っていた。
「うん!完璧じゃないか!二人とも、最高に可愛らしいよ……!」
私は薄水色の地味な小花柄のワンピースを選んだ。
ピンクの髪によく似合っている。
ついでに伊達眼鏡も掛けて、ピンクの髪をお下げにしたら、悪女ヒルダ・ビューレンの面影などすっかり無くなった。
おかあしゃまとお揃いがいい!と言うアリシアにも、全くお揃いな物はなかったから、似た雰囲気の小花柄のワンピースを選んでやった。
ついでにアリシアにも伊達眼鏡を買い、お下げを結ってあげたら、文学系美少女親子のでき上がりだった。
洗い替えに、数着の服と肌着を購入したら、古着とは言えかなりの出費になってしまった。
「大丈夫?お兄ちゃん。ほんとに、ごめんね……」
私はごめんねを繰り返す。
貢ぐのは慣れてるけど、貢がせるのは初めてなので、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになってくる。
「だ、大丈夫だよ……思ったよりお金は掛かっちゃったけど、しばらく少し食費を切り詰めれば、なんとかなる……」
兄の顔色が少し悪かった。
うーん……これは……この国の経済状況がどんな感じで、宝飾職人である兄のお給料がどのぐらいなのか、まだ良く分からないけど、家族三人で暮らして行くのなら、私もなんらかの形でお金を稼いだ方が良いのかもしれない……。
そして、できることならばこの子の父親も探し出して、養育費でも払わせないことには……。
帰りに市場で野菜や魚(魚は投げ売りされていた小魚を買った)、パンを買って帰り、私は兄に釜戸の使い方などを教えてもらいながら、野菜を切ったり、魚を焼いたりして夕食を作った。