表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/227

Episode75



ワールド・リーゼのログイン画面を眺めながら、木嶋はスマホを手に取り時間を確認する。

そろそろ瀬良が来る時間だ。


(さて、どうやって説明しようかな……)


適当に理由をつけて誘えば問題ないだろうが、さすがに「勝手にコラボ決めた」とは言いづらい。


そこへ、パソコンに通話の通知が表示される。

瀬良からだった。


「お、ちょうどいい」


木嶋はすぐに応答し、軽く挨拶を交わす。


「おつかれ、瀬良」


『おう、準備できてるぞ』


低く落ち着いた声が返ってくる。瀬良の声を聞くと、木嶋は少しニヤつきながら本題に入った。


「なあ、今日さ、急遽だけど特別ゲストいるから」


『……は?』


一瞬の沈黙の後、瀬良の声が怪訝そうに響いた。


『なんだそれ、聞いてねぇけど』


「まあまあ、そんな怒るなって。楽しくなるぞ?」


『で、誰だよ』


木嶋はスマホをチラリと見て、みなみちゃんの配信をもう一度確認した。コメント欄はまだ賑わっていて、コラボを楽しみにしているリスナーが多い。


「みなみちゃん」


わざと軽い調子で言うと、通話の向こうで瀬良がしばらく無言になった。


『……誰だ』


「え、前話したじゃん!?」


『……』


沈黙が続く。


「みなみちゃんっていう人気VTuber。かわいくて、ゲームもそこそこ上手い。大会終わったあとみなみちゃんについて話したじゃん!?てかお前、Vあんま見ないんだっけ?」


『……あーーー……、ああ、そういやいたな』


明らかにやっと思い出したという返事。


(まあ、こいつがVTuberに詳しいわけないか)


木嶋は苦笑しながら、少しだけ真面目な口調になる。


「でも、結構強くなりそうなタイプなんだよな。ワールド・リーゼをプレイしてるアーカイブ見て見たけど、まだそこまでやり込んでないのに動きは悪くない」


『……だから?』


「だから、ちょっと鍛えてやろうぜ、俺たちで」


さらりと言うと、瀬良が軽く息をつくのが聞こえた。


『……で、なんで俺が巻き込まれてんだ』


「いや〜、勝手にコラボ決めたから」


『は?』


木嶋は悪びれもせず、にやりと笑った。


「さっき配信で、俺がコメントしたら拾ってもらえてさ。ノリで『Irisも一緒に3人でやろう』って言っちゃった」


その瞬間、瀬良のため息がはっきりと聞こえた。


『お前な……』


呆れ果てたような声。でも、拒絶の気配はない。


「まあまあ、そんなに嫌そうな声出すなって。どうせゲームするなら、楽しいほうがいいだろ?」


『……はぁ』


また深いため息。


『別にいいけど、俺、そんな喋らないぞ』


「お前それ、いつものことじゃん」


適当な返事をしながら、木嶋は内心ほっとしていた。


(やっぱり瀬良は断らないよな)


何だかんだ言いながらも、瀬良は面倒見がいい。相手がどんな人間であれ、一緒にゲームをするとなれば、しっかり付き合ってくれるタイプだ。


「じゃ、3人で通話しながらプレイできるように準備しとくから、そっちもよろしくな」


『……ああ』


一旦個人通話を切ると、木嶋は満足げに椅子にもたれかかった。


(さて、これで準備は万端……あとは、どうなるかだな)


瀬良とみなみちゃんがどんな風に絡むのか——それを考えると、木嶋は妙に楽しみになってきた。



***



美菜はゲームの起動を待ちながら、軽く肩を回した。

配信はIrisと漆黒の木嶋@堕天使と合流するために1度閉じ、後でまた配信再開する予定だ。


(まさかこんな展開になるとは……)


木嶋がコメントしてきたときは驚いたが、まさかそのままコラボの話になるとは思ってもいなかった。しかも、Irisまで巻き込んで——。


(……Irisさんってどんな人なんだろ)


大会の試合は少しだけ見ていたが、圧倒的な実力で相手を翻弄する姿が印象的だった。冷静で的確な動き。言葉数は少なかったが、無駄のないプレイスタイルが強く記憶に残っている。


(すごくストイックな人なのかな……?)


ふと、ゲーム画面にフレンド申請の通知が表示された。


「……あ、漆黒の木嶋さん?」


送信者の名前を確認すると、『漆黒の木嶋@堕天使』とある。やはり本人だった。


「うわぁ……改めて見るとやっぱりすごい名前……」


小さく笑いながら承認すると、すぐに通話の招待が届いた。


(よし……!)


美菜は深呼吸をして、通話に参加する。


「こんばんは、みなみちゃんです!」


『お、来た来た。改めてよろしくな!』


木嶋の明るい声が響く。そして、もう一人の存在を意識した瞬間——。


『……よろしく』


低く、落ち着いた声。


(……!)


美菜は思わず画面を確認した。通話に参加しているのは、自分、木嶋、そして——『Iris』。


(え、もう来てたの!?)


あまりにも静かに待機していたため気づかなかった。


「え、あ、えっと……Irisさんも、よろしくお願いします!」


緊張しながら挨拶をすると、少しの間があった後——。


『ああ』


短い返事。


(そっけない……!)


美菜は戸惑いつつも、内心ホッとした。たぶんクールなタイプなのだろう。変に話を振っても迷惑かもしれない。


『Irisはあんまり喋らないけど、気にしなくていいので!』


木嶋が軽くフォローを入れる。


『……別に、喋らないわけじゃない』


『いやいや、今の返事の短さ見てみろよ』


『……』


「ふふっ」


思わず笑ってしまう。なんとなく、2人の関係性が見えてきた気がした。


(こういうやりとり、ちょっといいかも)


緊張はまだ残っていたが、少しずつ楽しくなりそうな予感がしてきた。


そしてふと3人は思った。




(((…なんか聞き覚えのある声だな?)))




なんとなく美菜は心の中で瀬良と木嶋のいつもの姿が思い浮かんでしまう。というより、3人で今話している事がサロンと同じ感じに錯覚してしまうほどだ。


(いやまさかね……?)


漆黒の木嶋@堕天使という名前だが、同じように木嶋と呼ぶ人が美菜には身近にいる。仕事の木嶋友陽と重なって仕方ない。


焦りながらも、聞こうか悩んでいると配信を予定していた時間になったのかアラームが美菜のスマホから響いた。


(いや、違うよね?違う……よね?)


木嶋は特に気にしてない様子で「配信していいよー」と声をかける。

そして木嶋の掛け声と共に配信開始ボタンを美菜は押した。


「じゃあ、改めて……3人でワールド・リーゼ、やりましょう!」


こうして、みなみちゃん、漆黒の木嶋@堕天使、そしてIrisのコラボが幕を開けた——。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ