Episode64
それから数日後、木嶋の面談が決まった。
店長からの返事は早く、「とりあえず会って話してみよう」ということで、木嶋には指定された日時を伝えた。
「やったーーー! 瀬良、ありがと!」
「俺は何もしてないんで、あとは自分でちゃんと話してください」
「まっかせて!」
やたらと自信満々な木嶋だったが、瀬良としては少し不安もあった。
(……ちゃんと普通にしてくれればいいけど)
一応スタイリストとしての実力があるのは確かだ。だからこそ、余計なことを言わずにおとなしくしていれば問題ないはずだが──
(いや、無理か……)
すでに店で働く姿を想像してみるが、騒がしい未来しか見えなかった。
***
面談当日、瀬良はシフトが入っていたので、店に出勤していた。
すると、開店前の時間に木嶋が店に現れる。
「おはよーーー!」
「お前、もう店の人間みたいなテンションやめろ」
「え、ダメ? もう気持ちは仲間なんだけど?」
「まず面談を受けてからにしてください」
そんなやり取りをしていると、店長が奥から出てきた。
「お、君が瀬良くんの言ってた子?」
「あ、はい! 木嶋友陽です! よろしくお願いします!」
さっきまでの軽いノリはどこへやら、しっかりと礼儀正しく挨拶をする木嶋。
(……ちゃんとできるんだ)
少し意外だったが、まあ当然といえば当然か。
「いいねぇ〜!じゃあ、中で話そうか」
店長が案内し、木嶋は「いってきまーす!」と軽く手を振って面談へと向かった。
瀬良はその背中を見送りながら、大丈夫か……?と少しだけ心配になりつつ、自分の準備に戻るのだった。
***
面談が終わったのはそれから三十分後だった。
木嶋が戻ってくるなり、満面の笑みで瀬良の肩を叩く。
「やったーーー!!!」
「……何が?」
「採用決定!!!」
「……まじ?」
まさかの即採用。
「店長、めっちゃ気に入ってくれた! 俺、来週からここで働くことになったよ!」
「いや、展開早すぎません?」
「俺もびっくりした! でも店長が『明るくていいね! こういうの大事だよ!』って言ってくれてさー!」
(……いや、確かにうちの店、こんな元気なやつ少ないけど)
実際、店長は「雰囲気のいい店づくり」を大事にしているし、接客の明るさも重要視している。木嶋の性格は、そういう意味では店に合っていたのかもしれない。
「というわけで、瀬良、これからよろしくな!」
「いや俺に言われても……」
「だって同期みたいなもんじゃーん!」
「……同期……ではないだろ」
(なんか……やっぱり騒がしくなりそうだな)
そんなことを思いながらも、悪い気はしなかった。
こうして、瀬良の職場に新たな「仲間」が加わることになったのだった。
***
面談を終え、すっかり店に馴染んだ様子の木嶋は、瀬良の隣に立ってシフト表を覗き込んでいた。
「お、俺来週から月曜と木曜休みか~。瀬良は?」
「俺はシフト固定じゃないから、その週ごとに変わりますね」
「そっかー、まあでも、シフト被ること多そうだね! よろしくね!」
「……まあ、よろしくお願いします」
「……いやさ」
「はい?」
「なんか、瀬良が俺に敬語使ってんの違和感あるんだけど」
「そうですか?」
「いや、てか俺のほうが年上か年下かも知らないのに敬語なの?」
「まあ、初対面だったし、木嶋さんの事知らなかったので。それにゲームでは基本敬語使うようにはしてるし……」
「じゃあ今知ろうよ、歳いくつ?」
「俺? 27ですけど」
「……えっ」
木嶋の動きがピタリと止まった。
「ちょ、待って待って……俺26なんだけど」
「……1個下?」
「うん……てことは、俺が年下……?」
「みたいですね」
瀬良が淡々と答えると、木嶋は一瞬だけ呆然とした後、ガシガシと頭をかき乱した。
「えええーーー! 俺、かなり年上だと思ってたのにーーー!」
「なんでですか」
「だって俺の方が落ち着いてるし、なんか大人っぽいし!」
「……どの辺が?」
瀬良は本気で木嶋が何を言っているか分からなかった。
「ていうか、今まで普通に敬語で話してたけどさ……俺が年下なら、敬語いらなくね?」
「まあ……確かに」
考えてみれば、木嶋とはすでにゲームで長い付き合いがある。わざわざ敬語を続ける必要もないし、むしろこのままだと妙に距離がある感じがしてしまう。
「じゃあ、もうやめるか」
「おお! じゃあ、今日からタメ口な!」
「了解」
「いや『了解』って、なんかまだ硬いって!」
「はいはい」
「それもなんか適当~!」
文句を言いながらも、木嶋はどこか楽しそうだった。
(……まあ、悪くはないか)
瀬良も内心、少し気が楽になった気がした。
こうして二人の距離は、少しだけ縮まったのだった。




