Episode63
スマホを手に取り、店長の連絡先を開く。
(……さすがにいきなり「明日履歴書持ってきます」は無茶だろ)
とりあえず、木嶋が転職を考えていて、うちの店に興味を持っていることを伝えることにした。
──『お疲れ様です。突然ですが、自分の知り合いでスタイリストをやってる人がいて、転職を考えてるらしいんですが、うちの店って今スタイリスト枠空いてます?』
送信ボタンを押してスマホを置くと、目の前の木嶋がソワソワしていた。
「なになに? もう聞いたの? なんて送ったの?」
「普通に、スタイリスト枠空いてるかって聞いただけです」
「おお~! さすが行動早いね! 俺、そういうのめっちゃ大事にするから!」
(お前の評価とか別にいらないけどな)
とは思ったが、言わないでおいた。
しばらくすると、スマホが震える。
──『今すぐってわけじゃないけど、いい人がいるなら会ってみたいな。スタイリストなら経験もそれなりにあるはずだし』
「店長、会ってみたいってさ」
「マジで!? よし! じゃあ明日行く!」
「いや、まずは面談の日程決めないと」
「じゃあ明後日!」
「いや木嶋さんの都合だけで決めないでください」
「え~、でも行けるなら早いほうがいいでしょ?」
「まあ、それはそうですけど……」
木嶋は本気らしい。適当に言ってるわけではなさそうで、むしろ目を輝かせている。
「Irisと一緒に働けるとか、最高じゃん!」
「いや、俺は採用権ないんで」
「でも、Irisが「こいついいっすよ」って言ったらさ、店長もちょっとは考えるでしょ?」
「まあ……」
その可能性は否定できない。瀬良の評価が店でそれなりに高いのは自覚しているし、普段から真面目にやっている分、ある程度の信用はある。
木嶋が本当に優秀なスタイリストなら、店にとっても悪い話ではない。
(……ま、どうなるかは店長の判断次第だな)
「じゃあ、また店長と話して日程決めるから、それまで待てください」
「はーい!」
妙に素直に頷く木嶋に、瀬良は少し肩の力を抜いた。
とりあえず、面談の話はまとまりそうだ。
それにしても──
(木嶋さんがスタイリスト……か)
今まで一緒にゲームをしてきたが、仕事の話はほとんど……いや全くしたことがなかった。
まさか同業者だとは思ってもみなかったし、ましてや一緒に働くことになるかもしれないとは、もっと予想外だった。
(……まあ、それはそれで楽しそうかもな…)
もし木嶋がうちの店に入ることになったら、美菜も驚くだろう。
そして、そのときには──
(さすがに、「木嶋が“漆黒の木嶋@堕天使”」ってことは黙っておくか)
瀬良は内心でそう決めるのだった。




